前回からの続きです。
最後の巡回先は今回の試聴会の最終目的となるSさん宅の音である。2時半ごろから4時半まで2時間に亘って聴かせていただいた。
まずはアンプのハム音の状況の確認である。
イギリスのエンジニアが製作したもので、当時ヨーロッパのアンプコンテストでグランプリを受賞したという逸品で世界に2セットしかないそうだ。
ドライバー管が「MHL4」、出力管が「PP5/400」、トランス類はすべて「パートリッジ」というから、オール・ブリティッシュである。
音が鳴り始めてからすぐにスピーカーに近づかれて耳を澄まされたGさんだが、「離れ位置だと分かりませんがたしかにハム音がかなり出てますね。原因は調べてみないと分かりませんが、たぶん直せる思います」。
ただし、このアンプは1台40Kgほどはあるだろうから運ぶのが大変!ましてやGさん宅のオーディオルームはビルの3階にあるので想像しただけでフ~(笑)。
とりあえずアンプの修繕の目途が立ったところで、あとは一途に音楽鑑賞へ。
スピーカーは「AXIOM80」とタンノイ「シルヴァー」のコーナーヨーク。
周知のとおりタンノイの38センチ口径のユニットは巷間、称されるところの「ブラック」 → 「シルヴァー」 → 「レッド」 → 「ゴールド」 → 「HPD」という変遷を遂げている。そして、残念なことにこの順番に手に入れるのが難しくなり、また音の方は逆に次第に悪くなっていく(笑)。
このシルヴァーはイギリスからの直輸入とかでロットナンバーは3というから最初期のもの。
素晴らしい音だった。一同絶賛!
「通常のタンノイのイメージとはまったく異なる音ですね。驚きました。まるでアクロス・ホール(福岡)で聴いているみたいです。日頃タンノイを聴いている方にはぜひ一度この音を聴いていただきたいものですねえ。」とGさん。
自分も驚いた。
「この前聴かせていただいたときとは随分違う印象を受けました。細かい音の粒子が部屋いっぱいに広がって音響空間をふわっと漂っている感じです。それかといって音の芯もしっかり出ています。これまでいろんなお宅でタンノイを聴かせていただきましたが、間違いなくベストだと思います。どこがどう変わったんでしょう?」
「はい、これまで東京に単身赴任していましたのでせいぜいシステムを稼働するのが2~3か月に1回でした。あまり機器のエージングが充分でないときにお客さんに試聴してもらったというのが実状です。この4月から福岡勤務になりましたので現在は毎日聴いてます。それがいいのでしょう。それから、つい最近整流管を入れ替えてます。」と、Sさん。
「AXIOM80」と「タンノイ・シルヴァー」と交互に聴かせていただいたが、どちらに軍配を上げるか非常に難しい(笑)。強いて言えば、全体的な“ゆとり”という点で「タンノイ・シルヴァー」かなあ・・・。
不遜にもつい最前のGさん宅でSさんに「アンプのドライバー管のMHL4は傍熱管ですよね。直熱管に換えたらいかがでしょう」なんて偉そうなことをほざいたが、わが身の不明を恥じるばかり。この芸術品ともいえるアンプは一品たりとも変えてはいけないかもねえ(笑)。
一同心ゆくまで音楽を堪能してから玄関先で辞去するときのこと、Kさんが「大きな車庫ですねえ。中にベントレーが入っているんじゃないですか」
「いいえ、ベントレーではないのですがジャガーが入ってます。」と、Sさん。「それは是非拝見させてください」。Sさんと知り合ってからおよそ6年ほどになるがジャガーの話は初めて。
18年前に手に入れられたそうで1961年型になる。Kさんによるとマニアの間では人気モデルとして垂涎の的だそう。
Sさんはオーディオからクルマまで、何よりも伝統を重んじる生粋の「ブリティッシュ」党であることを実感した。
今日一日、素晴らしい音ばかり聴かせていただき、半分酔い痴れた状態で高速道をビュンビュン飛ばして自宅に到着したのは宵闇せまる18時50分だった。
「お~い、飯だ、飯だ。」
いつもの芋焼酎から始まって、とっておきの18年モノの「マッカラン」でささやかなゴージャス気分を味わった(笑)。