goo blog サービス終了のお知らせ 

見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。
【はてなブログサービスへ移行準備中】

眼にも楽しい/舞楽・太平楽、古鳥蘇

2017-02-27 00:29:35 | 行ったもの2(講演・公演)
国立劇場 2月雅楽公演『舞楽:太平楽(たいへいらく)一具/大曲 古鳥蘇(ことりそ)』(2月25日、14:00~)

 毎年、この時期に行われる宮内庁式部職楽部の舞楽公演に行ってきた。今年は私の大好きな「太平楽」が演じられると聞いて、絶対に行きたいと思った。

 「太平楽」は左方(オレンジ色を着る)の式舞。私は、たぶん今上天皇の御即位十年記念の宮内庁楽部公演(1999年)が初見、2012年の『四天王寺の聖霊会 舞楽四箇法要』公演が二度目、2013年に『天理大学雅楽部 北海道公演』でも見ている。国家の慶事には必ず演じられる舞で、人気も高いのだと思う。

 プログラムの解説によると、「調子」「道行(朝小子/ちょうこし)」「破(武昌楽/ぶしょうらく)」「急(合歓塩/がっかえん)」「急 重吹/しげぶき」から構成される大曲で、今回は全曲を通して演奏されるが、一般にはその一部を省略することが多いとのこと。確かに、今回、思ったより長い感じがした。

 「文化デジタルライブラリー」の解説を参考にすると、舞人が入場する前の前奏曲が「調子」。次に「道行」の演奏に合わせて、鉾を携えた四人の舞人たちが舞台に上がる。「破」(ゆるやかなリズム)では、前半、鉾を床に横たえて空手で舞う。両手とも人差指と中指だけをピンと伸ばしたかたちを崩さない。剣印とか刀印とかいうのだそうだ。途中からは鉾を持って舞う。「急」(速いリズム)では、再び鉾を横たえ、太刀を抜いて舞う。雅楽にしては、かなり動きが速い。最後は、再びゆるやかなリズムに戻り、鉾を掲げ、大地を踏み固めて退場。

 さすが宮内庁楽部で、衣装は豪華絢爛であった。優雅なオレンジ色の長い裾(きょ)、純白の沓(くつ)、そして金銀の鎧・兜がキラキラ光る。プログラムに楽部の方が体験談を書いているが、兜と頭の間に空間があるので、鐘の真下にいるような状態になり「ゴーン」と音が鳴り響いて聞こえるとか、鎧は革製の小札(こざね)で出来ているので動くと「ミシミシ」軋む音がするとか、舞台に立たなければ分からない苦労がしのばれて興味深かった。動物の顔をした肩喰(かたくい)、帯喰(おびくい)は、舞人によって違う顔形をしているのだそうだ。二階席からでは、とても判別できなかったけれど、覚えておこう。

 「古鳥蘇」は右方高麗楽。たぶん初めて見た。右方だから緑色の衣装で登場すると思っていたら、緑色の袍は肩脱ぎしていて、下襲の袖口のオレンジ色が目立つ。巻纓老懸の武官の冠。六人舞。長い袖をひらめかせながら、深く腰を落として、ゆっくり左右に移動しながら舞う。六人が順々に退場して、これで終わりかと思ったら、二人が何か不思議な得物を持って再登場した。長煙管の先に白い毛が植わった、細い払子のようにも見えるもので、後参桴(ごさんばち)というのだそうだ。これを振りながら二人で舞って終わった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

悲惨な人々/文楽・曽根崎心中、冥途の飛脚

2017-02-22 22:01:59 | 行ったもの2(講演・公演)
国立劇場 開場50周年記念2月文楽公演「近松名作集」(2月18日、14:30~、17:00~)

・第2部『曽根崎心中(そねざきしんじゅう)・生玉社前の段/天満屋の段/天神森の段』

 先々週の第1部に続いて、第2部と第3部を鑑賞。曽根崎心中は、上演時間がコンパクトで、登場人物が少なくて、分かりやすくて面白い。名作だと思う。ただ、初演と現在の上演形態には、ずいぶん違いがあることを、本公演のプログラムの中で咲太夫さんが語っていらっしゃる。復活初演当時は、『曽根崎』一本だけではやっていけない(出演者全員に役が振れない)ので、一度に何本も狂言をかけるため、コンパクトにまとめた。「今、国立劇場で復活すれば、おそらく初演のまま、原本のままでやったでしょう」というが、どちらがよかったかは分からないなあ。

 それから最後の道行の場面は「外国で上演してから、完全に変わりましたね。徳兵衛がお初を刺して、あと喉を切って、あの振りは初めはなかったわけですからね」「(それは作曲者の松之輔師が亡くなったあとのことで)もし生前でしたら、あれだけの鬼才の人ですから、あの振りをするんだったらもっと曲を工夫されていたと思いますよ」「今、変えようがないからシャリンシャリンを伸ばして弾いている」とのこと。この話、初めてきちんと知った。

 『曽根崎』は学生の頃から何度も見ているのだが、初見は「相対死に」の振りのない演出だった。二度目はこれがあって、二人が折り重なるように倒れる幕引き、「シャリンシャリン」の伴奏とともに衝撃を受けたことをよく覚えている。1988~89年くらいかなあ。いちばん最近見た2012年の大阪公演も、このパターンだったように思う。実は、今回は、絶命までいかず、徳兵衛が覚悟の刀を抜いたところで柝(き)が入り、幕となった。このパターンだと、あ、あれ?そっちか、と感動のタイミングを外されて、物足りなさが残ってしまう。鑑賞の前に「本公演は〇〇版で上演」と分かっているといいのかもしれない。

 人形は徳兵衛を玉男、お初を勘十郎。2012年は徳兵衛を勘十郎、お初を蓑助だったなあ。語りは生玉社が文字久太夫、天満屋が咲太夫。2016年にドラマ「ちかえもん」を見た記憶が薄れていないので、どうしてもドラマの配役の顔が浮かび、「お初」「徳さま」にニヤニヤしてしまった。

