語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>年内に冷温停止しない理由

2011年10月06日 | 震災・原発事故
 9月22日、国連本部で演説した際、野田佳彦首相は「原子炉の冷温停止を年内に達成すべく全力を挙げている」と述べた【注】。
 しかし、これは単なる希望的観測にすぎない。
 たしかに、原子炉は冷却しつつある。その要因は、
 (a)これまでの注水方法は「給水系」だったが、9月から燃料棒のある炉心の上に直接シャワーのように散水する「炉心スプレー系」に変えた。
 (b)循環冷却システムも、東芝が中心の「サリー」に変えてからうまく作動するようになり、注水量を増やしても汚染水が溢れ出さなくなった。

 気候がよくなり、さまざまな環境が改善されていくので、今後さらに改善が見込める。
 ただし、年内に冷温停止を実現できる、と言える状況ではない。
 (1)原子炉建屋は放射線量が高くて中に入れず、様子が十分に分からない。
 (2)燃料棒のありかすら判然としない。「炉心スプレー系」の冷却も、さまざまなデータやこれまでの経験をもとにした勘で「このへんがいいだろう」と注水しているだけだ。燃料棒が飛び散っている可能性さえある。
 (3)冷却が進む3号機も、100度以下に下がったかと思うと、また上昇する、という状態が続いている。
 (4)地震の影響で建屋がかなりの亀裂が走り、地下水が流入している。6号機がそうだし、1~4号機も同様だと推定される。1~4号機は6号機より古くて耐震性に劣るから亀裂もひどく、流入する地下水も6号機より多い(推定)。福島第一原発で35,00トン(9月21日の東電発)。流入が大量になると、注水量を減らさねばならない。亀裂は地震によって生じた。本社は、地震のダメージを公表したくないから、地下水について語りたがらず、雨水だと言い訳してきた。
 要するに、年内の汚染水処理も冷温停止も、ハードルが高すぎる。

 【注】記事「「原子炉の冷温停止、年内めど」野田首相が国連で演説」(2011年9月23日1時30分 asahi.com)

 以上、本誌取材班「原発は年内に冷温停止しない」(「週刊朝日」2011年10月7日号)に拠る。
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【経済】日本を見捨てる富裕層

2011年10月06日 | 社会
(1)日本を見捨てる富裕層
 「週刊ダイヤモンド」2011年10月8日号の特集は、「日本を見捨てる富裕層」だ。停滞する経済、混迷する政治、大きな財政赤字に、原発事故による環境汚染、といった日本の諸問題を見て、日本に見切りをつける資産家の動向をレポートしている。富裕層の動向はビジネス的にも影響が大きいので、ぜひ把握しておくといい。
 日本の「億万長者」は、世界全体の16%に相当する174万人だ。富裕層を不動産を除く金融資産を1億円以上持つ世帯と定義すると、金融資産1億~5億円の「富裕層」が84.2万世帯(合計資産額は189兆円)、5億円以上の「超富裕層」が6.1万世帯(同65兆円)にのぼる。
 「ミリオネア」が日本を見捨てるやり方は二つ。(a)日本を離れて海外に移住する「人的流出」。(b)日本国内の資産以外に金融資産の運用先を求める「金融資産の流出」。
 (a)については、治安・衛生の環境が良く子供が英語・中国語を覚える(かも知れない)シンガポールが移住先として人気だ。ただ、①近年移住へのハードルが上がっている。②フィリピンなどの国に移住して資産を失ってホームレス化するような失敗例も少なからずある。③海外生活にあっては詐欺に注意が必要で特に海外の日本人に要注意だ。
 以下、(b)について取り上げる。

