語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>電気料金は値上げされるか ~東電のでたらめな経理~

2011年10月05日 | 震災・原発事故
 「東京電力に関する経営・財務調査委員会」は、10月3日に報告書全文170ページ及び付属資料50ページを提出した【注1】。

(1)でたらめな経理
 (a)東電グループ会社取引はほとんどが随意契約で、十分競争環境が確保されていない。9.6%も単価が割高で、これを改めれば165億円ものコスト削減が可能だ。主要関係会社の大半は、東電向け取引の営業利益率が外部取引の営業取引率よりも高く、中には外部取引の赤字を東電向け取引で補填した形になっているケースも多数見られた。
 (b)発電所などの年間修繕費4,000億円のうち、3割はメーカーの代理店が介在していた。メーカーに直接発注すれば済むはずで、代理店介在は無駄だ。また、東電が発電工事を発注するとき、必ずグループ会社が一次下請に入る慣行も、問題だ。
 (c)電気料金改訂時に東電が届けた料金原価となる固定費は、実はそんなにかからないことが判明した。固定費の届け出時の料金原価と実績の料金原価の乖離は、直近の10年間累計で5,624億円になる。これに燃料費など可変費を加えると、10年間の累計額は6,180億円に拡大する。この乖離は、そもそも届け出時の料金原価が「適性な原価」ではなかったからだ。

(2)コスト削減の粉飾
 (1)で浮かびあがるのは、経費を湯水のように使い、実際に使っただけではなく水増しもして、高くふっかけた料金を電力消費者からむしり取る独占企業の弊害だ。
 経理においてズサンな東電は、コスト削減も誤魔化す。
 原発事故後に5,034億円のコスト削減を公約したが、前年度対比の削減額ではなく、東電があらかじめ今年度に立てていた予算対比の削減額にすぎなかった。福島第一原発と第二原発を止めたことによる出費の減少1,103億円。震災前に策定した予算の取りやめ1,096億円。修繕費の次年度以降への繰り越し968億円・・・・。これが東電の「合理化」の実態だ。東電のコスト削減は「粉飾」なのだ。
 ちなみに、調査委は、東電の10年間に合計1兆1,853億円を削減する計画を2倍にし、さらに1兆2,267億円を追加削減するべく要求した。

(3)電気料金は値上げされるか
 原子力損害賠償支援機構が決めることになるが、報告書には、東電の今後10年間のシミュレーションが載っている。
 (a)電気料金の値上げ幅 なし
 (b)電気料金の値上げ幅 5%
 (c)電気料金の値上げ幅10%
の3パターンに分け、①柏崎刈羽原発を再稼働しない/②柏崎刈羽原発を再稼働する・・・・を組み合わせると6種類の折れ線グラフができる。これによると、(c)-②の場合、東電は黒字続きで20年度に5兆5,867億円の純資産を有するに至る。しかし、(a)-①の場合、20年度の東電の純資産はマイナス1兆6,353億円と、慢性的な赤字状態になる【注2】。

 【注1】「【震災】原発>東京電力に関する経営・財務調査委員会 ~10月3日に報告書発表~
 【注2】(a)-①の場合、「8兆6千億円の資金不足が生じる」。【福田直之「「東電リストラで3兆円捻出」 第三者委、値上げ示唆」(2011年10月3日付け朝日新聞)】

 以上、大鹿靖明(編集部)「東電「改造」計画全文入手 値上げと原発で黒字」(「AERA」2011年10月10日号)に拠る。
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【社会保障】放棄された介護の「社会化」 ~公助から自助・共助へ~

