語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>福島のコメが全国の消費者の胃袋に入るまで

2011年10月29日 | 震災・原発事故
(1)朝令暮改
 3月31日付け、JRいわき市発文書「東北地方太平洋沖地震及び東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う対応について」・・・・農作業延期の要請。<耕うん作業については、放射性物質が表層にとどまっている状態と思われることから、これ以上拡散させないため、当面は耕うんを行わないで下さい。>
 4月7日付け、県いわき農林事務所&JRいわき市(連名)発文書・・・・農作業延期を解除。<原発事故を受け福島県は4月6日に農地の土壌を独自に調査した結果を発表>したので<その結果を踏まえて、いわき市内(第一原発半径30km圏内を除く)は農作業延期の要請が解除>され、<これにより、今後の農作業は通常どおり進めることができるようになりました。><土壌中の放射性物質については国の基準値がないため、最終的な判断は近日中に示される国の方針に基づき行われる予定>。  

(2)土壌検査
 土壌検査は、3月31日~4月1日の2日間に実施。4月5日に「分析結果の解析と評価」が行われ、翌日に発表された。
 例えば、中通りの本宮市長屋地区。4月6日の発表では、4,984Bqだった。その2日後、国は暫定規制値を5,000Bqと定めた。
 ちなみに福島県は、面積が全国3位で、原発事故前のコメ収穫量は全国4位、作付面積は81,300haだ。そのうち土壌検査を行ったのは、県内全域で58地点にすぎない。当初、各市町村ごとに裁定1地点含まれるよう選定し、70地点を予定していたが、12地点は落ちてしまった。  

(3)食品検査
 サンプリング検査はおおざっぱで、旧市町村ごとに2点のサンプルを検査するのみだ。
 重点調査区域(<例>二本松市)に指定されていても、約15ha(45,375坪)ごとに2点だ。約15haで採れるコメの総量72,600kgのうち2kgだけだ(0.00275%)。
 ちなみに、福島では351,900トンのコメが収穫される(予想)。
 8月、県西部の河沼郡会津坂下町で、県内で初めて早場米「瑞穂黄金」が収穫され、4サンプルのみが検査された。放射性セシウムは検出されなかった、と県は発表した。
 農民は、予想外の結果に喫驚した、という。会津坂下町から10kmもない福島地裁会津若松支部の側溝汚泥から237,000Bqの放射性セシウムが検出されていたからだ。そして、水田土壌の検査でも868Bqが検出されていたからだ。 

 浜通りの田代忠一氏は、今年田植えをやめるつもりだった。しかし、農水省農政事務所や県農林事務所から「コメはどんどん作ってくれ。玄米の段階で国、県がきっちり検査するから」とハッパをかけられ、12,000坪作付けした。9月末の予備調査でセシウムは検出されず、320俵が収穫される見こみだ。しかし、「自分が作ったコメが食えるかどうか自信がない」。東京にいる息子から罵られた。「国は補償金を出すことになったら莫大な金額になるから、発表される検査結果は必ず規制値以下になるはずだ。そんなことがわからない父ちゃんはバカだ、見損なった」

(4)偽装
 田植え後の6月半ばごろから、県内の卸業者は昨年使った「一空袋」【注】の収集に力を入れている。
 ホームセンターでは、「一空袋」が山積みされ、福島県から遠い順に売り切れる。「コシヒカリ」の袋が多いが、山口県、鳥取県の「ひとめぼれ」の袋も売り切れた。福島県の生産量の7割強は「コシヒカリ」と「ひとめぼれ」だ。
 ある業者は、以前から取引のある関西の卸業者とすでに話がついている。その偽装作戦は、こうだ。
 <「関西に行くには、東京まで常磐道か東北自動車道で行って、その先は東名高速を使ったほうが早いかも。でも、俺は磐越道で新潟県に出て、富山、石川、福井、滋賀県、京都府を通って目的地へ向かう。遠回りだけど、途中で福島県の新米を某県の新米に変身させる」/一空袋のコメを某県の新袋に詰め替えるという。/「一定の手数料を払うことで地元の業者と前々から話がついている。関西の卸業者も『それなら堂々と引き受けられる』と喜んでいるし、出来レースというわけだ。たいして儲からないけど、コメを動かさないことには金が入ってこない。銘柄はコシヒカリに限られる」/調べてみると、この業者が通る1府5県は例外なくコシヒカリを生産している。>
 福島県庁幹部も、偽装が起きることを覚悟している、という。

 【注】「【震災】原発>食品>汚染米のチェック機能不全/消費者側の対策
    「【震災】原発>食品>いまだにやまぬ産地・銘柄の偽装

 以上、吾妻博勝(ジャーナリスト)「「産地偽装」に追い込まれる福島の生産者たち」(「別冊宝島 原発の深い闇2」、宝島社、2011)に拠る。
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