「音楽&オーディオ」の小部屋

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魔笛の指揮者・歌手達~夜の女王編~

2007年06月30日 | 魔笛の指揮者・歌手達

オペラ魔笛は主役クラスの5人の歌手達による歌唱力、表現力次第で全体の雰囲気が千変万化する。

たとえば、
ザラストロ役(バス)は荘厳と叡智
夜の女王役(コロラトゥーラ・ソプラノ)はきらびやかな美しさとヒステリー
タミーノ役(テノール)は気品、勇気、情熱
パミーナ役(ソプラノ)は可憐、優しさ、従順
パパゲーノ役(バリトン)はメルヘン的な趣

という具合だが、この5人は男性陣でバス、バリトン、テノール、女性陣でソプラノ、コロラトゥーラ・ソプラノとなっている。女声のメゾ・ソプラノとアルトが欠けているが、まずヒトの声域のほとんどをカバーしているといってよい。

したがって、これらの声域ごとに、魔笛に出演した歌手達を現在から過去までたどっていけば、それはそっくりそのまま”声楽の栄光の歴史”をひもとくことになる。

ヒトの肉声は究極の楽器とも称されており、その意味では歌手は最高の演奏家でもある。

「栄光のオペラ歌手を聴く!」(2002年4月刊、音楽之友社編)、「オペラ名歌手201」(2000年9月刊、新書館)を格好の手引き本として引用させてもらって、声楽の歴史に名声を残す歌手達に焦点を当ててみよう。

まず最初に登場するのは、コロラトゥーラ・ソプラノの「夜の女王」役だが、その前に基礎知識として女声の種類をチェックしておこう。

ソプラノ → 女性の歌う高い方の声域
コロラトゥーラ・ソプラノ → 最も高いソプラノ(夜の女王役)
スーブレット → 最も軽いソプラノ
リリック・ソプラノ → その次に軽いソプラノ(パミーナ役)
リリコ・スピント → その次に軽いソプラノ
ドラマティック・ソプラノ → 最も重量級のソプラノ
スーブレット以下の区分は、音色と音質の差であり、音域はあまり関係ない

メゾソプラノ → 女声の中間声域、ソプラノより暗く低い音域

アルト → 女性の最低音域

≪CDの部21セット分≫

♯1 ビーチャム盤(1937年)
エルナ・ベルガー(1900~1990) ドイツ

歌手達のアメリカ流出が続く中で珍しくドイツに留まり、戦後に至るまで第一人者の地位を保ち続けた息の長い歌手。

♯2 カラヤン盤(1950年)
♯3 カイルベルト盤(1954年)
♯5 ベーム盤(1955年) 
ヴィルマ・リップ(1925~ )オーストリア
50年代、ウィーンとザルツブルクで夜の女王を独占状態。後のグルベローヴァのような超絶技巧ではないが、玉を転がすような声とどこかおっとりしたウィーン風の雰囲気はこれといった後継者が出なかった。

♯4 フリッチャイ盤(1955年) 
リタ・シュトライヒ(1920~1987) ドイツ
技巧を前面に出すよりは味わいで聴かせるタイプ。その後の歌手のような威嚇的な要素はまったくなく、むしろ軽快で可愛らしい印象。「魔笛」というメルヘンオペラに登場する不思議な国の「星の輝く女王」だった。

♯6 クレンペラー盤(1964年) 
ルチア・ポップ(1939~1993) スロヴァキア
リリック・ソプラノながらレパートリーが非常に広く、ウィーンやミュンヘンではパミーナやゾフィー(バラの騎士)などは独壇場だった。線が細いのによくはずむ可愛らしい声が魅力。最後は癌に冒されて現役のまま亡くなりオペラ界に衝撃が走った。

♯8 ショルティ盤(1969年) 
クリスティーナ・ドイテコム(1931~ ) オランダ

活動期間は短かったが、その超絶技巧はグルベローヴァでさえ一歩を譲る。

♯9 スイトナー盤(1970年) 
シルヴィア・ゲスツィ(1934~ ) ハンガリー
ほかに例のないドラマティックなキャラクターを持ったコロラトッーラ・ソプラノ。ツェルビネッタ役(ナクソス島のアリアドネ)でも人気を博した。

♯12 ハイティンク盤(1981年)
♯14 アーノンクール盤(1989年)
エディタ・グルベローヴァ(1946~ )スロヴァキア
70年、夜の女王役でウィーン・デヴューを果たしその後同役で一世を風靡した。「静止した緊張感」とも言うべき空気を場につくりだす独特の個性がある。史上最高の夜の女王である。多くのコロラトゥーラ歌手が年齢とともに声が重くなりレパートリーを変えていく中で今なお第一人者であり続けている。なお私生活上の伴侶は指揮者のハイダーである。

♯13 デービス盤(1984年) 
ルティアーナ・セッラ(1946~ ) イタリア
生国のイタリアでは評価されず外国でのデヴューとなった。夜の女王は得意な役でメトやウィーンなど様々な劇場に出演した。謙虚な努力家で「椿姫」から「ホフマン物語」など晩年に至るまで幅広い役をこなしている。

♯15 マリナー盤(1989年)
チェリル・スチューダー(1955~ )アメリカ
リリック・ソプラノのほとんどのレパートリーを世界の主要歌劇場で歌っており、メトロポリタンのプリマドンナ。93年の産休後から高音の不備に伴う慢性的不調に陥り、その後新しい方向性を開拓している。

♯17 マッケラス盤(1991年)
ジューン・アンダーソン(1952~ ) アメリカ
イェール大学でフランス文学を学んだ才媛。幼少のときからソプラノで注目を浴びていた。役に打ち込む熱心さには定評があり、その技術・美声が日本であまり馴染まれていないのは惜しい。

♯18 エストマン盤(1992年)
スミ・ジョー(1962~ ) 韓国
カラヤンに「仮面舞踏会」のオスカル役に抜擢されて名を挙げた。コロラトゥーラ・ソプラノとしてレパートリーが広く「バラの騎士」のゾフィー役はぴったり。オペラ歌手として活躍している東洋人の中でも最も成功している一人。

♯19 クリスティ盤(1995年)
ナタリー・デッセイ(1965~ ) フランス
フランスが生んだ久々の世界的オペラ歌手であり、グルベローヴァ以後最高のコロラトゥーラ歌手とも呼ばれる大変な逸材。その美声と美貌で世界中のオペラハウスから引っ張りだこ。声、テクニック、演技力と美貌に鑑み、実演に接する機会があれば絶対に逃してはならないとのこと。たしかに、このクリスティ盤でも出色の出来だったが、彼女の夜の女王の公開録音は今のところこれだけであり、この盤の値打ちは高い。しかも、極めてレパートリーが広いので夜の女王役はこれだけになる可能性がある。

♯20 ガーディナー盤(1995年)
シンディア・ジーデン(生年不明) アメリカ
シュヴァルツコプフに師事した。デヴュー後は世界各地のオペラ・ハウスに客演。この夜の女王役もバイエルンを始めパリ、ウィーン、サンタフェなどで出演し絶賛を博している。また、コンサート歌手としてもキャリアを広げている。

結局、夜の女王役でひときわ高い峰はグルベローヴァであり、その峰に追いつき、あるいは追い越すかもと目されているのはナタリー・デッセイである。

                       



 












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