2011年10月05日 | 医療・保健・福祉・介護
 6月に介護保険法が改正された(2012年4月施行)。

(1)「地域包括ケア」とは何か
 団塊世代が高齢化のピークに達する2025年までに「高齢者が地域で自立した生活を営めるよう、医療、介護、予防、住まい、生活支援サービスが切れ目なく提供される」体制づくりだ。
 12年度から、各自治体は基盤整備に向けた介護保険事業計画を策定する。
 柱は、医療と介護の連携強化だ。(a)病院での死亡8割を在宅での死亡4割にする。(b)介護職員に「たん吸引」など医療行為を認めて医療費のコストを削減する。・・・・「入院から在宅へ」「医療から介護へ」への強力なシフトだ。
 新たな在宅サービスとして、(c)「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」を創設。(d)小規模多機能居宅介護と訪問看護を組み合わせた「複合サービス」も導入される。
 地域包括ケアの日常生活圏域は、中学校区が基準となる。
 「住まい」は介護・医療サービスの拠点を併設させた「サービス付き高齢者向け住宅」(高齢者住まい法改定)を整備する。コストの高い施設建設はやめ、集住化を図り、終末期の在宅ケアを可能にする。
 要するに、公費抑制と効率化、脱施設という名の「地域の施設化」だ。

(2)「地域包括ケア」の問題点
 (a)「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」は、人材確保が課題だ。介護報酬は定額制で、利用制限につながるおそれがある。しかも、訪問時間は15分程度で、適切な介護・介助ができるか疑問な点がある。参入事業者は、日常生活圏域に1事業所を自治体による公募で決定するため、大手業者による寡占化が進み、小さな事業所は淘汰されかねない。
 (b)「サービス付き高齢者向け住宅」は、ゼネコンや建設業者がビジネスチャンスと捉えている。だが、入居は主に団塊世代の厚生年金受給者が対象であり、低所得者への住宅供給は明確にされていない。
 介護保険は、「公助」から「共助・自助」へと縮小されてようとしている。

(3)「介護予防・日常生活支援総合事業」の導入とその問題点
 自治体の判断で、要支援認定者の一部を介護予防給付から総合事業に組み入れることが可能になる。 
 サービス内容は、自治体の裁量だ。地域格差の拡大、保険外サービス(<例>配食・見守り)で新たな負担(自助)が生じる可能性がある。
 介護度の低い高齢者を国の公的責任(公助)から切り離し、その責任を自治体に「丸投げ」したものだ。「地域主権改革」という名の「安上がり介護」だ。
 実際のサービスは、民間事業者、NPO、地域の有償ボランティアが担う(共助・互助)ものと想定されている。
 だが、公共性の高い福祉を、玉石混淆の「共助・互助」で支えられるのか。介護度が低くても日常の小さな変化が重症化につながるおそれがあり、専門的訓練を受けた正確な観察力が必要だ。また、プライバシー侵害や虐待の危険も懸念されている。
 介護の「社会化」をめざした介護保険制度は、社会保障費抑制のなかで公的責任を後退させてきた。コムスン事件以降は、給付の適正化が図られ、介護予防の導入で軽度者が切り捨てられた。<例>訪問介護は短時間の細切れ介護が常態化し、収入確保のため訪問件数が過密状態になった。そして、利用者は介護職員と接する時間が減り、孤独感を深めた。
    
(4)保険外サービス
 NPO法人「グレースケア機構」(東京都三鷹市)は、利用者に必要なサービスを提供している。
 身体介護と生活支援で1時間3,150円。全額自己負担だが、外食、旅行の同行、入退院の準備付き添い、整容、各種手続き代行など介護保険では適用されないサービスを自由に選択できる。利用者は月延べ70人。
 保険外のため利用者の自己負担は重くなるが、「生活全体をサポートできるため、ニーズは多い。ケアの質を高めつつ、スタッフの報酬を上げていくシステムを作りたい」(柳本文貴・代表)。
 「新しい公共」の取り組みが、公的介護保険制度の理念の喪失を浮き彫りにする。

 以上、平館英明「公助から自助・共助へ 放棄された介護の「社会化」」(「週刊金曜日」2011年月日号)に拠る。
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