今回は歌謡曲を主題に取り上げたので興味のない方はどうか素通りを~。
10月5日付のブログで紹介した「船村 徹」作曲、「高野 公男」作詞の「別れの一本杉」。春日八郎の歌で大ヒットしたがそれも随分昔のことで昭和31年(1956年)の話。
おそらくこの曲に親しみを感じている方の年代は限られているはずで、せいぜい60歳代以降になるのだろうが、このまま朽ち果ててしまうには実に惜しい曲。
当時、既に大御所の感があった古賀政男が「これは誰の作詞作曲?」と注目したとかいう記事を読んだことがあるが、時代を超えて永遠に生き続けて欲しいと願うばかり。
何よりも歌詞がいい。遠くにあって”ふるさとを偲ぶ唄”ではベストではなかろうか。せめて第一フレーズだけでも。
泣けた 泣けた
こらえ切れずに 泣けたっけ
あの娘(こ)と別れた 哀(かな)しさに
山の懸巣(かけす)も 啼(な)いていた
一本杉の
石の地蔵さんのヨー 村はづれ
10月1日に自宅で近所のM上さんと一緒に酒を飲みつつ、ともに故郷を後にした「クチ」なのでそれぞれの「ふるさと」を想い出しながら、しんみりとオリジナルの春日八郎の唄を聴いたものだったが、M上さんによると、作曲家自身の「船村 徹」がギターの弾き語りで歌ったのがあってそれがベストだとのこと。
そう断言されると、この曲を愛好している自分にとって黙って見過ごすなんてまずありえない話。
早速、ネットの「HMV」で調べてみると、あった、あった。
平成18年に発売されたもので、作詞した「高野公男」の没50周年記念と銘打って16人ものトップスターの歌手たちが「別れの一本杉」を歌っている。レコードメーカーの垣根を越え、実現した夢の豪華企画とある。
「高野公男」の没50周年記念と言ってもピンとこない方が大勢だろう。
この「別れの一本杉」が世に出たときには高野が丁度25歳、作曲した船村が23歳。そして高野が肺結核で亡くなったのがわずか1年後の26歳。
高野は茨城県出身、船村は栃木県出身。「オレが茨城弁で詩を書くから、お前は栃木弁で唄を作れ」と切磋琢磨しあった仲。
”刎頚の友”を失った船村の嘆きやいかばかり。船村はこう記す。
「その日から50年の歳月が流れ去った。そして私のみ、この世に老醜をさらしている。慙愧堪えがたしである」。
さて、16名の歌手たちを収録年の古い順に挙げてみよう。
☆ 春日八郎(昭和30年) ☆ 三橋美智也(昭和45年) ☆ 大川栄策(昭和47年) ☆ 北島三郎(昭和47年) ☆ 藤圭子(昭和48年) ☆ 美空ひばり〔昭和51年) ☆ 村田英雄〔昭和55年) ☆ 鳥羽一郎(昭和58年) ☆ 船村徹(平成1年) ☆ 中村美律子(平成1年) ☆ 天童よしみ(平成2年) ☆ 原田悠里(平成4年) ☆ 大月みや子(平成5年) ☆ 細川たかし(平成8年) ☆ 五木ひろし〔平成14年) ☆ 西方裕之〔平成16年)
日本の歌謡界を代表する歌手たちの「別れの一本杉」の競演となれば放っておくわけにもいくまい。勇んで、注文したのはいうまでもない。
そして我が家にようやくCD盤が届いたのが10月9日。
「別れの一本杉は枯れず」
しばらく音沙汰のなかった「M上」さんだが、パソコン教室でみっちり鍛われていたそうで、「船村徹の”別れの一本杉”を手に入れましたよ、聴きにきませんか~」と誘ってみると、大喜びで10日(土)の16時にお伺いしますとのこと。
さて約束の日時きっかりに「久保田の萬壽」をぶら下げて現れたM上さん、「今日は歌謡曲なので日本酒の冷やでいきましょう」と最初から決意も新たに目が据わっているのが何とも頼もしい。
まるで気迫に押されるように、早速、CD盤の封を切ってあとは30分ほど前からスイッチを入れて暖めておいた機器に委ねるばかり。
はじめに、トラックナンバー10の船村徹。
「ウーン、これは参ったね~」。情感たっぷりで実に陰影に富んだ唄いかた。いっそのことシンガー・ソング・ライターになればというほどの「抜群のうまさ」だった。M上さんが絶賛するはず。
もちろん好き好きだろうが、自分は春日八郎よりも上位に据えたいと思った。「ふるさと」を想う哀愁が全編にみなぎっているのがその理由。
あとは最初から順番に聴いてみたがメロディーも歌詞も一級品なので全然飽きがこないし、歌手が変わるたびに新鮮な印象を受ける。改めてこの作品そのものの大きさ、懐の深さに舌を巻く思いがした。
さて、船村徹がダントツだとするとそれに肉薄するのが昭和の歌姫「美空ひばり」。昭和51年の吹き込みだから彼女の全盛時代ともいえるもので、声の張りといい、節回しの自由自在さといい”他人の持ち歌”といえども自家薬籠中のものだった。これはもう「お見事!」の言葉以外に称えようがない。
女性による「別れの一本杉」を聴くのは初めてと言われるM上さんも大いに感激。後は大月みやこ、中村美律子(みつこ)もグッドといったところ。
しかし、まだ大事な”お人”を忘れてはいませんか?
そう、「ちあきなおみ」がこのCDには収録されていないのである。これはいくらなんでも片手落ち~。
「ちあきなおみの”別れの一本杉”がどうしても聴きたいなあ」と、ほろ酔い加減に任せて”いい年”をしたオジンたちがやみくもに叫ぶ!
それにしても、今日はこのように「別れの一本杉」ばかりを聴くと、何だかもう”しんみり”となってしまい胸が一杯になった感じで他の曲を聴く気がしなくなってしまった。まるで”宴会の自粛ムード”みたいでエレジー(哀歌)効果は想像以上。
こんな後ではクラシックもジャズもとても場違いな印象がしてきて、これはもう、うまい日本酒がワインやウィスキーに付け入る隙を与えなかったようなもので、結局今回は17時半頃と早々と店仕舞いになってしまった。
なお、「ちあきなおみ」の「別れの一本杉」を翌日ネットオークションで探してみたら「ちあきなおみ演歌を歌う~16曲収録」に入っていた。即時落札。
16日頃までには届くと思うので17日の土曜日でもまたM上さんと一緒に試聴するとしようか。