アバウトなつぶやき

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「英国の夢 ラファエル前派」展

2015年10月22日 | かんしょう
先週、名古屋市美術館で開催中の「英国の夢 ラファエル前派」展を観に行ってきました。



ラファエル前派はとてもロマンチックです。緻密な描写による絵の美しさに加え、そこに風俗や情景、文学・宗教的要素を盛り込んでいるので非常に物語性に富んでいるのです。

アカデミーが拠り所とする古典的絵画の規範とみなされたルネサンスの巨匠ラファエロ以前の絵画への回帰を唱え、誠実な態度で真摯に主題に取り組み、緻密な自然描写を追求しました。そして道徳的含意をもつ文学的、宗教的、あるいは日常生活の場面を通じて民衆を教化できると信じ、作品ができるだけ多くの民衆に届くように努めたのです。
HPより抜粋


それぞれに美しく、それぞれにストーリーを感じさせる作品ばかりです。

▲ジョン・エヴァレット・ミレイ《ブラック・ブランズウィッカーズの兵士》
特に↑はドレスの質感がものすごく繊細で、当時も評判になったという説明に深く頷いてしまいました。

この時代、キャンバスに描いた油絵ばかりだと思っていましたが、結構な数の水彩画(ガッシュ含む)の作品がありました。
ただ、水彩と言っても薄い色使いで色の濃淡を楽しむような絵ではありません。画材が水彩絵の具のため色が優しいというだけでみっちり描きこまれています。↓

▲ウィリアム・ヘンリー・ハント《卵のあるツグミの巣とプリムラの籠》
あんまり綺麗で、めちゃくちゃ顔を近づけてのぞき込んでしまったわ。


▲エドワード・コーリー・バーン=ジョーンズ《スポンサ・デ・リバノ(レバノンの花嫁)》
これ、3mもある水彩画です。すごい大作!
花嫁の後ろのお二人は北風と南風。風神雷神を思い出してしまったワタクシです。

そういえば私の面白いと感じたことの一つに天使の表現がありました。神話をテーマにした作品が相当数あるのですが、そこに描かれている天使が一般的な日本人が想像する白い服着て白い羽根を持った天使ではないのです。(リーフレットのエドワード・バーン=ジョーンズ《フラジオレットを吹く天使》もまさにそれ)
赤や青の色をしていて装飾のある服を着ていたりと、かなりファッショナブル。羽根も茶色かったり赤っぽかったりと鳥に近い雰囲気を持った羽根をしている天使が多く、白い羽根の天使は少数派。
おそらくギリシャ神話に登場する神々は人間と交わったりしているので、物語を追求するとより人間味があるというか人間界にいて違和感のない姿になるのでしょう。
白で神秘性を強調したりしていないので、より絵の描いている物語に入り込める気がしました。

あと、絵が美しいのにその風俗が気になった絵画がコチラ。

▲ジョン・エヴァレット・ミレイ《春(林檎の花咲く頃)》
「このご婦人達、ピクニックに来てるんだろうけど何を召し上がってらっしゃるの!?お粥?お粥なの??こんなに美人でいいとこのお嬢さん風の娘達が揃ってて食べてるモノはこれだけ?ダイエット中なのかい、みんな。」と心の中で突っ込まずにいられませんでした。
イギリスの食事、評判悪いのは本当なんだろうか。あんまり美味しそうに見えないんだけど…。

と、最後はヘンな感想書いちゃいましたが、全体的にうっとりと眺められる絵画が揃っていました。
平日、午前中に仕事して午後から駆けつけた割には来場者は多かったと思います。人気ある展覧会のようですね。

会期は12月13日〈日〉までなので、まだまだこれから。
芸術の秋にぴったりの展覧会なので、デートやお出かけに組み込んで頂きたいところです。

「鎌井松石と本草学の世界」展

2015年10月16日 | かんしょう
もう先月の話になってしまいましたが、四日市市立博物館で開催中の「鎌井松石と本草学の世界」展を観てきました。




まず「本草学」についてですが、奈良~平安時代に中国から伝わり江戸時代に発展した、薬を見つけるための総合的な学問の事を言います。現在の『薬学』『植物学』『鉱物学』を包括する『博物学』に相当するものです。
江戸時代に大きく発展した背景にはシーボルトの来日があります。
シーボルトは植物学で有名な長崎の出島に住んでいたオランダ人…と書こうとして念のためにウィキペディア見たら立場が「オランダ商館医」であって、実はドイツ人らしいです。
そのシーボルトに師事した塾生の中に愛知県の伊藤圭介がいるのですが、鎌井松石はその伊藤圭介らとの交流がありました。つまり、日本の本草学の中心にかなり近かったと言えます。

さて、会場の中は鎌井松石に関する資料でいっぱいです。
意識していなかったけれど、三重県の本草学の代表的人物であったことがよく分かります。
鎌井松石は明治5年に開催されたオーストリア万博に出品するための三重県内諸物品の取り集めを任命されています。その後も文部省の地誌取調、神祇省の古跡調査他、国や県から仕事を任されて県内をくまなく歩き回っていました。

成果品として「三重管轄内博物誌」という著作を納本していますが、これは鎌井松石の著した本草学関係の書物に三重県の自然に関する書物や調査書の総称である「三重本草」の一部であったようです。
その著作物が一同に紹介されていて、その見聞の広さに感心せずにはいられません。
観察力があり絵がとても上手いのはもちろん、その絵を描いた場所が記載されているのでその風土を知る事も出来ます。また、地図などはご本人の足で調べに回っているため特筆すべき場所などが詳細かつ大胆に描かれていてたいへん有用性が高いものになっています。
身近な場所を調べた書物などもたくさんあったのですが、地名が現在使われている漢字と違う字を充てているところが多くありました。昔の字のほうが場所の特徴をよく捉えたものが多い気がして、個人的にとても面白いと思いました。

ただ、ちょっと残念なのが著作物以外の展示物。
著作物は国会図書館に保管されているものがあるので状態の良いものを見ることが可能ですが、他の収集品や作品はそうもいきません。
鎌井松石の作品…というか所有物の屏風があったのですが、保存状態が悪くて穴あきや変色が目立ちました。
おそらくご家族にとっては特別なものではなく「おじいちゃんが黒板代わりに使ってたもの」というような認識だったのではないでしょうか。医者・先生・役人としての業務が本業であり、色んな収集品や私物はその副産物という風に思っていたとしたら傷んでしまっても仕方がありません。
ちょうど先月観に行った愛知県美術館で開催していた「芸術植物園」では前述の伊藤圭介の作品が何点か出ており、それらは美術品として観ても見応えのあるものでした。
伊藤圭介は博物館などがその作品を所蔵しているのだから保存状態が良いのは当然なのでしょうが、間をおかずに見ただけに対照的に感じてしまい、三重県人として地元民として非常にもったいない気がしました。
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それにしても、収集品は色んなものがありましたよ~。
あんなのを自分の家族が集めていたら「あんなに集めてどうするのよ」って思うかもしれない^_^; 
記事を書くのが遅くなったので、会期があと一週間になってました。しまった…。
でも、面白いので見る価値はあります! 特に地元の方には見ていただいて誇りに思っていただきたい方です。