アバウトなつぶやき

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「パラランドスケープ “風景”をめぐる想像力の現在」展

2019年01月25日 | かんしょう
 先週のことですが、いつものようにシロウタと一緒に三重県立美術館で開催中の「パラランドスケープ “風景”をめぐる想像力の現在」展を見てきました。





 この展覧会は5名のアーティストがそれぞれが違う視点で風景を切り取って表現しています。
 既存の風景を扱う部屋もあれば、見知らぬ風景を思わせる部屋もあります。

 まず、入館してすぐのエントランスホールには伊藤千帆さんの作品が展示されています。いつもと違う雰囲気の三重美が出迎えてくれて気分が上がります。
 今回の展覧会は撮影OKということだったので、この後いくつか撮影した写真を紹介しますが、彼女の作品だけ撮り忘れてました。しまった
 ホールには木が敷き詰められ、天井からは下に向かって枝が伸びているのですが、その枝は三重県林業研究所で伐採予定だったケヤキやサクラを組み合わせたものだとか。下から見上げるだけでなく2階からも眺めることが出来るので、色んな表情が楽しめます。
 木目のプリントされた半透明のラテックスのカーテンは光が入り込むことで空間自体を木で囲まれたものにしようとしたのでしょうか。木の清々しさと光の柔らかさを感じる空間が広がっています。

 会場に入って1室目は尾野訓大さんの展示です。
 何枚もの写真を、展示室の壁全体だけでなく、窓の外や内階段の上にまで張り巡らせています。
 まずは天井から貼られている巨大な風景写真のインパクトが目を引きます。いつも展覧会で入っているこの部屋はこんなに天井が高かったのか、と、思います。それに、この部屋から窓の外を見るのって久しぶりです。明るいな~。
 広々とした展示方法に、初めて来た場所のような気持ちにさせられました。
 写真に目をやると、それぞれ見たことがあるような、でもやはり全く知らない風景が写っています。そして、よく見るとそれは大きくプリントされた雄大な連山に見えるものが海辺の岩礁だったり、美しく咲いた花が萎れた姿を同時に見せたりしています。
 解説によると、それぞれ数時間という長時間露光で撮影した写真とのことでした。
 写真という、本来なら一瞬を切り取る媒体の中に時間を詰め込んでいるので、移りゆく姿が不思議な雰囲気を醸し出しているのです。
 現代の、SNS上で共感を求めるための写真とは異なるとのことで、、、そうなんですけども、そういうのばボ-ダーレスで考えても良いんじゃないかと思うわけで、なんちゅーか、わざわざ解説しなくてもこの展示だけで十分個性が伝わるのでは無いかとその時は思ったわけです。
 手のひらにおさまるスマホから見る景色ではなく、いつも見えないはずの景色がいつもと違う大きさで目の前に迫っているだけで、それはもう個性的な展示なわけで…。でも、解説を読まなかったら、その比較をしなかったでしょうし、そういう視点では見なかったかも知れないので、やっぱり解説って必要なんだと、思い直しました。
 いやぁ、作品を知ろうとすると考えさせられますねぇ。

 
 2室目は稲垣美侑さんの展示です。

 第一印象は「かわいいぞ~」。
 半透明の布越しに広がる空間はやわらかく、移動する度に視点が変わるので楽しい気持ちにさせられます。
 クリアで鮮明なものって、視覚でも感覚でもガラスのようにすっきりしていて気持ちが良いのですが、氷砂糖のように、光を真っ直ぐに通さずにぼんやりと色んなものを包み込む感じもまたそれはそれで良いものです。
 
 この日は県民ギャラリーのお客さんが多かったようで、この展覧会を目当てに来ているわけではなさそうな方がたくさんいらっしゃいました。
 その中におじいちゃん二人組がいらっしゃって「こりゃ~、なんだ?これが芸術かぁ。オレには分からんけど、○○ちゃん(もう一人のおじいちゃんのお名前)は美術部やったでわかるやろぉ」と言いながら展示室に入って来ました。
 するとお相手のおじいちゃんが「うーん、スケッチとかは行ったけどなぁ、こういうのとは違うで…」と言いつつガラスブロックを覗き込んで「おっ、こっちから見るとあっちが中に入ってるように見えるなぁ」と、結構大きめの声で話しておられる。でも騒がしいというのではなく、本当に微笑ましいお二人でして。
 「あぁ、ホントやなぁ」「わからんけど面白いなぁ」と言っているのが、まさに作家の意図した「風景がふとした瞬間に与えてくれる新鮮さ」を楽しんでると感じて、こういう新しい出会いがあるのが美術館の醍醐味だなぁと、こちらまでとても楽しい気分になりました。
 『三重県鳥羽市の離島を尋ね歩いた体験をインスピレーションに作品を制作』とのことですが、作品を観て鳥羽を連想することはなくともその風景(この場合は展示室の絵画)が見え隠れする感じは海沿いの街にある路地や坂道に通じるものがありました。

 そのお二人とほとんど一緒に入ったのは、徳重道朗さんの第3室。
 まずは、三重美所蔵の三重の南勢地域を描いた作品が紹介されています。この部屋は南伊勢町、大紀町、紀北町の集落がモチーフなので、そのつかみになってます。
 ふたりのおじいちゃんは「伊勢湾台風は高校生の時やったなぁ」「あぁ、これは□□の風景やなぁ」「行ったことあるんか?」「あぁ、ここに××と旅行に行った」なんてことを話しています。ん~、お二人は地元三重県人で間違いございませんね!

