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2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【後藤謙次】再々改造は権力構造を変える ~事実上の「古賀・菅連合内閣」~

2017年08月06日 | 社会
【後藤謙次】再々改造は権力構造を変える ~事実上の「古賀・菅連合内閣」~

 (1)第3次安倍再々改造内閣は、その顔触れから、事実上の「古賀・菅連合内閣」と呼んでいいかも。菅義偉(68)・官房長官と古賀誠(77)・元幹事長/自民党岸田派の実質的なオーナーの影響力が色濃く反映されているからだ。
  (a)岸田派・・・・岸田文雄(60)・会長は、希望通り、外相から政調会長として自民党執行部入り。閣僚人事では法相に上川陽子(64)、文部科学相に林芳正(56)、防衛相に小野寺五典(57)、1億総活躍担当相に参院議員の松山政司(58)の4人を送り込んだ。岸田派にとっては岸田がポスト安倍をにらんで大きな足掛かりをつかんだと同時に、「満額回答以上」(岸田派幹部)の閣僚誕生で政権内での発言権も格段に拡大した。
  (b)菅に近い議員たち・・・・閣僚の顔触れで目立つ。その象徴が小此木八郎(52)・国家公安委員長兼防災担当相と梶山弘志(61)・地方創生担当相。2人とも菅が師と仰いだ小此木彦三郎・元通産相、梶山静六・元幹事長の息子で後継者だ。
  (c)河野太郎・外相・・・・麻生派に属するが、神奈川県内の政治を差配する菅の影響を強く受ける側近議員とみていい。
  (d)斎藤健・農水相・・・・石破派からただ1人入閣を果たしたが、元経済産業省の官僚出身ながら自民党農林部会長を務め、菅と共に農業改革の先頭に立ってきた“隠れ菅派”ともいわれる。
  (e)野田聖子(56)・総務相・・・・菅と深い因縁がある。野田は1998年の自民党総裁選で小渕恵三・元首相を相手に立候補した梶山静六を、菅と共に支援した数少ない議員の一人。さらに野田の後見人的な立場にいるのが古賀だ。野田の入閣からしても、菅と古賀の周到な連携があったことを窺わせる。

 (2)古賀は、森友学園問題や加計学園問題などをめぐって安倍晋三(62)・首相が窮地に立たされると、いち早く安倍支持を表明するよう岸田に説いた。
 「政権が困っているときに足を引っ張らない。それが保守本流である宏池会(岸田派)の伝統だ」
 その考えに沿うように通常国会および閉会中審査で小野寺ら岸田派所属議員が質問に立ち、安倍を守る防波堤の役割を果たした。
 人事も、いずれも前内閣のトラブルの後始末を「古賀・菅連合」で担うことになった。
  (a)加計問題で混乱を極めた文科省の立て直しを任されたのが林。
  (b)南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の日報問題で辞職に追い込まれた稲田朋美・前防衛相の後任に、防衛相経験者でもある小野寺。
  (c)不安定な国会答弁で物議を醸した金田勝年に代わる法相として再登板した上川。
  (d)加計問題で話題となった国家戦略特区を担当する地方創生担当相は梶山弘志。
 
 (3)他方、改造直前に派閥を拡大させた副総理兼財務相の麻生太郎(76)の存在感は急速にしぼんだ。麻生自身と新たに麻生派入りした副総裁の高村正彦(75)の留任に加え、義弟でもある鈴木俊一(64)・五輪担当相と前述の河野だけ。派閥拡大効果は殆ど無い結果に終わった。
 麻生vs.古賀は、当選以来のライバル関係。
 麻生vs.菅も、消費税率引き上げ問題などをめぐって意見の対立を繰り返してきた。
 その意味で今回の改造人事は安倍が「古賀・菅連合」に軸足を移したともいえる。今後、政権内の権力構造を大きく変える可能性が出てきた。

 (4)今回の人事の出発点は内閣支持率の急落を食い止めることにあった。支持率急落の最大の要因は、加計問題や稲田に対する過保護といってもいいほどのかばい過ぎなど、安倍自身の姿勢にあった。
 それが第1次政権の「お友達内閣」と重なる「身びいき」と受け取られ、安倍に対する世論の離反を招いたことは間違いない。
 閣僚経験者を多数入閣させたことで、「安全運転最優先」の安倍の危機感は伝わる。
 とはいえ、この内閣は「守り」を固めることに比重を置き過ぎて、政策的に何を目指す政権なのかというメッセージが伝わってこない。
 とりわけ欠落しているのは「戦(いくさ)備え」だ。衆院議員の任期満了は来年12月。残すところ1年4カ月。与党公明党代表の山口那津男も選挙が近いことを繰り返している。
 しかし、安倍は選挙の要である自民党選挙対策委員長に出身派閥の細田派事務総長、塩谷立(67)を起用した。塩谷は温厚な人柄で敵も少ないが、議員が生き残りを懸け、修羅場と化す候補者調整には不向きな人材だ。
 それを考慮してだろうか、幹事長に留任した二階俊博(78)は、これまで存在しなかった選対委員長代理を新設して側近の幹事長代理、林幹雄(70)を兼務させることを決めた。

□後藤謙次「権力構造を変える再々改造は事実上の「古賀・菅連合内閣」 ~永田町ライブ!No.351~」(「週刊ダイヤモンド」2017年8月12日号)
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