伊勢すずめのすずろある記

伊勢雀の漫歩…。
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  感性の趣くままに-。

伊勢志摩に一番近い「水晶」の産地

2010年10月07日 | 三重県の鉱物など

少年達のお宝、「水晶」

 今は、百円ショップで、 パワー・ストーンとかラッキー・ストーンとかの名前でいろんな鉱物が売られており、水晶は「コーツ」や「クリスタル・ストーン」などと名付けられ、ピカピカに研磨した小石が小袋に入って並んでいる。昔からの言い伝えでは、無色透明の水晶玉は「魔除け」の御守りになった。そして、この六角のとんがり帽子の頭と柱から成る天然の結晶は、「六方石」とも呼ばれ、近くの岩山などで採れようものなら、少年達の探検心を煽るお宝であり、宝石に匹敵する憧れの鉱物であった。

 伊勢市では本物の水晶は、高麗広の大滝谷口の五十鈴川の岸でごく細かなものが産するが、伊勢道路が出来る以前は、五十鈴公園付近の小谷(施餓鬼谷)から「針水晶」なるものがたくさん採れた。それゆえ、この小谷を誰もが「水晶谷」と呼んでいた。見かけは白色~無色透明の針状の水晶さながらの鉱物であり、蛇紋岩の空隙に群生して産したが、この鉱物の正体は、後になって針状~柱状の方解石や霰石だという事が判った。

 伊勢市内の少年達は、それでも水晶だと信じ、この「針水晶」をよく採りに行った。学校には、幾つかの立派な本物の水晶の標本があったが、夏休みの宿題として学童らが集めた石の標本の中にも、岩から細かな水晶が生えたものを何処からか採ってきて出していた子がいた。その水晶の生えた石は、大杉谷で拾ってきたものだと言っていたのを覚えている。

 

三重県下で「水晶」の採れる所

 ブログのバックナンバーで、志摩市磯部町産のきれいな水晶の写真を紹介したが、この標本は、鸚鵡石付近の広の谷より産したものである。他では、鳥羽市安楽島町の海岸や青峰山の砂岩から砂糖粒のような微細な水晶(群晶)が採れるが、目ぼしい産地となると、伊勢志摩地方には殆ど知られていない。

 三重県下の水晶の産地は、幾つかあるが、現在でも拾える場所は、まず鈴鹿山脈の花崗岩地帯やスカルン帯が上げられ、ペグマタイト(巨晶花崗岩)の見られる宇賀渓や宮妻峡、朝明渓谷、スカルン鉱物(接触変成帯特有のCaに富む珪酸塩鉱物)の出る青川の上流などに行けばよい。さらに、伊賀市や名張市にもペグマタイト地帯は幾つかあり、県の南部では、紀北町海山区の船津や木津(こつ)、栃山、大杉谷(多気郡大台町)などがよく知られており、和歌山県に近い紀州鉱山やその周辺にも産地が点在する。

 伊勢志摩に一番近い場所で、誰もが手軽に行ける所としては、 松阪市の堀坂山(ほっさかさん)に古来の大産地がある。それゆえ、ここを紹介しよう。

 

松阪市丹生寺町から眺めた堀坂山(中央の山)

松阪市堀坂山の水晶の産地

 堀坂山は、奈良朝の昔から雲母石(きららいし・白雲母)の産地として有名な場所である。終戦後の昭和20年代には、珪石(石英)や長石を採掘し、陶磁器の原料鉱石として出鉱していた鉱山跡もある。雲母谷(きらだに)をはじめ、山の各所にペグマタイトと鉱脈があり、美しい水晶や柘榴石(ざくろいし)が採集されている。

 詳しくは、引き続いて記す「産地のガイド文」(筆者の著作「堀坂山の鉱物」より引用)を参照されたい。

1. 堀坂山について

 松阪市の西方に、山ひだの発達した険しそうな山々がそびえています。そのうちひときわ高い2つの頂きが目につきますが、向かって右側が観音岳(605.9m)、左側が堀坂山(757.4m)です。堀坂山には、東に下る尾根の中腹に電波の反射板が2つあり、銀色に輝いているのが眺められます。観音岳と堀坂山との間には堀坂川が流れ、ちょっとしたV字谷を形成し、小滝(乙女の滝、他)やきれいな渓流が見られます。谷の入り口を横切る高速道路付近の地形は扇状地で、山すそには活断層も走っており、以前は河床に段差のある露頭が見られましたが、平成に入ってからの改修によって消滅しました。