・第2部『冥途の飛脚(めいどのひきゃく)・淡路町の段/封印切の段/道行相合かご』

 これも何度か見ている演目。『曽根崎』に比べると、若い頃は面白さが分かりにくかったが、だんだん好きな狂言になってきた。お初徳兵衛が、非の打ちどころのない悲劇のカップルであるのに比べて、梅川忠兵衛は、少なくとも忠兵衛は自業自得すぎる。だがそこがよい、それでこそ人間である、と言えるようになるには、それなりの成熟が必要であると思う。

 淡路町の口は松香太夫休演のため咲甫太夫が代演。第3部は床のすぐ下の席だったので、咲甫さんファンの私は、思わぬ得をした気分だった。奥(羽織落とし)は呂勢太夫。封印切は千歳太夫。梅川は清十郎、忠兵衛は玉男。こういうダメな男演ずる玉男さんはわりと好き。幕間に近くの席にいた男女が「何これ」「だめんずじゃん」みたいな会話をしてるのが聞こえて可笑しかった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

清盛と後白河院も登場/文楽・平家女護島

2017-02-08 21:24:21 | 行ったもの2(講演・公演)
国立劇場 開場50周年記念2月文楽公演「近松名作集」第1部(2月4日、11:00~)

・第1部『平家女護島(へいけにょごのしま)・六波羅の段/鬼界が島の段/舟路の道行より敷名の浦の段』

 国立劇場2月文楽公演は、久しぶりに「近松名作集」を称して、人気の高い演目が並んだ。なんとか全公演のチケットを入手することができたので、公演初日に第1部を鑑賞してきた。舞台下手の端だが最前列の席だったので、近眼の私にも人形がよく見えて楽しかった。第2部と第3部は別の日に行く予定で、これはできるだけ床に近い席を取ってある。

 『平家女護島』は、「鬼界が島の段」のみ上演されることが圧倒的に多く、本公演と同じ形式で上演されたのは、平成7(1995)年以来だという。私も「鬼界が島の段」は何度か見た覚えがあるが、あとは初見だった。「六波羅の段」では、俊寛の妻・あずまやが入道清盛に横恋慕されるが、操を立てて自害する。情義をわきまえた能登守教経は「でかした」と称賛して、あずまやの首を清盛に差し出す。能登守教経は『義経千本桜』でもいい役だったなあ。

 場面変わって「鬼界が島の段」。孤島で暮らす流罪人の俊寛、平判官康頼、丹波少将成経の三人。昨年、大徳寺境内で康頼の供養塔を見たことを思い出す。俊寛を和生、康頼を玉志、成経を勘彌で、白髪頭が並ぶのが、少し気になる。最近は全て出遣いだけど、ほんとにこれでいいんだろうか。成経を慕う、海女(漁師の娘)・千鳥を蓑助。いや~かわいい、色っぽい。でもたまには娘役以外の蓑助師匠が見たい。和生さんの俊寛は、なんというか、枯れた感じがよかった。

 さて、しばらく船路の道行の詞章を楽しみ、次の幕があがると敷名(しきな)の浦。俊寛の郎党・有王丸は待ちかねた流人船に声をかけるが、主人の俊寛が乗っていないことを知り、悲しみにくれる。そこに立派な御座船。「清盛様、鳥羽の法皇を連れまして厳島御参詣」と語られる。配役は清盛と後白河法皇となっていたのに「鳥羽の法皇」と聞こえたので、あれ?と思った。でも後白河院も鳥羽にいたから、こう呼んでいいのかしら。

 この清盛が見事な極悪人で、後白河法皇に対し「俊寛を始め人を語らひ、ぬっくりとした事たくまれし」と怒りをぶつけ、「根性腐っても王は王、手にかくるは天の畏れ」なので「サア身を投げ給へ」とつめよる。法皇が嘆きのあまり「入道が心に任すべし」というと、清盛は「院宣は背かじ」と法皇を引き寄せ、真っ逆さまに海へ投げ入れてしまう。いや、史実の後白河法皇はこんなに心弱くないと思うが。

 あわや海に沈まんとする法皇を助けたのは、水練に巧みな海女の千鳥。しかし激怒した清盛は熊手で千鳥を引き上げ、頭を微塵に踏み砕いてしまう。千鳥の骸から現れた火の塊は清盛に取りつく。いろいろな物語や古伝説の要素が巧みに使われていて、興味深い。熊手で海から女性を引き上げるのは、もちろん、平家物語の建礼門院の逸話を取り込んでいるし。近松は、30代で出世作となる『出世景清』を書き、晩年にまた源平時代に取材した『平家女護島』を書くのだな。平家物語、好きだったんだろうか。

 最後は太夫さんがずらりと並ぶ賑やかな舞台で、咲甫さんの声がやっぱり好き。咲寿さんもずいぶんいい声になったなあ。本公演のプログラムに豊竹咲太夫師のインタビューが掲載されていて、「曽根崎心中」の演出の変化などの話も興味深いのだが、「人形さんはうまく世代交代ができていますが、太夫は難しい」「やっぱり五十の声を聞かないと、我々の言葉でいう『映らない』ですね」という発言が印象に残った。そうそう、太夫は五十からですよ。でも、しっかり稽古をしていなければ、五十から急に巧くなるものでもない。芸の道は厳しい。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ケレンと人情/文楽・奥州安達原、染模様妹背門松、他

2017-01-15 23:56:47 | 行ったもの2(講演・公演)
国立文楽劇場 平成29年初春文楽公演 第1部(1月14日、11:00~、16:30~)

・第1部『寿式三番叟(ことぶきしきさんばそう)』『奥州安達原(おうしゅうあだちがはら)・環の宮明御殿の段』『本朝二十四孝(ほんちょうにじゅうしこう)・十種香の段/奥庭狐火の段』

 明けましておめでとうございます。正月は大阪文楽劇場の初春公演を見に行くのが、すっかり定例になってしまい、これがないと年が明けた気がしない。今年も舞台の上には「にらみ鯛」と「大凧」。大凧の文字は、生國魂神社(大阪市天王寺区)の中山幸彦宮司による「丁酉」。



