20cm口径のフルレンジSPユニット「リチャード・アレン」を取り付けたボックスを作ってから早くも2週間あまり。
我が家の第三システムとして活躍中だが、これまで主流としてきたやや大掛かりなシステムと、こうした小さくてシンプルなシステムとの対比の妙が実に新鮮で、我が家のオーディオにこれまでにない新鮮な空気を吹き込んでいる。
お金のことを持ち出すのはけっして本意ではないが、アンプとスピーカーとを合わせてもわずか10万円足らずのシステムが軽く100万円以上はするシステムと渡り合うのだからほんとうにオーディオは面白い。
もちろん、それぞれに音楽のジャンルによって得手・不得手があるわけだが、低域の量が少ないことによって得られる全体的な(音の)「清澄感」はなかなか捨てがたいものがある。
喩えて言えば、ヘッドフォンで聴く「音」のピュア感といったものに通じており、我が家でますます存在感が増すばかり。
ここで改めて「フルレンジ・タイプ」のメリットを述べておくと、先ず低域と中域のクロスオーバー付近に生じる「音の濁り」が存在しないこと、第二に口径の大きなユニットはそのコーン紙の重さによって音声信号への追従性が悪くなって音が鈍くなるが、その点小さな口径の場合はシャープな音が期待できること。
低域の処理についてはこれまで散々悩んでいろんな対策を講じてきたが、いまだに解決できないので永遠の課題となっている。
ここまで、書いてきてふと思い出したことがある。
昔、昔のそのまた昔、五味康祐さん(故人:作家)の著作「西方の音」の多大な影響を受けてタンノイに傾倒していた時代に、タンノイ(イギリス)の創設者の「ガイ・R・ファウンテン」氏が一番小さなスピーカーシステムの「イートン」を愛用していたという話。
(タンノイG・R・Fという高級システムがあるが、ガイ・R・ファウンテン氏の頭文字をとったもの。)
タンノイの創設者ともあろう方が、最高級システムの「オートグラフ」ではなくて「イートン」を使っているなんてと、その時はたいへん奇異に感じたものだった。
総じてイギリス人はケチで、いったん使い出した”もの”は徹底的に大切にすると聞いているので「この人はたいへんな節約家だ」と思ったわけだが、ようやく今にして分かるのである。
何も大掛かりなシステムが全てに亘って”いい”というわけではなく「シンプルな響き」が「重厚長大な響き」に勝る場合があるということを。
さて、「このイートンの話はどの本に書いてあったっけ」と記憶をたどってみると、「ステレオサウンド」の別冊「世界のオーディオ~タンノイ~」(昭和54年4月発行)ではないかと、およそ想像がついた。
手元の書棚から引っ張り出して頁をめくってみると、あった、あった~。
本書の75頁~90頁にわたってオーデイオ評論家「瀬川冬樹」氏(故人)がタンノイの生き字引といわれた「T・B・リビングストン」氏に「わがタンノイを語る」と題して行ったインタビューの中に出てくる逸話。
ちなみに、この瀬川冬樹さんがもっと長生きさえしてくれたら日本のオーディオ業界も今とは随分と様変わりしていたことだろうと実に惜しまれる方である。
話は戻ってガイ・R・ファウンテン氏が「イートン」を愛されていた理由を、リビングストン氏は次のように述べられている。
「彼は家ではほんとうに音楽を愛した人で、クラシック、ライトミュージック、ライトオペラが好きだったようです。システムユニットとしてはイートンが二つ、ニッコーのレシーバー、それとティアックのカセットです。(笑)」
(そういえば「ニッコー」とかいうブランドのアンプもあったよね~。懐かしい!)
「てっきり私たちはオートグラフをお使いになっていたと思っていたのですが、そうではなかったのですか・・・・」と瀬川氏。
「これはファウンテン氏の人柄を示す良い例だと思うのですが、彼はステータスシンボル的なものはけっして愛さなかったんですね。その代り、自分が好きだと思ったものはとことん愛したわけで、そのためある時には非常に豪華なヨットを手に入れたり、またある時にはタンノイの最小のスピーカーを使ったりしました。」
「つまり、気に入ったかどうかが問題なのであって、けっして高価なもの、上等そうにみえるものということは問題にしなかったようです。~以下、略」
ファウンテン氏のこうした嗜好はオーディオの世界に”とかく”蔓延している「ステータスへの盲信」の貴重なアンチテーゼとも受け取れるが、30年以上も前からこういうことが指摘されていたなんて、今も昔もちっとも状況は変わっていない。
同じタンノイの「3LZ」とか「スターリング」とかの比較的小さなSPをいまだに愛用されている方が後を絶たないのもよく分かる。「音は人なり」とすれば、きっと良識があってバランスがとれた方なのだろう。
さて、我が家のリチャードアレンだがトランジスター・アンプ(出力10ワット)とのコンビで連日、活躍中だが、アンプの前(DAコンバーターの次)に真空管式のバッファー・アンプを挿入したら「石」特有の硬質さが適度にほぐれて一段と聴きやすくなった。
また、フルレンジの愛好家で名古屋のYさんからは「リチャード・アレンの前にネットを被せると高域のきつさが取れますよ。これはカーテン生地でも構いません」とアドバイスがあったので、さっそく100円ショップに出かけて行き「絹綿タオル」(身体の洗い用)を買ってきて被せてみると、うまくいった。
SPユニットの前のサランネットは決して伊達ではなく、高域を柔らかくする効果があるがイギリス系ユニットの場合には不可欠のようだ。
とにかく、口径20cm度のフルレンジのユニットの「濁りのないシンプルな響き」には心を癒されるものがあるので、現状の音に「物足りなくなった方」とか「飽いてきた方」にはセカンドシステムとして活用されるといかがだろうか。
身近に比較できる音があるのと、ないのとでは大違いで互いのシステムの欠点が把握しやすいのも大きなメリットの一つ。