 山地へは、伊勢寺町から県道(合ヶ野-松阪線)が堀坂川の河谷に沿って通じており、松阪市森林公園を過ぎ、堀坂峠(468m)越えると与原の在所に至ります。 又、堀坂山の南・西方背後の山間地へは、辻原町で国道166号線から分岐し、阪内町を経て細野峠(450m)越えに分け入る県道(小原-辻原線)が通じており、伊勢山上(飯福田寺の行者岩で名高い山)のある飯福田町に至ります。さらにここから与原や一志方面に回ることもできます。

 松阪市の高峰堀坂山は、昔から白雲母(古名を"きらら"と言う)の産地として名高い場所です。伊勢名勝志という本によれば本朝年代記に元明天皇和銅6年(西暦713年) 伊勢大和両國より水銀雲母を貢す 今堀坂山に雲母石あり 往年紀伊和歌山藩主へ此の石献せしことあり 勢國見聞集 」 との記述があります。 又、終戦後の一時期に、珪・長石(珪石と長石、珪石は石英の鉱石名)を採掘し出鉱していた鉱山跡が、雲母谷とその上方の尾根付近にあり、現在も索道の一部(ワイヤー)が残っています。

 昭和30~40年代には、鉱山跡のズリ(捨て石場)や貯鉱場の跡付近から、巨大な白雲母、水晶がたくさん採集されました。これらの鉱物は、いずれもペグマタイトと呼ばれる鉱脈から産出するものです。堀坂山には、この鉱物の宝庫とも言えるペグマタイト脈が、今も各所に眠っています。

 

2. 堀坂山の鉱物

堀坂山産の水晶  堀坂山には、ペグマタイト鉱脈のほか、アプライトの岩脈や石英脈、含炭酸塩粘土脈などがあり、雲母谷の鉱山跡をはじめ、小谷やガレ場、河床の転石、道路沿いの崖などから、各種の鉱物が産出しています。雲母谷の鉱山跡では、常に石英、カリ長石、白雲母など、数種類の鉱物を採集することができますが、当地の鉱物は、松阪市森林公園と松阪市図書館(1階のロビー)に展示されています。

 堀坂山の主な鉱物種は、次の通りです。

【 ペグマタイト鉱物 】

  1. 珪酸鉱物:石英、水晶、煙水晶、玉髄
  2. 珪酸塩鉱物
    a.長石類
    :カリ長石(正長石、微斜長石)、曹長石、紅長石※、文象長石※
    b.雲母類
    :白雲母、加水白雲母、絹雲母、黒雲母、鉄雲母
    c.粘土鉱物
    :カオリナイト、モンモリロナイト、加水白雲母、絹雲母、緑泥石
    d.その他
    :鉄礬石榴石(てつばんざくろいし)、鉄電気石、普通角閃石(母岩中)、緑簾石、緑泥石
  3. 炭酸塩鉱物: 方解石、苦灰石

【 金属鉱物 】

    輝水鉛鉱、黄鉄鉱、赤鉄鉱、褐鉄鉱※、二酸化マンガン鉱※、忍石※
  ( ※ 正式な鉱物名ではありません )

 

3. 雲母谷の鉱物採集

 松阪市森林公園から、堀坂峠に至る県道に出て右に折れると、すぐ先の左手に「林道雲母谷線」が分岐しています。この簡易舗装された林道を500mほど登って行くと、終点付近に貯鉱場の跡があり、路面に白っぽい石英の小片が散乱しているのが目につきます。この前方の小谷が雲母谷です。谷の入り口左手の山の斜面に当時の試掘跡のズリがあり、ここで水晶や煙水晶、鉄礬石榴石、白雲母、カリ長石などを採集します。ズリの土砂をザルですくって水洗いをすると、時々サッカーボールのような感じの、コロコロしたきれいな鉄礬石榴石の結晶(最大数ミリ程度)を採集することができます。

 石英塊の散乱するこの谷を少し奥に入ると、作業小屋跡の石積みがあり、純白のきれいな石英を拾うことができます。さらに、ブッシュをかき分け谷を上り詰めると、谷壁を成す岩盤の一部に、小さなレンズ状の晶洞を伴うペグマタイト脈の貫入露頭が見られます。(この晶洞内の水晶はすでに採集されてしまいました )

 以前は、採集の度に小型の水晶(平板タイプが多い)が拾えましたが、今は結晶面のあるかけらが拾えればよい方です。整った形のきれいな水晶を採集するには、この山の上方の尾根付近にあるもうひとつの鉱山跡に行かなければなりません。 ただし、ここからさらに40分ほど、立ち消えになった当時の山道をたどらなければなりません。