 第1部は「国立劇場開場五十周年を祝ひて」目出度く『寿式三番叟』で幕開け。舞台の後方の雛壇に三味線と太夫、9名ずつが並ぶ。中央は呂勢太夫と鶴澤清治。三番叟は一輔(又平)と玉佳(検非違使、イケメンのほう)。かなり激しい動きで長い時間、動き続けるので、これは体力がいるなあと思った。あとで劇場1階の展示室をのぞいたら、過去の『寿式三番叟』のダイジェスト映像をつないだものが流れていて、文雀さんと先代の玉男さん(左を遣っているのが今の玉男さん)、蓑助さんと勘十郎さん、かなり若い桐竹紋寿さん、吉田文吾さんなど、懐かしい映像を見ることができて嬉しかった。

 『奥州安達原』は題名だけ知っていたが、初めて見た。安倍貞任、宗任兄弟と源義家が登場する。史実を大胆に改変して虚構の物語世界をつくっているわけだが、その設定がかなり複雑なので、幕間にプログラムの解説を読んでおかなかったら、全く分からなかっただろう(久保裕明先生の「ある古書店主と大学生の会話」が分かりやすい)。しかし、親に隠れて安倍貞任(仮の名を桂中納言則氏)と通じて子をなした袖萩は、あそこまで罵倒されなければならんのか。町人の娘ならともかく、武士の娘たるもの、というのだが、封建社会は面倒くさい。もちろん義理をいうのは建前で、父も母も、内心には娘への愛情を持っているのであるが。

 『本朝二十四孝』も、私は何度か見ているので人物関係が分かっているが、今回の上演部分だけだと理解しにくいのではないかと思う。隣のおばさんが「よう分からんわ」とぼやいていた。しかし筋が分からなくても、火の玉とか早変わりとか、ケレンたっぷりで目に楽しい演目である。勘十郎さん、くるくるよく回るので、振り回される左遣いと足遣いが大変そうだった。蓑助さんの腰元濡衣は、やっぱり格段に色っぽい。

・第2部『お染久松 染模様妹背門松(そめもよういもせのかどまつ)・油店の段/生玉の段/質店の段/蔵前の段』

 第2部はあまり期待していなかったのだが、かえって第1部より面白かった。世話物は、時代物と違って込み入った設定もないし、詞章も平易なので耳で聞いてほぼ分かる。「油店の段」は、中を咲甫太夫、切を咲太夫。咲甫太夫さんの声も好きだが、咲太夫さんの芸がすばらしい。老若男女、十人に及ぶ個性的な登場人物を語り分けながら、旬なギャグも挟んでくる(誰が書いているのだ?)。人形は、失敗ばかりの小悪党の善六を勘十郎さん。笑いを誘う役が本当にうまい。久松の父親・久作は玉男さんで、こういう頑固で実直な百姓役がよく合うように思う。

 物語は、途中の「生玉の段」が全て夢であったというのが、ちょっと面白い趣向。それから、お染久松の恋敵(お染の嫁入り先)の山家屋清兵衛というのが全く悪人でなく、むしろ人格者というのが面白かった。でもお染にとっては、大人(おとな)の山家屋より、いたずら者で将来のない久松のほうが魅力的なんだろうな。蓑二郎さんのお染は娘らしく可憐で、しかも色っぽかった。これから注目していこう。

↓1階ロビーに置かれたにらみ鯛。


↓開演前、床(太夫と三味線が登場する台)に飾られた大阪風のお供え餅。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

山下裕二先生 vs 山口晃画伯トークイベント「雪舟 vs 白隠」(東京国立博物館)

2016-11-05 22:51:56 | 行ったもの2(講演・公演)
東京国立博物館 トークイベント『雪舟 vs 白隠 達磨図に迫る』(2016年11月3日 13:30~15:00)(講師:山下裕二、山口晃)

 東京国立博物館で開催中の特別展『禅 心をかたちに』の関連トークイベントを聞きに行った。山下裕二先生と山口晃さんだから、絶対面白いだろうと思っていたが、期待以上だった。トークの前にお坊さんの指導で、15分ほど椅子坐禅を体験。それから両講師の登場となる。進行の主導権を取っていたのは山下先生。まあそうだろうな。6月に藤森照信先生と山口晃さんのトークイベントを聞いたときは、年長の藤森先生が仕切っているように見えて、根が自由人なので、山口さんがハラハラしている感じが面白かったが、今回は山下先生が安定のツッコミ、山口さんが鋭いボケの関係でバランスが取れていた。

 はじめに山下先生が、スライドを使って山口画伯の画業を紹介。20年位前、山下先生は山口さんの最初の個展を見に行って、会っているのだそうだ。あの頃は極貧だけど時間はたっぷりあったよねえ、などと回想。それから『邸内見立 洛中洛外図』や富士山世界遺産センターに掲げられた『冨士北麓参詣曼荼羅』などの作品について、画伯ご本人の解説や裏話を聞く。最後に、前日の11月2日から始まったミヅマアートギャラリーの個展『室町バイブレーション』の会場風景を映して、制作が全然間に合っていないことを紹介。山口さん、会場の一角でまだ「描いている」そうで、会期の終わり(12月)には、もう少し展示作品が増えるはずとか。

 続いて「雪舟 vs 白隠」の話題に入り、雪舟の『慧可断臂図』と白隠の代表的な彩色の『達磨図』(大分・万寿寺)を示し、「どっちが欲しい?」と山下先生。山口さんは即答で雪舟を選びながら、「でも、こっち(白隠)も管理にあまり気を使わなくていいから楽かも…」とよく分からないフォローを入れるのが可笑しい。山下先生の話では、むかしこれは雪舟の真筆ではないと考える学者もいて国宝になっていなかった(僕の先生の先生、とおっしゃっていたな)、それはおかしいと言い続けて、2004年にようやく国宝指定になった、云々。そういえば山下先生は、著書『驚くべき日本美術』でも2002年の『雪舟展』の裏話を暴露していらした。それから本展には出ていないが、雪舟の代表作『天橋立図』や『秋冬山水図(冬景図)』や『四季山水図巻(山水長巻)』について二人とも熱く語る語る。この黒々した墨色が、とか、このわずかな朱線が、とか、この墨継ぎの跡が、とか、こだわりの細部を拡大したスライドもたくさん用意されていて楽しかった。

