「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

良質の真空管を生む時代背景

2023年11月24日 | オーディオ談義

日常的にブログをやってると、後になって「しまった、あんなことを書かねばよかったのに」と、後悔することがときどきある。

たとえば、日頃から日陰の身分にある機器同士の組み合わせで気に入った音が出たりすると、つい感激のあまり「空前絶後の音」なんて表現を使ってしまい、今となってみるとまさに赤面ものである。


部屋の大きさが限られている家庭オーディオで「空前絶後の音なんてあってたまるか!」(笑)。

まあ、プロの作家ではないんだし、時折りのオーバーな表現も愛嬌だと大目に見ていただくことにしよう。

さて、我が家にお見えになる方々のうち常連の「Y」さんは、お持ちのオーディオシステムもご大層なものでたいへん熱心なマニアである。

しかも実際にフルートの生演奏を楽しまれている方なので耳が鍛えられていて我が家の音のちょっとしたミスも許してもらえない。したがって、お迎えするたびにいつもワクワクハラハラしている(笑)。

期待半分、恐れ半分といったところだが、いつも「とてもいいですね」ばかりでは進歩がないので秘かに心の中で感謝している。

そのYさんが我が家のシステムの中で一番気に入られているのがスピーカーの「AXIOM80」。Yさんに言わせると、「この音を聴くとホッとして何だか故郷に戻ったような気がします。」

気難しい「AXIOM80」に組み合わせるアンプはかなり神経を使うところだが、よく登場させるのが「71Aシングルアンプ」だ。小出力だけど音に癖が無くて、どんなスピーカーにも合いそうな気もする。



前段管が「AC/HL」(英国マツダ:最初期版)、出力管が「レイセオン71A」(刻印)、整流管が「380」(カニンガム)という、すべて1930年代前後の真空管だ。
         

このアンプの整流管を「380」からさらに年代が古い「OK-X213」(メッシュプレート)に差し替えて聴いてもらったところ、「これは
・」と、思わず絶句された。



「透明感、一音一音のクリヤーさ、音の粒立ち。まったく言うことありませんね。たかが整流管如きでこんなに音が変わるもんですか。まるで中国製の300BからオリジナルのWE300Bに代えたときのような変化です。どうして現代ではこういう真空管を作れないんでしょう?」

と、素朴な疑問を提起された。

この「OK-X213」は製造年代がはっきりしないが、おそらく1930年代初期だろうと推察している。

で、良質の製品が生まれた原因としてどうしても当時の時代背景を考察する必要があるだろう。


まず1920年代のアメリカを覗いてみよう。ネットから引用させてもらうと、

「第一次世界大戦の特需にアメリカは大いに沸いた。アメリカ経済は空前の大繁栄をとげ、戦前の債務国から世界最大の債権国に発展した。世界経済の中心はロンドンからニューヨークのウォール街に移った。大衆の生活は大量生産・大量消費の生活様式が確立する。

一般には<黄金の20年代>と呼ばれ自家用車やラジオ、洗濯機、冷蔵庫等の家電製品が普及した。1920年には女性への参政権が与えられるようになった。ベーブルースによる野球人気やチャップリンの映画、黒人音楽のジャズなどのアメリカ的な文化が開花した。一方で1919年に制定された禁酒法によってアル・カポネなどのギャングが夜の帝王として街を支配するようになった。」と、ある。

1929年になるとあの有名な「大恐慌」が起きるので「うたかたの夢」だったろうが、アメリカにとっては現代のように戦争やテロの不安もないし「1920年代」が一番良き時代だったのかもしれない。

ちなみに、戦争特需の効果はとても大きいみたいで、日本だって朝鮮戦争の特需のおかげで経済が目覚ましい復興を遂げたのだから戦争には別の側面があることに気付かされる。

さて、当時の活況を呈した時代において家電製品のキーデバイスとなるのが真空管だった。したがって、その需要に応じて雨後のタケノコのように製造メーカーが乱立し、激しく覇を競った事は想像に難くない。良質の製品はこういう激しい競争の中から生まれていく。

そしていい製品を作るメーカーほど、採算に合わなくなって廃業、統合に追い込まれていくのが古今東西のオーディオ業界の悲しい現実である。

なお、当時の真空管を作る材料は今ほど規制が厳しくなかったので、現代では使用禁止となる「放射性物質」などが含まれたものを拘りなく使用できたらしい。これも、いい製品が出来た理由の一つとして語り継がれている。

真空管オーディオをやっていると、結局はどういう材料を使っているかに行きつく。代表的な例がトランスのコアがそうだし~。

以上、素人なりの憶測を交えて縷々これらの背景をかいつまんでYさんに語ったことだった。

自分が「1930年代前後の真空管こそ本物」と愛用している理由が、これで少しはお分かりいただけただろうか。

ただし、Yさんから信じてもらえたかどうかは定かではない・・(笑)。



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