「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

戻ってきた「PX25」アンプ

2015年05月05日 | オーディオ談義

去る3月初旬にオークションで落札したドライバー・トランス「A-19」(UTC)。用途によってトランスもいろいろだが、いずれも真空管アンプには欠かせない製品である。

            

トランスに造詣の深いGさん(福岡)は各種のトランスの仕様書を山ほど保管されているが、そのGさん曰く「UTCのドライバー・トランスは優秀ですよ。帯域が広くて澄んだ音が出ます。A-19は滅多にオークションに出ることはありませんから買っておいても損はしないと思います。」の言葉に強力に背中を押されて即決で落札した。

真空管アンプは使用するトランスによって音が千変万化するので「トランス=命」と仰る方が多いが、出力管ほどには陽が当たらない存在なのでどちらかといえば縁の下の力持ちの色合いが濃いようだ。

自分のような(トランスの)門外漢には窺い知れない奥深さがあると思うが、はたしてトランスと出力管のどちらが「アンプの命運を左右するか」となると大いに論議を呼ぶところだろう。野球でいえばトランスが監督で出力管がピッチャーみたいな気がする~。

とにかく、せっかく手に入れた宝物なので持ち腐れは厳に警戒するところである。まあ、要するにケチということだが(笑)、何とか生かし場所を見つけようと現在所有している「PX25」シングルアンプにこのトランスを組み込んでもらうことにした。このトランスの挿入によってこのアンプがどういう変貌を遂げるか楽しみである。

3月中旬にGさんに預けてから待つことおよそ1か月半、無事改造を終えたアンプが戻ってきたのは5月2日(土)のことだった。このトランスは実際には3センチ×4センチほどの大きさなので、Gさんによると「アンプの内部に組み込めたおかげで作業が非常に楽になりました」とのことだった。

Gさん愛用のジェンセンの口径46センチウーファーとWE555ドライバーのシステムで入念に試聴テストを繰り返されて調整されたアンプなので大船に乗った気分である。

        

戻ってきたアンプの画像がこれ。

          

ありがたいのはドライバー管を2種類選択できるようにしてあることだった。つまり、「古典管の71A」とSTCの「3A/109B」のどちらを挿してもいいようにしてある。  

画像にあるのはSTCの「3A/109B」(CV1663)の方で、STC独特の水色の英字がくっきりと浮き出て実に鮮やかである。Gさんによると本命は「71A」(アメリカ)、ダークホースが「3A/109B」(イギリス)とのことだったが、いずれも音がいいとされる「直熱三極管」なので実力伯仲であることは疑いを容れないところ。

2日からこの3日間みっちりと試聴させてもらったが、見事な仕上がりだった。

強いて言えば好みとしては「71A」よりも「3A/109B」の方が気に入った。前者がジャズ向きとすると、後者はクラシック向きでまるでヨーロッパの上流社会を思わせるような柔らかくて品のいい音。さすがにSTCブランドだけのことはある。「ロンドン・ウェスタンの真空管に駄球なし」を痛感した。

迷ったのが整流管の選択だった。手持ちの球を次から次に挿しかえて相性探しをやってみた。

前半戦はアメリカ球のウェスタンの「422A」、シルヴァニアの「5931」、「274B」、レイセオンの「VT244」(=5U4G)。そして後半戦はイギリス球のマルコーニの「5U4G」、STCの「5R4GY」、「5Z4GY」、ムラードの「CV378」など。

この中でベストだったのはSTCの整流管だったが面白いことに気が付いた。

他のアンプも含めての話だが、出力管がアメリカ球の場合はアメリカ球とイギリス球のいずれの整流管でもOKだが、イギリス球が出力管の場合はアメリカ球の整流管に対しては拒否反応を示し、同じ国柄のイギリス球しか受け付けない。

開放的なアメリカ人気質と他人に対してやや警戒心の強いイギリス人気質を彷彿とさせてくれるようで大いに感じ入った。ただし、これは我が家だけに当てはまる話かもしれない(笑)。

総じてイギリスのオーディオ機器は音質的に一筋縄ではいかないものが多いが、国民性と密接な関係を持っているように思える。

末尾に独特のイギリス人気質を表す「イギリス人のおちょぼ口」(日経新聞:2000.2.2付け)と題したコラムを紹介しておくので興味のある方はどうかご覧あれ。およそ15年前の記事だが、当時タンノイのスピーカーに手こずっていたので興味が湧いて切り抜いておいた。

話は戻って、この「PX25」アンプは「AXIOM80」向けに使うつもりだが、強力なライバルとして1か月ほど前にこれまたGさんから作っていただいた銅版シャーシのアンプが控えている。

          

入力トランスとドライバートランスに「UTC」のトランスを使ったトランス結合タイプだが振るい付きたくなるほどいい音がする。

実際に比較試聴してみても自分の耳ではどちらにも軍配が挙げようがないほどで、まさにうれしい悲鳴!

あとは同じ「AXIOM80」仲間がお二人、近々お見えになるので優劣の判断をそっくり丸投げすることにしよう(笑)。

それでは最後に前述の「イギリス人のおちょぼ口」について載せておこう。

イギリス人には同じヨーロッパでもいろいろ変わったところがあるとよくいわれる。なにしろナポレオン軍に占領されなかったほとんど唯一の国である。しかし、オックスフォードの社会心理学者のピーター・コレットが「ヨーロッパ人の奇妙なしぐさ」(草思社)で、そのイギリス人の顔つきに注目しているのはユニークだ。

ヨーロッパでイギリス人の話になると必ずといっていいほど誰かが独特の「こわばった上唇」のことを持ち出すという。それは彼らの決意のかたさや感情の抑制の資質をさす比喩にもなっているらしい。その原因は英語の発音にあるとか、歯の手入れが悪いせいだとまことしやかに説かれてきたそうだ。

コレットによると「革張りになったような」とも言われたイギリス人の顔はこの半世紀にだいぶ大陸の人間の顔に近づいてきたが、それでもはっきりした特徴がある。たとえば、口の両端を斜め上に引くかわりに真横に引いて微笑む。また、表情を休止しているとき口をすぼめている。いずれも感情を抑えているような印象を与えているのだが、特に後者の「おちょぼ口」というのは面白い。

口は手と並んで典型的な外界関係器官である。握手をあまり好まないイギリス人は人と会うとき手を握らなくて済むように後ろ手にしていることがあるが、口もすぼめて外界との関係から防御しようとするのだろう。

何か考え込むときや、不平、不満があるときなどに口をすぼめることは日本人にもよくある。声を上げる口を収縮することで自己抑制し、自分に閉じこもろうという意思のあらわれだろう。そんな「おちょぼ口」を何でもないときにしている人が多いというのはイギリス人の思慮深さと特別な対人感覚をよく示しているといえる。~以下略~。


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