(2)「富裕層の運用は進んでいる」か?
 着実に進む海外シフト。一般投資家の投資を先取りする富裕層の資産ポートフォリオの変化は、日本離れが進む現状を浮かび上がらせている・・・・というが、富裕層は、本当に一般投資家の運用を先取りしているか。
 確かに、新しい商品やサービスは、売上・利益の効率からして大口の客から先に提供される傾向がある。
 典型的な例は「仕組み債」だ。オプション的な条件を債券のキャッシュフローに組み込んだ仕組み債は、かつては新しい理論だったオプション価格理論などの金融工学を応用した金融商品だ。理論の応用は、金融機関の自己勘定取引→米国の年金基金など海外の大口機関投資家→日本の生保・信託銀行などの大手金融機関→農林系金融機関や資金運用に熱心な大手事業法人や学校法人など→株式転換権付社債(EB債:詐欺まがいの悪質商品)などに形を変えて個人投資家に売られるようになった。
 だが、事業法人は、1990年代末期の「プリンストン債事件」を契機に、仕組み債を殆ど相手にしなくなった。今や、この種の商売に引っかかるのは、主として現金の流れはあるが専門の運用担当者がいない法人(<例>学校法人)か、セールスマンを頼る個人投資家のような「騙されやすい人々」に限定されている。
 富裕層の運用と非富裕層の運用を比較すると、たとえば「ヘッジファンド」のような新商品は富裕層の方が早くマーケティングのターゲットになる分保有が多いのは自然だ。
 しかし、これを非富裕層が「羨ましがる」必要はさらさらない。彼らは「先にカモにされているだけ」だ。

(3)「カモ鍋」の中身
 <例>「リスクを取ってハイリターンを追求」、「運用に積極的な富裕層の資産ポートフォリオ」なるポートフォリオを見ると、顧客(カモ)が「プライベート・バンク」などと名乗る金融機関にどのように貢献しているのかが分かってくる。
 この例では、先物ヘッジファンドが40%、新興国債券・アジア株・先進国券・資源株がそれぞれ15%の配分となっている。株式が通常のアクティブファンドの投資信託並みの手数料(販売手数料2~3%、信託報酬年率1.5%~2%)ならば随分高いし、ヘッジファンドは成功報酬も含めて手数料の塊だ。顧客は多分年間で長期金利の2、3倍の手数料を落としているだろう。金融の世界では、「丁寧なサービスは、大変高くつく」のだ。
 なお、保有資産額が大きくなるほど、目立って「債券」の運用が増えて、リスク資産の比率が小さくなっている。運用資産額が大きくなるほど、リスク資産での運用割合が顕著に低下しているのだ。「金持ち喧嘩せず」だ。リスクを避けてきっちり貯めたい、という性格でなければ、大資産家にはなれないのだろう。

(4)「リターン5%目指す」ことのリスク
 「国を信じずにリターン5%目指す」・・・・国を信じない、という態度は大変よろしい。ただし、プライベート・バンクや証券会社についても、もっと疑ってかかるべきだ。
 「5%」くらいといった控え目な運用目標を提示して運用計画を説明されると、たいしたリスクを取っていないかのような印象を受けるかもしれないので、警戒を要する。4%、5%(かつては預金の利息並み)のリターンを円建てで目指すためには、低金利の現在では「株式100%」並のリスクが必要だ。株式のリスクプレミアム(リスク負担に対する超過リターン)が年率5%だとしても、個人投資家の場合運用商品の手数料が安くて0.3~0.5%位、高くて1.5~2%超かかるので、「5%のリターン」は甘く見ない方がいい。
 注意ばかりでなく、前向きなアドバイスを一つ、富裕層向けにお送りしよう。
 特に「日本のリスク」を意識した富裕層の場合、将来の円安、国の債務不履行、ハイパーインフレ対策として「外国の資産」に多く投資するのはいいとしても、為替リスクを丸ごと抱えるのは大雑把に過ぎる。「国のリスクに対して外貨がヘッジになる」という思い込みが強すぎて、為替動向に目をつぶっている人が多いのではないか。現に円高のリスクは存在するのだ。
 大金を運用でき、個別にも対応が可能な富裕層なのだから、為替ヘッジのオペレーションを丁寧に行っていいはずだ。為替ヘッジのオペレーションができる、という前提なら、投資家向けにお勧めしたい資産配分が大幅に変わる。
 ただし、為替のオペレーションで「鞘」を抜かれることがあるので(金融機関は知らない相手からは当然儲ける)、ヘッジのオペレーションを行うとき、この点にも注意が必要になる。
 他人にお金を預けて、無事に儲ける、ということは実に大変なことなのだ。

 以上、山崎元「「富裕層」のお金は、“正しく”逃げているか? ~山崎元のマルチスコープ 【第201回】 2011年10月5日~」(DIAMOND online)に拠る。
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