 雪舟について30分ほど語り、残り30分が白隠で、なんて的確な進行と感心したが、「白隠は10分でも」と小声で山口さん。やっぱり雪舟に対するほどの思い入れはないのだな。山下先生は、引き続き熱く語る。そういえば「東博は白隠に冷たい」ともおっしゃっていた。山下先生の好きな白隠作品を次々に紹介。『隻履達磨』『達磨像(どふ見ても)』『大燈国師像』など、これ好きなんだよ!とおっしゃる。私は、白隠の絵は受けつけ難いものもあるのだが、今回、山下先生が挙げた作品はどれも好きだ。禅宗のスタンダードである円相の横に堂々と「遠州浜松良い茶の出どこ」云々と賛をつける、というあたりで、みんなで爆笑する。いや楽しかった。

 白隠30分で予定どおりかと思ったら、本当は山下先生は、白隠の奔放不羈な達磨図が、若冲や蕭白に影響を与えたのではないか、という話までしたかったらしい。そこは駆け足になってしまったが、またいつか詳しく聞きたい。最後に『日本美術応援団』シリーズの新刊紹介で、表紙は団員3号に加わった井浦新さんと山下先生の伝統の学ラン写真。「こういうの、どうなの?」と山下先生から聞かれて「いや、(赤瀬川さんが亡くなられて)どうなるのかと思っていたら、様子のいいのがサッと入られて」と山口さん(様子のいいのってw)。「入る?」と迫られて「じゃ、団員2.8号くらいで」と答えていらした。おお、ぜひ三人でトークセッションを。しかし「日本美術応援団」が世に出た頃は、こんなに日本美術が注目される時代が来るなんて、思ってもいなかったなあ。

 これにてトーク終了と思ったら、「ささやき女将」みたいなのが舞台袖にいて、色紙を差し出し、山口画伯に「達磨図」を描かせる! うわ、初めて見るけど「席画」ってやつか。ここからは写真撮影OKで、ぜひ皆さん、SNSで発信してください、とのことなので、載せておく。



※会場の様子と山口画伯が描いた「達磨図」はこちら(公式ホームページ)。

 なお、今回のトークイベントは全席指定の予約制(有料)だった。個人的には何時間も並ぶより、こちらのほうがいいと思う。しかし、トークイベントのチケットが「展覧会の鑑賞券付」であることが分かっていなくて、展覧会を見ずに帰ってきてしまったのは大失態。いや~『慧可断臂図』が後期出品なので、行くなら11月8日以降と決めていたもので。

 本館はいろいろ珍しいものが出ていた。特集展示『歌仙絵』(2016年10月18日~11月27日)には、佐竹本が5件(坂上是則、住吉大明神、小野小町、壬生忠峯、藤原元真)。安土桃山~江戸の書画が、狩野派描く「帝鑑図屏風」や「歴聖大儒像(孔子)」などを小特集していたのも面白かった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中国現代事情と中国絵画史/東文研公開講座「アジアの策」

2016-10-19 21:48:29 | 行ったもの2(講演・公演)
東京大学東洋文化研究所 第16回公開講座『アジアを知れば世界が見える-アジアの策』(2016年10月15日)

 毎年、秋に行われる同研究所の公開講座も16年目。私は、第10回(2010年)に参加して以来、久しぶりに聞きに行った。会場は研究所内の大会議室だった。

■中国台頭の国際心理:内外の温度差を中心に(園田茂人)

 午前の部は、社会学者の園田先生から。いくつかの社会調査をもとに、中国台頭をめぐる「国際心理」について解説する。国際政治や経済を研究していると、同じ事象を見ているのに、集団によって違うことを考えている場合がある。たとえば、中国の大国化に対して、日本人や台湾人は脅威を感じているのに、韓国の大企業の関係者は、ポジティブなビジネスチャンスと捉えている人が多い。ただし韓国人の中でも、企業関係者と学生では感じ方が異なる、など。

 日本人は「中国共産党はヤバい(崩壊が近い)」的な週刊誌の記事を好んで読むけど、日本の中国研究者はそう思っていないし、まして中国の人々は全くそう思っていない。また、日本人が「世界は中国をこう見ている」という予測(期待)は、必ずしも当たっていない場合がある。

 ということで、日本・韓国・台湾・香港・タイ・ベトナム・フィリピン・インドネシア・シンガポール、それに中国四都市と中国の大学生を対象に「中国の台頭は世界の秩序を脅かしている」等々の設問に対する回答(大いに賛成・賛成・反対・大いに反対)を比較していく。すると、国・地域によるばらつきはあるが、「中国国内」の回答(上記なら、反対が大多数)と「中国以外」の回答には、明らかな温度差がある。しかし、中国市民の回答を「外国との接触経験の有無」によって6段階にクラスタ分けすると、外国との接触経験が多い市民ほど「中国以外」の結果に近くなる。

 こんな感じで、いくつかの質問を分析するのだが、講師から「なるほど」という分析が聞ける場合もあれば、講師も「なんでこういう数字が出るのか分からない」と首をひねるケースもある。非常に面白かったのは、「アジアへの影響力という点では中国はアメリカを凌駕するだろう」という設問に対して、中国の大学生の「大いに賛成・賛成」の率は意外と低い。台湾とかタイのほうがずっと高いのだ。これは、中国の高学歴層にとってアメリカは留学をめざす憧れの国だと聞くと納得できる。

 園田先生は東大の国際本部長をされていて、サマープログラムで学生を台湾や香港に連れていくこともあるそうだ。台湾のひまわり学生運動や香港の雨傘運動の指導者と東大の学生が同席したが、全く話が噛み合わなかった(日本の学生に世界が見えていない)というエピソードも紹介してくれた。こういう地道な研究には金と手間ひまがかかるんです、というようなこともおっしゃっていたが、ぜひ今後の変化の観測も続けていただきたい。

