ずっと以前に投稿した「ロシア人の寿命が短い理由」は、折に触れ過去記事ランキングに登場してくるので、いわば「ロングラン記事」になっているが、ここ1週間ほど「ウクライナ侵攻」やオリンピックの「ドーピング」問題のせいか特に大きな波が打ち寄せている。
で、内容についていささか古くなったので、(たとえばロシア人の平均寿命の統計数値などが)正確を期すうえで「改訂版」を出しておくことにした。
それでは、以下の通り。
ピアニストの「エフゲニー・キーシン」、ヴァイオリニストの「ワディム・レーピン」ともにまだ50歳前後と芸術家としては比較的若年ながらも現代のクラシック界を背負って立つほどの逸材だが、いずれもロシア出身というところが共通項だ。
文学界の頂点に位置するドストエフスキーをはじめ昔から幾多の優れた芸術家を輩出してきた「芸術大国ロシア」。
ただし日本ではロシアという国に対してあまりいいイメージを抱かない方が多い。自分もそうだ。
第二次世界大戦終了時に日ソ不可侵条約を踏みにじって、まるで火事場泥棒のように北方領土を強引に奪った事実は歴然として残っている・・・。
表と裏の顔の落差が激しそうな国だが、なにしろ興味のある国なので何でも知っておこうと日頃からそれとなくアンテナを張っているところに、なかなか面白い本が見つかった。
「ロシア人しか知らない本当のロシア」(日経新聞社)
著者の「井本沙織」さんは、モスクワ生まれ。ソ連崩壊直前の1991年に中央大学の研修生として来日、98年経済学博士、02年日本に帰化、05年より内閣府、06年大和総研入社とある。
完璧な日本名だが本書を通読してみるとロシア人のようで、現代のロシアの実状を知るには実に分かりやすいと思える書籍。
第一章 オンリーイエスタデイ 様変わりした祖国
第二章 ロシア経済を救ったのは火星人?
第三章 ソ連の風景 ロシアの暮らし
第四章 新生ロシアの祝祭日事情
第五章 ロシアは資本主義国になったのか
この中で一番興味を引かれたのは第三章の中の「ロシア人はなぜ寿命が短いのか」というくだり。
ロシアの人口は1993年の1億4860万人をピークに減少傾向にある。
2000年では1億47百万人、2010年では1億46百万人、そして2014年のクリミア併合で約3百万人増えたが、それでも2020年では1億46百万人に留まっている。
国際連合の世界人口予測(06年)によると、ロシアの人口減少のスピードは日本を上回って推移し、2050年時点では1億783万人とピーク時の約4分の3に縮小する。21世紀末には半減するという悲観的な予測もある。
その人口減少が加速している要因だが出生率低下という先進国共通の問題だけではなく異常に高い死亡率が挙げられる。
ロシア人の平均寿命は男性がおよそ68歳、女性が78歳で、世界でもトップクラスの日本の81歳、87歳と比べて短命ぶりが際立っている。(WHO:2021年版「世界保健統計」)
高死亡率の原因は一概には言えないがアルコールが原因の一つであることは明白とされている。
一人あたりの年間消費量は英国と並ぶ水準だが、英国はビールが主流なのにロシアはウオッカなどのスピリッツ(蒸留酒)が70%超でアルコール度数が高い酒の大量摂取が心臓血管疾患、肝硬変の要因になっている。
おまけにロシアは離婚率も高いがその最大要因もアルコール中毒が51%を占めている。
ソ連解体後の社会・経済的な混乱に伴うストレスからの逃避による飲酒、それと「ウオッカが安すぎる」ことも一因とか。
要約すると以上のとおりだが、あの広大な国土に人口が日本と同じくらいというのがまず驚きだが、何といっても男性の寿命が日本とは13歳も違っていて68歳というのは要注目である。
平均的なモノサシになるが自分などはロシアに生まれていればとっくの昔にこの世に存在していない勘定になるのでホントに身につまされてしまう。
本書は女性の視点から書かれたものなのでアルコールの摂取に厳しい見方をしているが、ああいった厳寒の地ではアルコールを止めろといっても皮下脂肪に恵まれた女性は別として男性はとても無理だと思う。
以前のブログ「寒い地域でイスラム教が広まらなかったのはなぜ?」で書いたとおり、厳寒地では身体を中から温めて寒さを凌ぐ習慣が根強くアルコールは生活必需品並で、豚肉のタブーには耐えられても禁酒というタブーにはイスラム教といえども耐えられなかったというのがその理由だった。
結局、アルコール摂取という高いハードルを前にしてロシアにおける高死亡率改善の難しさが伺えるところだが、こういう状況を踏まえてロシアの男性は「短命」に対してどういう人生哲学を持っているのだろうかとつい気になってしまう。
厳寒、荒涼たる大地などの厳しい外的要因と否応なく短く終えてしまう人生は「芸術」などへの内省的なアプローチの密度の濃さと決して無縁ではないような気もする。
そういえばロシア出身の芸術家といえば男性に限られており、女性はいっさい見かけないが自分が知らないだけかな~。
最後に、今回のウクライナ侵攻について思うことはただ一つ。
それは「独裁者を作らない、万一出てきても暴走をチェックする仕組みをつくっておくこと」、その点アメリカは議会や世論がよく機能している。
お隣の中国では「毛沢東」で懲りて、主席の任期を「2期10年」に定めたのに、またもや「3期以上」の野望を持つ主席が登場している。そしてさらに悪いことに暴走をチェックする機能も持っていない。
経済面では進展したけど肝心なところが抜け落ちた国だと思う。言論の自由はないし~。
これを「砂上の楼閣」という。と、偉そうに言っちゃいました(笑)。