7月2日(月)、デンマークかレオ・クリステンセンさん(ロラン市市議会議員)をお呼びして、自然エネルギーの活用と地域間連携をテーマにしてシンポジウムを開催します。(文末に詳細紹介) 事前申込みも好調にて、実り多い会になるかと思います。
自然エネルギーで収益を生む風車の島
電力のすべてを自然エネルギーで発電し、世界でもっとも自然エネルギーの活用が進んでいる、と言われる島があります。デンマークの首都コペンハーゲンから南約150キロにあるロラン島。人口約6万5千人で、主要産業は農業と自然エネルギー。島には400基を超える風車が並び建っています。
4月下旬、この島の自然エネルギーの立役者とされる人にお会いする機会がありました。ロラン市議会議員のレオ・クリステンセンさん。彼もまた、世田谷区の環境エネルギー政策への挑戦に興味を持っているとのことでした。
ロラン島は1960年代には造船業で栄えたものの、造船業の海外移転で暗転。慢性赤字で沈滞した時期が続いていました。88年、島西端のナクスコウ市に新市長が誕生して改革が始まりました。その新市長から公共事業部長として招かれたのがクリステンセンさんでした。彼は、環境エネルギー分野への産業構造の転換をはかるため風車を製造するヴェスタス社を誘致しました。
「現在、ロラン島には風車が465基建っていて、島で使う電力の約5倍を発電しています。余剰分は首都のコペンハーゲンのほか、ドイツ、スウェーデン、ノルウェーなど他国にも売電しています」
ロラン島でこれだけ風車が普及したのにはいくつかの要因があったそうです。まず、土地が平らで一定の方向に風が吹くという地理的な条件が整っていた。農地が多く、風車を建てる場所がたくさんあった。さらに、島の造船業が廃れたことで、新しい産業を求めていた、というのです。
「島にある風車の約半分は、住民が共同で出資して運営している市民風車です。すでに出資分は回収して、配当を受けています」
現在では、1基当たりの建設費用は8千万円から1億円ほどですが、売電収入が安定していることから、「風車はお金になる」という意識が農家にも定着をしていると言います。島は造船から環境エネルギーへの産業転換を成功させたのです。文句なく、自然エネルギー活用による地域活性化の成功事例だと思ったのですが、クリステンセンさんは意外な言葉を口にしました。
「私たちの失敗から日本も学んでほしいのです」
聞けば、自然エネルギーとはいっても、景気の影響からまったく自由というわけにはいかないのだそうです。2007年のリーマン・ショックで経済が減速し、風車の価格競争も激しくなり、3年前には風車工場の閉鎖が決まりました。これにより、造船業の撤退後、自然エネルギーへの転換で22%から2.8%まで下がった失業率がふたたび、8%台にあがってしまったといいます。
「私たちはエネルギー事業の中でも電力と熱に特化して取り組んできましたたが、もっと交通や流通など使い方の改革と一体的にやるべきでした。つまり、電気をつくりだすだけでなく、つくりだした電気を効率的に使うことも同時に考えるべきだったと反省しています」
そこで、ロラン島ではいま、風力一辺倒だった政策を見直し、エネルギー源の多様化に取りかかっているそうです。清掃工場や下水施設から「リン」を取り出しすプロジェクトのほか、藻からバイオケミカル製品、食品、飼料、美容健康食品などを生みだし、ガスやオイルとして石油に替わるエネルギーとするための総合的な技術開発も始まったといいます。
話を聞いていくなかで、これはすごいと思ったのは「水素タウン実証実験」の話でした。クリステンセンが続けます。
「風車の余剰電力で水を電気分解して水素を取り出し、それを家庭用の燃料電池の燃料として使うという試みです。実験は2007年に始まり、現在35軒が参加しています。次の段階では1万軒に広げる予定です」
日本でも究極のエコカーとして燃料電池車が開発されています。もし、LPGなどから水素を取り出すのでなく、水を電気分解して取り出した水素を燃料電池の燃料として活用する技術が実用化されれば、「持続可能」「循環」型のエネルギーとして注目されるでしょう。
クリステンセンさんをお招きして、7月末に下記のような公開シンポジウムを開くことになりました。
日時 7月2日(火)午後6時30分から
場所 「三茶しゃれなあど」5階。(世田谷区太子堂2-16-7)
主催 世田谷区
後援 環境省、デンマーク大使館
申込 せたがやコール(03-5432-3333)先着200人
絵空事ではなく、地に足のついた新たなエネルギー政策を進めていくヒントが得られるだろうと、私も再会を楽しみにしています。
(「自然エネルギーで収益を生む風車の島」2013年5月28日「太陽のまちから」)