 園田先生の本は、ずいぶん昔に1冊だけ読んでいた。『不平等国家 中国』(中公新書、2008)で、非常に面白くて、他人に勧め回ったことを記しておく。そして、最近の著作も読んでみようと思った。

■明末杭州の画家・藍瑛-その家族と工房の経営戦略-(塚本麿充)

 午後の部は、中国絵画史の塚本先生から。中国では、伝統的に画家は資産家か官僚か職業文人で、売り物ではない趣味の絵を描くのが正しいありかたとされた。藍瑛(1585-1664以降)は、貧しい家に育ち、職人として頭角をあらわし、ヒット商品を生み出し(華麗な色彩と大胆な構図による大幅、文人好みの倣古主題)、大規模な工房を経営し、家族や弟子に家学を伝えて、明末清初の動乱期を生き抜いた。

 非常にたくさんの作品(図版)をパワポで見せていただいたのは、ありがたかった。世間に「藍瑛筆」で流通しているものが、真筆か工房の作かという判断は、結局「うまい/へた」に帰着してしまうという点を、講師も苦笑していたが、美術史というのはそういう学問なのだから仕方ない。とは言っても、客観的な指標はないものかと考えて、絹の材質(織り目)を比較しているというのも面白かった。

 明の滅亡後、藍瑛一族は清朝宮廷に近づこうとした形跡があるが、十分な成果は得られなかった。一方、正統派山水画を得意とした王氏一族(四王呉惲)は清朝宮廷に認められることに成功する。これによって、在野の文人のたしなみであった山水画が宮廷の正統絵画となる。ほかにも龔賢とか石涛とか、不確実な時代を必死に生き抜いた画家たちを、全て「遺民画家」という虚像で見てしまうことの危うさを講師は指摘された。

 周世臣は、藍瑛の弟子の中では最も社会的地位が高かったが、明の滅亡後は世間との交際を絶ってしまう。このひとの作品(山水図)を、講師の郷里である福井の永平寺で見つけた話には興奮した。いやー日本には、まだまだ明清の知られざる絵画が眠っているんだな。

 講師は、もともと大和文華館の学芸員時代、正統派の山水画を研究対象としてきたが(知ってます)、東京国立博物館に移ってその収蔵庫(くら)を調査することになり、藍瑛など浙江画壇(非正統派)の作品がたくさんあることに驚いたという。日本の中でも関西の中国絵画コレクション(内藤湖南が指導した)は正統派山水画が中心で、東京とはだいぶ違うらしい。東アジア的な視野でいうと、朝鮮には正統派山水画が多いのに対し、日本には近代まで正統派が入らず、むしろ浙江画壇の作品が好まれ、浦上春琴や谷文晁らに影響を及ぼしている。面白い~。こういう広域の美術史、もっと知りたい。

 なお、この日は東大のホームカミングデイで、研究所の向かいにある懐徳館庭園(旧加賀藩主前田氏本郷本邸に起源を持つ)が、2015年03月、国の名勝に指定されたことを記念して、一般公開されていた。5月に常設展のリニューアルをした総合研究博物館も久しぶりに見てきた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

夏は笑いと血みどろ芝居/文楽・薫樹累物語、伊勢音頭恋寝刃、金壺親父恋達引

2016-08-02 00:15:48 | 行ったもの2(講演・公演)
国立文楽劇場 夏休み文楽特別公演(14:00~、19:00~)

・第2部【名作劇場】『薫樹累物語(めいぼくかさねものがたり)・豆腐屋の段/埴生村の段/土橋の段』『伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)・古市油屋の段/奥庭十人斬りの段』

 金曜に仕事で京都出張が入ったので、土曜日の公演のチケットを取って見てきた。累(かさね)といえば、醜く恐ろしい怨霊の物語だと思っていたので、江戸後期の趣味かと思ったら、『薫樹累物語』は寛政2年(1790)初演というので、わりと古い作品だ。国立文楽劇場では14年ぶりの上演(東京では1972年以来。そりゃ私が初見のはずだ)。開演前にプログラムをパラパラ見ていたら、いわゆる怪談話ではない、ということが書かれていた。おや、そうなのか。

 豆腐屋の段。力士の絹川谷蔵は、傾城・高尾に溺れて政治を省みない主君を思うあまり、高尾を殺してお尋ね者になっている。高尾の兄・三婦(さぶ)の豆腐屋で高尾の法要が行われているところに谷蔵が迷い込んでくる。高尾の妹の累は、かつて谷蔵に危ないところを助けられたことがあり、再会した谷蔵と夫婦になることを願う。三婦も谷蔵の忠義心をみとめ、許そうとするが、高尾の怨念によって、累は顔に大きな痣を負う。この恩讐半ばする複雑な関係。高尾の怨霊が降臨する場面を語ったのは咲寿太夫さん。高い声の印象が強かったのに、地の底にとどくような深々とした美声に驚いた。

 埴生村の段。谷蔵は与右衛門と名を改め、累と睦まじく暮らしていた。ならず者の金五郎が現れ、与右衛門(谷蔵)の主君の許嫁・歌潟姫を吉原に売り飛ばそうとしていることが発覚。与右衛門は歌潟姫を譲ってほしいと持ちかけ、百両の工面を思案する。これまで与右衛門の心遣いで己れの容貌の変化を知らなかった累は、夫の危機を救うため、女郎屋に身を売ろうとするが嘲笑を受け、恥じて身投げを決意する。

 土橋の段。歌潟姫を連れた金五郎と与右衛門の会話を聞いた累は、夫が心変わりをしたと誤解し、嫉妬に狂って歌潟姫に鎌で切りかかる。止めようとした与右衛門だが、累に高尾の怨念が乗り移っているのを悟り、悪縁を悲しみながら、とどめを刺す。谷蔵は最後まで累を愛しく思っているのに、うまくいかない人の仲…。人間の心理のあやの描き方が近代的で、恐ろしくも悲しい物語だった。累は吉田和生さんで、激しい嫉妬も含めて、全力で恋に生きる若い娘らしさがとってもいい。谷蔵は吉田玉男さんで、時代物の主人公より、こういう役を演じるときが好き。