 上の写真は展示スペースの奥の方の雰囲気ですが…なんだかケースがガタガタに配置されていますよね。この全体的に無秩序とも思える変わった配置は海岸線をイメージしているとかで、雑多な雰囲気は生活感のある漁村にはピッタリです。
 
 ↑(左)は、この地域にトンネルが開通した時に配布された「貫通石」が展示ケースに入っています。貫通が物事を貫くことに通じるということで縁起物として扱われるそうです。
 販売される事もあるそうですが、この時は希望者に配布されたそうで、両側から掘り進めて貫通したときの工事関係者の喜びが伝わります。
 この展示方法も面白くて、展示ケースは斜めに配置され、トンネルのようです。そしてその奥に入り込むとそこには大きめの「貫通石」があるのです。
 
 この、奥を覗き込むと見える何か、という手法は芦浜原発建設計画関連の資料を展示しているコーナーにも使われています。
 原発の建設計画のあった南伊勢町(当時は南島町)の普段の写真の貼られたパーテーションの奥に中部電力の原発計画資料が隠れていました。
 町の写真は朴訥な人々の暮らしとともに、過疎化している寂しさを感じさせます。その中にひっそりと計画地の立ち入り禁止看板があり、なんというか大きな力がするりと隙間に入り込もうとしていたのが分かります。
 結局、この計画は2000年に撤回されるのですが、この時の資料ももちろん展示されていて、件のお二人が「これは北川さんの業績やなぁ」としみじみ話しているのが印象的でした。
 私も三重県人なので、北川正恭(当時)知事が三重県は環境県である、と謳っていたのを覚えています。ただその頃、うちの近所には紆余曲折のあったゴミ処理施設計画なんかがございまして「環境だなんだと言ってる割にはこんな工法の施設建ててたらダメでしょ」と思ったりしたものです。でも、この功績を思うと「北川さん、頑張ってくれてありがとう」という気持ちになるなぁ。
 と、ちょっと社会派な感じですが、風景を切り取って体感的な見せ方をするというインスタレーション。とても面白いです。そして三重県の美術館でやってる意義みたいなのも感じます。
 長く居ないと分からない事情の中にも外から見た客観的な視線が混じっているので、この作家はここの出身の人ではないって分かる。この展示を《対岸の風景》と名付けたのは、やはりこの方がジャーナリストでなくアーティストなんだということの現れだと思います。

 4室目は伊賀市在住の藤原康博さん。今回の5人は少なからず三重と関係のある方なんですね。

 奥にリーフレットの表に使われた作品《あいだの山》が見えますね。
 手前の小屋には入ることが出来まして、中には模型であったり道具であったりと色んなものが詰まっていました。
 こうやってちょっと秘密の小部屋を覗きこむ感じってワクワクします。子どもの頃の何かを思い出すような気がするんですよね。
  
 この方の描く絵は、どこか知ってる景色のような気がします。どこにでもあるような景色を独特のタッチで描くので、見る側がそれぞれ「ここ、あの場所に似てる」と思えるのでしょう。
 解説に「制作に当たって、自らの個性やモチーフの特徴を強調するのではなく、ある種の匿名性を帯びさせることに留意している」と書いてありました。なるほど、それなら私の感じたものは作品の意図したものから外れてなかったという事かしら。
 この方は絵だけでなく他にも立体作品を作ってるのかな、と思って検索をかけたらギャラリーの作品紹介がヒットしました。
 そしたら、あらあら、なんだか可愛らしい雰囲気の作品も出てきました。作品に対する姿勢は変わらないのでしょうが、今回の展示のようなちょっと厳かな雰囲気のものとは違う、ポップなフォルムのものが出てきたんです。色んな表現をお持ちの方なんですねぇ。

 私はあまり現代美術に積極的ではないので、こうやって現代作家さんの作品を観る機会があると新しい出会いがあって楽しいです。
 コレクション展では企画展に合わせて風景にちなんだ作品が出展されているので、久しぶりに渡部裕二氏の作品が観れてほっこり今回は三重県立美術館の主催ならではの作品が満喫できて、また三重美に愛着が湧きました。
 他所の美術館へ足を運ぶのは旅行気分でこれまた楽しいんだけれど、地元の美術館はお馴染みならではの味わいがあるものです。
 また、次回の企画展を期待しています。