 雲母谷では、次の鉱物をチェックし、採集して下さい。

石英、水晶(かけら)、煙水晶(かけら)、鉄礬石榴石、カリ長石、紅長石、曹長石、文象長石、白雲母、黒雲母、鉄雲母、絹雲母、緑泥石。

 

4. 堀坂山の水晶

 六角の柱面と、とんがり帽子の錐面から成る水晶は、珪酸( SiO2 )を成分とする石英の結晶を言います。地方によっては俗に「六方石」とも呼び、昔から蛍石(ほたるいし)や石榴石(ざくろいし)、とともによく知られ、親しまれてきた庶民的な日本人好みの鉱物です。石英を鉱石として掘り出す時は、「珪石」(けいせき)と称し、主にガラスの原料などになります。

 堀坂山では昔から「きらら石」がたくさん採れ、これといっしょに水晶も産出し、珪石・長石を目的とした鉱山が開発された当時は、鉱脈中の晶洞よりビールびん大を超える巨大な結晶が出たそうです。近年、雲母谷南隣のスス谷において大きな晶洞が発見され、煙水晶の巨晶が採集されていますが、堀坂山の水晶は正しい形のものとともに、薄っぺらな「平板水晶」(ひらばんすいしょう)と言うタイプの結晶が数多く見られます。

堀坂山産の煙水晶  鉱物は産地によって結晶の形や色、出方に癖があり、平板水晶もその「晶癖」のひとつです。このほか、双晶を成すもの、幾つもの小型の結晶が「笙の笛」のように行儀よく並んでくっついた状態の平行連晶を成すもの(笙状水晶や鎧水晶)、太さの違う2本の水晶が連結したような「松茸水晶」(平行連晶の一種)、そして頭の一部にアクセサリー的な小面を備えた「右水晶」や「左水晶」などが見られます。色ついては、無色透明のものを外国では「Rock Crystal」と呼びますが、普通の水晶は無色透明か白色です。堀坂山ではこのほか、乳白色の「乳水晶」(ちちずいしょう)、焦げ茶色の「煙水晶」(けむりずいしょう)、やや黄色味がかった淡い「黄水晶」しか採れません。色が単色でないものは俗に「二色水晶」などと呼んでいます。

 また、異質の水晶として、結晶の内部に小型の水晶や別の鉱物、気泡、水泡などが入り込んでいるものがあり、見え方によって、それぞれ「山入り水晶」、「草入り水晶」、「泡入り水晶」、「水入り水晶」などと称します。結晶内部のこれらの包有物は「インクルージョン」と言い、ひとつの水晶が結晶として成長する以前に、すでに鉱液の内部にその鉱物が晶出していたものです。 堀坂山の水晶にも時折、電気石の針状結晶や絹雲母の微片などを取り込んだ、いわゆる「ススキ入り」や「箔入り」タイプが見られます。

 

5. 水晶の本

水晶だけを取り上げて解説した書物となると、以外と少なく、 鉱物図鑑以外にはなかなか見つかりません。そこで、手ごろな初心者向けの一般書を幾つか紹介します。

  • カラー自然ガイド 鉱物 -やさしい鉱物学-
    (益富寿之助 著・初版 1979 , 保育社)
  • 鉱物採集フィールドガイド
    (草下英明 著・初版 1982 , 草思社)
  • 楽しい鉱物学
    (堀 秀道 著・初版 1990 , 草思社)
  • 山の結晶 -水晶の鉱物学-
    (秋月瑞彦 著・初版 1993 , 裳華房)
  • たのしい 鉱物と宝石の博学事典
    (堀 秀道 著・初版 1999 , 日本実業出版社)
  • 「鉱物」と「宝石」を楽しむ本                    (堀 秀道 編著・初版 2009 , PHP文庫)

 中には絶版となった本もあるかも知れませんが、 最寄りの書店に依頼すればどれかは入手できるはずです。この内「山の結晶」は専門書ですが、他はアマチュア向けのやさしい読み物(解説書)です。中でも、「カラー自然ガイド 鉱物 -やさしい鉱物学-」は、色々な水晶のカラー写真を掲載した文庫本で、内容のあるとてもよい本です。なお、小学生向けの手軽な図鑑としては、学習研究社のポケット図鑑シリ ―ズの「鉱物・岩石」をお薦め致します。

     

    写真上から

    • 松阪市丹生寺町から眺めた堀坂山(中央の山)
    • 堀坂山産の水晶
      (上3個は普通の水晶、下の2個は平板水晶-ひらばんすいしょう。左上の標本で、長さ約4㎝)
    • 堀坂山産の煙水晶(左の標本で、長さ約3.5㎝)

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