 続いて『伊勢音頭恋寝刃』。何度も見て、よく知っている演目だけど、このご時世にこの内容、大丈夫なのか…とちょっと不安になった。こういう血みどろ芝居を見て、ぞっとするのが近世人の娯楽だったのかなあ。「油屋」が津駒太夫、「十人斬り」が咲太夫さん。前回は「油屋」が咲太夫さんだったんだな。津駒太夫さんの万野の「お紺さ~ん」も、かなり嫌味たらしくて苦笑いした。人形はお紺を蓑助さん。やっぱり生きているように美しいわあ。福岡貢は桐竹勘十郎さん。

・第3部【サマーレイトショー】『金壺親父恋達引(かなつぼおやじこいのたてひき)』

 モリエールの戯曲「守銭奴」をもとに井上ひさしが書き下ろした新作文楽。昭和47年(1972)にラジオで放送され、義太夫節を用いない演出では人形劇団プークが上演を重ねている。しかし、文楽として上演するのはこれが初の試みだそうだ。単純明快なストーリーで、短い時間に(ほぼ1時間)たっぷり笑えて面白かった。詞章は時代物らしく作っているが、台詞は少し現代的。現代劇まではいかないが、大阪風味が薄い気がする。

 全くの文楽ビギナーでも楽しめるし、文楽ファンなら、ところどころに入る文楽の名作のパロディに笑ってしまう。そもそも登場人物の多くが「実は生き別れた家族」というのがパロディ的である。原作「守銭奴」を知らないんだけど、やっぱりこんな都合の良い話なのかしら。人形は勘十郎さん、玉男さん、和生さん揃い踏みで華やか。語りの英太夫、文字久太夫、睦太夫らは、笑顔で楽しそうだった。「テンペスト」「ファルスタッフ」など、近年の新作文楽はどれも面白い。もっと自信をもって、どんどん新作を増やしてもいいんじゃないかと思う。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アイスショー"Fantasy on Ice 2016 長野"

2016-06-27 23:18:16 | 行ったもの2(講演・公演)
Fantasy on Ice 2016 in 長野(2016年6月25日14:00~)

 アイスショーFaOI(ファンタジー・オン・アイス)、今年の最後の開催地である長野に行ってきた。茨城の自宅を朝9時前に出て、長野駅に11時半頃着。公演会場のビッグハットまでは、シャトルバスで運んでもらった。初体験の会場だったが、列の間がゆったりしていること、高低差があって前列の人の頭が邪魔にならないこと、音がいいことなど、全般的に好感を持った。席はSS席で、幕張より、かなりリンクに近かった。同じプログラムを見ても、幕張では全体を俯瞰する感じだったが、長野では、同じ平面で見ている感じがした。

 出演者は、織田信成、安藤美姫、鈴木明子、宮原知子。海外から、フェルナンデス、ランビエル、バトル、ウィアー、クーリック、ジュベール。フィリップ・キャンデロロはドクターストップを無視しての出演だったが、さすがに大技は封印していた。ペアのタチアナ・ボロソジャル&マキシム・トランコフ、アイスダンスのアンナ・カッペリーニ&ルカ・ラノッテ。エアリアルはいつものチェスナ夫妻と、フープ(輪)を使うマリーピエール・ルレ。あと、いつものアクロバット。

 幕張でキラキラしていた日本人若手女子3人組が不在の代わりに、1998年、長野オリンピックのメダリスト、キャンデロロとクーリックが加わるなど、大人の雰囲気が濃かった。アーティストも同様で、CHEMISTRYの川畑要さん、三味線の吉田兄弟、オペラ・シンガーの鈴木慶江さん、そして全公演に出演したピアニストの福間洸太朗さんという顔ぶれ。

 オープニングは、いつもの音楽で始まり、まだスケーターが氷上に残っている状態で暗転、と思ったら、すかさず舞台に吉田兄弟が登場し、軽快な三味線の演奏(rising)に乗って群舞が続く。全員でくるくる円を描くところが好き。中心はもちろんランビエール。黒と金に赤や紫を配した「お祭り」衣装もみんな似合っていた。このあと、吉田兄弟は織田くんと「Storm」、フェルナンデスとオリジナル曲「バルセロナ」でもコラボ。この企画は今年の殊勲賞ものだと思う。

 ボロソジャル&トランコフの「ボリウッド」は、2014年のFaOIでジョニーが使ったインド風の曲。カッペリーニ&ラノッテのコミカルなタンゴ(アンナさんの扮装w)も楽しかった。日本人も、ペアやアイスダンスで世界に愛されるスケーターがもっと出ないかなあ。

 後半冒頭に登場した宮原知子ちゃんは、ランビエール振付の新エキシ「ヘルナンドスハイダウェイ」。氷上の照明が明るくなると、地味な衣装のランビエールを従えて立っていたので、ヘンな声が出そうになった。口紅を仕舞ったバッグを渡されると、無言でランビエールは去っていく。身体の使い方がやわらかくて、大人っぽく色っぽいプロ。新境地を開く、いいプロをもらったなあ~と思った。

 ジョニー・ウィアーは幕張と同じ2プロ。赤衣装のビヨンセメドレーは会場大盛り上がり。日本の観客に愛されてるなあと思った。ジュベールは前半が川畑要さんとの軽やかでイケメンなコラボ。後半は、2015年のパリ同時多発テロに捧げる怒りと悲しみの追悼プロ。実は開演前に買ったプログラムで、赤く汚れたTシャツ、ぼろぼろのシャツ姿の写真を見て、なんだこの衣装は?と苦笑していたら、こういうことだった。途中、銃撃を思わせる赤い閃光の演出や、苦悶する演技もある。アイスショーも芸術だから、こういう社会的あるいは政治的メッセージが入り込むことに何ら不思議はない。素晴らしいものを見せてもらった。

 しかし、何と言っても圧巻はステファン・ランビエール。前半は幕張と同じ「Take me to church」。後半は、直前がフェルナンデスの「マラゲーニャ」、もうひとつ前が安藤美姫の同じ曲「マラゲーニャ」だったのだが、二人とも最後を失敗して、苦笑いしながらの退場だった。その直後に公演の大トリで登場。神戸公演の情報で、ラヴェルの「ラ・ヴァルス」を、福間洸太朗さんのピアノ生演奏で滑るということは聞いていたのだが、いったいどんなプログラムになるのか、たちまち緊張が高まる。

