「競争心理」と言っても、何も順位争いなんかではなくて、ここでいうのはオークションの終了間際になって、どうしても競り落としたくなる心理のこと。
まるで習慣のように、いまだにオーディオ機器のオークションとは縁が切れないが、このほど面白い現象を垣間見た。
それはつい先日落札された「VAIC VALVEモノラル・パワーアンプ VV52Bペア」に関する一連の動き。
25年ほど前に発売されたアンプだが、当時欲しくてたまらなかったアンプで、とにかく評判が凄くよかった。今でも当時の記事のコピー(前期型)を保管している。
しかし、ペアで88万円という価格の前にやむなく涙を呑んで諦めた。
ところが、この忘れられないセパレート・アンプがオークションに出品されたのを知ったのはつい3週間ほど前のこと。
懐かしい!
出品価格はピタリ30万円。中古専門のリサイクル・ショップの出品だから安心感が漂うが、今のところ手元の使用中の真空管アンプ群で十分間に合っているし、もっと値段が下がると参加してもいいのだが、今の身分ではちょっと敷居が高すぎる。
とりあえず「ウォッチリスト」に登録して追いかけることにしたが、30万円という価格の前に入札者が1件もなしの状況が2クール(1クール=1週間)続いて、出品元もようやく腹を括ったのだろうか、一転して開始価格を一挙に1000円に値下げしての再スタート。
随分、思い切った価格設定で極端に言えば、この場合、入札者が一人で1000円の場合はそのまま1000円で落札となる。これは見物!
最終的に落札価格が10万円以下に落ち着きそうなら考えてもいいがと、俄然色気が出てきてオークションの解説を再度詳細に読んでみると、1台の重さが何と50キロもある。スピーカーならともかく、アンプがこの重さではねえ。
「オーディオ機器の性能は目方に比例する」のは、経験上おおむね正鵠を射ているが、年齢を経るにつれて体力面から機器の重量は切実な問題になる。動かすときにギックリ腰への用心をはじめ、とにかく扱いずらい。
故障したときの発送処理などを考えるだけで億劫になる。したがって機器の性能よりも、むしろ軽さなどの扱いやすさの方に次第に魅かれるようになるのは、おそらく同年配の方々には思い当たるはず。
そういうわけで、潔くキッパリ諦めることにして落札当日になっても気にすることなく早めに就寝。
しかし、「ウォッチリスト」からの登録は外さずにおいたので、翌日、起き抜けにメールを見たところ何と「落札価格29万2千円」なり。
落札寸前に凄い「叩き合い」があったみたいで入札、価格ともに凄い高騰ぶり!
それにつけても、30万円では2週間以上、買い手がいっさいなかったのに、1000円スタートにしただけで29万2千円もの高値で落札され、ほぼ、出品者の思惑通りになったところが面白い。
オークションの「競争心理」をうまく利用した出品者側の作戦勝ちだが、前述したようにその一方で1000円スタートなので超安値で落札される危険性もあるから、危ない橋を渡った「リスクの代償」ともいえる。
そういえば、これは中小企業のオーナー経営者にも共通して言えることだが、会計処理のやり方によっては随分といい思いをするようだけれど、今回のコロナ禍のように不意の出来事によって倒産という危険を常に背負っているので日頃から余得があったとしてもそれは「リスクの代償」として許されることかもしれないと思っている。ちょっと(考え方が)おかしいかな(笑)。
それはさておき、自分にも経験があるが、落札間際にどうしても欲しい商品が競争状態になったときに平常心を保つのは難しい。「たとえ借金をしてでも絶対に手に入れるぞ」と、我を忘れる事があるが、賭けごとにのめり込むのもこういう心境だろうか。
以前の“おおらか”なオークションの時代ならともかく、こうして“鵜の目鷹の目”の、まさに生き馬の目を抜くようなご時世ともなると、つい、うっかりの見逃しはありそうもないので、出品者側にとっては、いきなり高値から出発するよりも安値から出発して参加者の「競争心理」をうまく煽(あお)った方が結果的には得策かもしれない。まあ、対象機器に魅力があっての話だが。
自分の場合にしても、いずれオークションなどを利用して手持ちの真空管やもろもろの機器などの処分を考えるタイミングが視野に入ってこらざるを得ないが、今回の事例は大いに参考になった。
つまりは、出品物をしばらく高値でさらして広く周知してもらったうえで、一気に値下げして競争心理を煽るという作戦だ。
まあ、そう簡単には問屋が卸すまいが(笑)。
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