語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>「脱原発」論におけるエコノミー派の台頭 ~脱原発とは何か(2)~

2011年10月11日 | 震災・原発事故
 中山茂は、原発論争に参加する人々を3つのグループに分類している【注1】。
 (a)エネルギー派・・・・経済成長を維持するためにはエネルギーは絶対に確保する必要がある。この前提から出発し、石油などの化石エネルギーは枯渇するから、それに代わるものとして原発をどんどん建設していく。【推進派:官僚機構や産業界など体制側の人々】
 (b)サイエンス派・・・・原子力の科学的研究は長期的には絶対必要だが、原発はまだ実用的団塊に達していない。多くの技術的不備がある。原子力災害が起こる心配があるので、もっと研究を積むべきだ。【批判派:批判的な科学者たち】
 (c)エコロジー派・・・・原発は生命、環境に対する重大な脅威である。また、中央集権的な管理社会を強化するものだ。廃止すべし。【反対派:原発反対運動をになう科学者や市民たち】

 この分類はいささか紋切り型だ。また、「自主、民社、公開」の立場からインサイダーとして原子力批判を随時行う人々を(b)としている点に弱点があって、高木仁三郎のような原子力に対してより本質的な批判意識をもつ科学者をカバーしていない。
 にもかかわらず、原子力論争に参加する人々の特徴をそれなりによく表現している。
 しかし、中山茂が整理してから30年経るうちに、エコノミー派とでも呼ぶべき一群が台頭した。
 (d)エコノミー派・・・・【市場原理を重視する人々(新自由主義を含む)】

 (d)の観点からすると、原発推進は非常にリスキーだ。
 理由・・・・自由な電力市場においては、電力会社は競争力の観点から余分な発電施設(種類を問わない)の建設を控えるようになる。確実に顧客が獲得できる見こみがなければ、発電施設の新増設は経営リスクが高いからだ。競争相手の電力会社によって顧客を奪われる可能性さえある。小規模・分散型の発電設備の普及によって、顧客が減少する可能性もある。特に最近、再生可能エネルギーの普及は急速だ。
 こうした新増設抑制要因はあらゆる発電施設に共通するが、原発はさらに、次のような経済的弱点を抱えている。
 ①原発は、火力・水力発電に対して、発電過程だけを見ればライフサイクル・コスト【注2】において同等または優位にあるが、インフラストラクチャー・コスト(揚水発電施設など)が高くつき、これを加えれば火力・水力発電コストより劣位になる。
 ②核燃料事業を含めた原発システム全体としての最終的なコストが不確実だ。特に核燃料サイクル・バックエンド・コストは、使用済み核燃料の再処理路線を採用した場合、費用の絶対額と、その不確実性の幅が共に格段に増える【注3】。
 ③原発は、火力発電より高い経営リスクを有する。ライフサイクル・コストにおいて原発と火力発電とがほぼ同等だとしても、原発は初期投資コストが格段に高い。そのため投資に見合う電力販売収入が得られなかった場合の損失が大きい。また、立地地域住民の反対で中止になったり、10数年遅れる可能性も高い。そして、事故・事件・災害や政治的・社会的環境変化に脆弱だ。これらは直接的に、あるいは安全性強化などの政策変更を媒介として、重大な打撃を事業関係者に及ぼし得る。
 ①~③の経済的な弱点ゆえに、電力会社は原発事業を忌避しがちだ。政府の手厚い指導・支援があってはじめて商業原発の成長・存続が可能になる。ところが、1990年代以降、世界的に(日本も)電力自由化の流れが強まり、原発の成長・存続条件を脅かしている。

 以上のように原発は資本主義市場経済に対する適合性が低い。かくて、(d)エコノミー派は決して原発の味方ではないことが明らかになった。そして、(a)エネルギー派は必ずしも体制側の多数派ではなく、原子力開発利用に関連する利権を得ている少数派にすぎないかもしれないことが浮き彫りにされた。
 この事実は重要だ。政治的に左翼か右翼か、は原発への賛否と直接関係がないことが改めて立証されたのだ。
 (d)エコノミー派は必ずしも経済合理性至上主義者ではなく、金融業界や財政当局の利害を背負っている。そうした組織の利益を侵害する形で経済合理性を貫徹できないが、それでも基本的には経済合理性を重視する立場に立っている。

 【注1】中山茂『科学と社会の現代史』(岩波書店、1981)の「第10章 「原子力論争」」。
 【注2】建設から廃止までの総コスト。
 【注3】再処理路線をとった場合、直接処分より1~2割高くなる。しかも、再処理工場が順調に動かない場合、コストは大幅に跳ね上がる。こうしたコスト面の不確実性が原発にはつきまとっている。

 以上、吉岡斉「脱原発とは何だろうか」(「現代思想」2011年10月号 ~特集「反原発」の思想~)の「二 「脱原発」論におけるエコノミー派の台頭」に拠る。
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