 そして、すごいものを見せてもらった。スケートとしてどうなのかよく分からないが、何度も止まりながら、ためらいがちに前に進んでいく、その止まり方と、再び動き出すときの所作の(身体の)美しさがたまらなかった。スピンとかジャンプとか、部分的な「技」に拍手するのを忘れて、美しさに酔い続けた。でも、最後のジャンプが決まったとき、小さくガッツポーズをしてたけど。クライマックスは、氷上に倒れて、暗転。その横たわる影さえ美しかった。フィナーレの一芸大会でも連日4Tを跳ぶなど、調子がよさそうで嬉しかった。ぜひ来年もまた、ランビエール&福間さんのコラボが見たい。どんどん期待が高くなっていくけど、お二人ならそれを難なくクリアしてくれそう。

 来年は、羽生くんにも戻ってきてほしい(長野会場ではビデオメッセージあり)。海外のレジェンドスケーターが中心となる大人のアイスショーもいいけど、現役選手が中心となるショーも華やかでいいのだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

愛の物語/京劇・白蛇伝2016(中国国家京劇院)

2016-06-06 19:07:29 | 行ったもの2(講演・公演)
東京芸術劇場 中国国家京劇院日本公演『京劇 白蛇伝2016』(2016年6月5日)

 久しぶりに京劇を見に行った。2012年に日経ホールで『孫悟空大鬧天宮』を見て以来。東京芸術劇場の京劇公演は2010年以来である。今年は「白蛇伝」がかかると知って、名作だけど、恋愛物は苦手(立ち回りが多いほうが好き)なので、どうしようかな~と大分悩んだ。結局、行ってみたら、感動してしまった。

 峨眉山で千年の修行を積んだ白蛇の白素貞は美しい娘の姿となり、侍女の小青とともに杭州西湖にやってきた。突然の雨に見舞われ、傘を貸してくれた青年・許仙と恋に落ち、夫婦として暮らすようになる。そこに金山寺の僧・法海が現れ、許仙に白素貞が妖怪であることを告げ、正体を暴いてみよとそそのかす。許仙は、端午の節句(妖怪にとっては厄日。なるほど)に祝いの酒である雄黄酒を、身重の妻に無理強いする。その結果、正体をあらわにした白素貞(舞台上では見せない)を見て、ショック死してしまう許仙。白素貞は、夫の命を救うため、蓬莱の仙山へ霊芝仙草を取りにいく。番人の鶴童・鹿童に阻まれるが、白素貞の真心に感じ入った南極仙翁から、霊芝を授けられる。ここまで第1幕。

 第2幕。助かった許仙がひとり長江を眺めている。法海が現れ、許仙に強く出家を勧める。断り切れず、後に従う許仙(ほんとダメ男!)。場面かわって金山寺。白素貞と小青は、長江の水族たちを率いて金山寺に攻め寄せる。法海は天の護法神たち(伽藍神、金甲神)を呼び寄せ、激しい戦闘が繰り広げられる。外の騒ぎを聞いて、ようやく妻の愛情を確信した許仙は、小僧の助けを借りて金山寺を脱出する。場面は物語冒頭と同じ西湖の断橋。許仙は白素貞と小青に再会する。怒りの収まらない小青。それをなだめて、白素貞は許仙の謝罪を受入れ、再び愛を誓う。

 いや面白かった。私は「白蛇伝」の梗概は知っていたけど、「安珍清姫」「蛇性の淫」みたいな古い異類婚姻譚のイメージを持っていたので、愛のために戦う女性・白素貞の強さとカッコよさにしびれた。冒頭は、気になる青年と言葉も交わせない嫋々としたお嬢様で登場するのだが、夫の命の危機、夫婦仲を引き裂かれるに至って、決然と戦闘モードに入る。法海和尚に「けだもの(孽畜)」とののしられ、「人間世界は妖怪を受け入れられぬ」と責められても、「夫婦を引き裂く者こそ妖怪(害人魔障)では?」と反論し、「大いなる仏の力を笠に着て、どうして夫婦を引き裂こうとするのか」と怒りと嘆きの歌をうたい、身重の体を気遣いながら、激しい立ち回りを見せる。

 プログラムの解説によると、この舞台のベースとなっている脚本は1955年初演で、「新中国の推進する戯曲改革に沿って、従来の白蛇物語にあった恐怖的なイメージや封建的要素をいっさい排除し、テーマは自由な恋愛の追求だった」とある。新中国の戯曲改革がどのくらい成功したのかはよく知らないが、このみずみずしい作品が生み出されたことは喜びたい。これもプログラムの、加藤徹さんの解説には、古い白蛇伝では白蛇は悪役だったが、「18世紀ごろから白蛇は正義の心をもつヒロインとして描かれるようになりました」とある。へえ、わりと古いんだな。「そう、私は人間ではない。でも、あなたを愛しています」と開き直り、異類婚姻譚の不文律を堂々と破ってしまう、っていいなあ。とってもいい。逆に、もともと正義の役だった法海和尚が悪役にされてしまったというのも面白い。異類ヒロイン(最近の言葉では人外)の「正しさ」と「健気さ」という点では、ちょっと「葦屋道満大内鑑」の葛の葉を思い出したが、あれも最後は、理不尽をこらえて身を引いてしまう。異類婚姻譚の「演変」を日本と中国で比べてみると面白そうだ。

 白素貞役の女優の付佳(フージア)さんは、背が高くてプロポーションがよくて舞台映えした。手の演技が繊細で、美しかった。最後に、再会した許仙に向かって「憎らしいあなた(冤家)」と呼びかけながら、愛情と怒りと哀しみと、万感の思いを込めて歌う長い「アリア」はドラマチックで、大好きな「椿姫」を思い出した。京劇は「聞くもの」と感じたのは、初めてかもしれない。

 侍女の小青も武芸の腕が立ち、おねえさま一途でかわいい。加藤徹さんの解説によれば、古い脚本にさかのぼると、小青は体は女の子だが心は男、という隠し設定があるのだそうだ(一部の地方劇には残る)。面白い~。余談だが『西遊妖猿伝』で、悪魔的な美少女・一升金が操る蛇蠱の「小青」は、もちろんこの話に由来するのだろうな。颯爽とした女性たちに比べ、男たちの何とも見劣りするのが可笑しい。中国人的には、幸せな愛のかたちは、これでいいんだろうか。

 物語の舞台である杭州の西湖には、ずいぶん前に一度だけ行った。鎮江の金山寺も行ったし、峨眉山も行ったなあ、と思いながら舞台を見ると感慨深い。あと金甲神の武器が、巨大なマラカスみたいなかたち(一対)なのが、ドラマ「隋唐演義」で李元覇の使っていた「擂鼓甕金錘」に似ているとか、立ち回りでのくるくる回りながらの連続ジャンプがフィギュアスケートの技みたいだとか、長江の水族(貝、海老、サカナ)の衣装が日本の絵巻や錦絵に描かれた姿によく似ているとか、個人的なツボはたくさんあった。

 早く次の機会を探して、また京劇を見に、いや聞きに行きたい。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アイスショー"Fantasy on Ice 2016 幕張"

2016-05-29 23:29:54 | 行ったもの2(講演・公演)
Fantasy on Ice 2016 in 幕張(2016年5月28日14:00~)

 昨年は計3回も見に行って大満足だったアイスショーFaOI(ファンタジー・オン・アイス)。今年も当然、見に行くつもりでチケット発売日を待ち構えていたら、瞬殺で完売してしまった。仕方ないのでチケット売買サイトで幕張のSS席を手に入れた。正価の1.5倍は許容の範囲。と思っていたら、羽生結弦選手の欠場が公表されたとたん(その前に出場が決まっていたわけではないのだが)値崩れして、正価以下のチケットも売買される事態に。もしかしたら空席が目立つかな、と心配したが、さすがにそんなことはなくて、開場前から多数の人が並んでいた。プログラムと公式グッズの売り場を会場外に設けてくれたのは、昨年の教訓が生かされていてよかった。

 FaOIは、主要なスケーターが2プロ滑ってくれるので、満足度が高い。若手女子3人(本田真凜ちゃん、樋口新葉ちゃん、青木祐奈ちゃん)は1プロずつ。どちらかというとおじさん度の高いショーなので、不思議な違和感と清涼感。祐奈ちゃんは元気プロ。真凜ちゃんは素人目にも技術力が高い。新葉ちゃんの「白夜行」は大人の雰囲気があった。フィナーレのジャンプ祭りでは負けず嫌いなのがよく分かった。ジェフリー・バトルが1プロなのは「振付の仕事もあって、忙しいからじゃない?」と隣りのおばさんが話していた。でも1曲でも見応えあり。「Black and Gold」カッコいい!

 今年のゲストアーティストは華原朋美さん、ポップオペラの藤澤ノリマサさん、昨年に引き続き、ピアノの福間洸太朗さん。FaOIは、確かに生歌、生演奏とのコラボが売り物だが、あまりアーティストの出番が多いのもいかがかと思う。織田信成さん、荒川静香さん、安藤美姫さん、鈴木明子さんは各1プロコラボ。ピアノの福間洸太朗さんが羽生選手の演技映像にあわせて、ショパンのバラード1番を生演奏するという演出あり。無人のリンクに羽生くんの幻を見るような気がした。

 海外スケーターも基本1プロはコラボだったかな。華原朋美とコラボしたトマシュ・ベルネルはキュート。ジョニー・ウィアーは福間さんのピアノ演奏でベートーヴェンの「月光」を滑った。小さな翼のような肩飾りのついた純白の衣装で、静謐に、また熱情的に。曲調にあわせて変化する照明も素晴らしかった。後半はビヨンセメドレーで衣装は深紅。手袋で指先まで深紅。

 ハビエル・フェルナンデスの1曲目は藤澤ノリマサさんの生歌「韃靼人の踊り」。歌が素晴らしいのとリンク上のハビエルがカッコいいのと、見どころが分裂して集中できなかった。できれば、生歌でなしにもう一度、このプログラムを見たい。後半の「マラゲーニャ」も圧巻。歌声は大好きなドミンゴだし、スペインのカッコよさ極まれり、という感じ。赤・黒・黄を使った照明もステキだった。

 そして、ステファン・ランビエルの1曲目は「Take me to church」。昨年の「Sense」を思わせる、演劇的なプログラム。ゆっくり自然に身体を揺らしながら、情念を掻き立てる動きに見とれてしまう。ジャンプが決まっても、そこで拍手をする気持ちが起こらない。調べたら、重い歌詞なんだなあ。長野でもう1回見たい。後半は藤澤ノリマサさんの生歌「ネッスン・ドルマ(誰も寝てはならぬ)」とコラボ。昨年は神戸で、ソプラニスタの岡本知高さんの生歌とのコラボを見たかど、ジャンプに失敗が目立った記憶がある。今回は、二年越しで完成形を見ることができた。よほど調子がよかったのか、フィナーレでは目の前で4Tを飛んでくれた。ジャンプの高さに息が止まりそうだった。

 クセニヤ・ストルボワ&ヒョードル・クリモフ(ペア)、メリル・デービス&チャーリー・ホワイト(アイスダンス)も美しかった。エアリアルのチェスナ夫妻、アクロバットのポーリシュク&ベセディンもいつもどおり。大きなリングを使って演技するバレリー・イネルシは初めてかなあ。美しかった。

 この数年のFaOIは、羽生くんがすっかりMC役になっていたけど、今年はむかしのスタイルに戻ったような感じがした。オープニングのスケーター集団の先頭はハビエルで、まあ世界王者だから当然だよなと思っていたら、フィナーレ(曲はベートーベンの第九)ではステファンが先頭ポジションだった。なんで?というか、納得というか。

 次は長野。アーティストもスケーターも男性の比重が高くなるので、雰囲気に変化があると思われ、楽しみ~。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする