野田佳彦首相は八日、官邸で記者会見し、関西電力大飯(おおい)原発3、4号機(福井県おおい町)に関し「再稼働すべきだというのが私の判断だ」と表明した。東京電力福島第一原発事故の原因究明が途上にもかかわらず、首相は夏の電力確保や原発の継続性を重視。福井県の理解を得る前に最終決断の意思を示す必要があると判断した。国民に広がる安全への不安を解消できないまま、政府は再稼働に突き進み、来週にも最終決定する。
首相は再稼働の必要性を「原発を止めたままでは日本の社会は立ちゆかない」と強調。「(関電管内が)計画停電になれば、命の危険にさらされる人、働く場がなくなってしまう人も出る。国民生活を守る。私がよって立つ唯一絶対の判断の基軸だ」と述べた。
再稼働した場合の安全面では、専門家による議論を重ねたと説明し「福島を襲ったような地震、津波が起きても事故を防止できる」と断言した。
周辺自治体が求める夏場限定の再稼働にとどめる可能性は「夏限定では国民の生活を守れない」と否定した。
大飯原発以外の再稼働方針は「個別に安全性を判断していく」と述べるにとどめた。
福井県の西川一誠知事は首相の会見を評価し、十日に再稼働の安全性を検証する県原子力安全専門委員会を開く。同委と県議会、おおい町の意見を聴き、再稼働の同意を判断する。政府は知事の同意を受け、首相と関係三閣僚の会合で再稼働を最終決定する。
東京電力福島第一原発事故を受けた緊急安全対策により、重大事故は起きないはずだから、「念のため」の対策はとりあえずなくても大丈夫-。
政府が強調する大飯原発の安全性とは、この程度のものだ。崩れた「安全神話」への逆戻りそのものだ。
完了したのは、非常用の電源や冷却ポンプの多様化など必要最小限の対策までだ。
実際の事故のとき、被害をどう最小限に抑えるか、これらを検証する安全評価(ストレステスト)の二次評価は、関電を含め一社も評価をしていない。
政府は、再稼働を優先し、重要な対策でも時間のかかるものは先送りを認めた。
まずは免震施設。福島の事故では最前線基地となり、現在も現地対策本部が置かれている。「あれがなかったら、と思うとぞっとする」。東電の清水正孝前社長が八日の国会事故調でこう語った施設だ。それでも当初の放射能防護は不十分で、作業員たちを十分には守れなかった。
だが、大飯原発にはそれもなく、整備は三年先のこと。不十分な代替施設でしのぐしかない。
福島では、格納容器の圧力を下げるため汚染蒸気を外部放出するベントを迫られた。
大飯原発の格納容器の容量は、福島第一の数倍あるが、ベント設備がなく、放射性物質を除去するフィルターもない。これも設置は三年ほど先という。
福島では、原発の熱を海に逃がす海水ポンプが破壊された。ポンプを守る防潮堤が大飯原発にも造られるが、来年度のことだ。
原発の外も、重要な問題が山積みだ。
大津波が来れば、海近くの低地にある大飯や高浜原発の両オフサイトセンター(OFC)はひとたまりもない。政府は福井県内に敦賀、美浜両原発のOFCがあるから、とのんびり構えている。
放射能汚染が広域に及んだ反省から、重点防災区域を原発の半径三十キロに拡大する方針が既に出ているが、モニタリングポストの設置や安定ヨウ素剤の備蓄も遅れている。福井県の住民避難計画も、隣の滋賀県や京都府と連携せず、県内にこだわった柔軟性のない計画のままだ。
こんな状態で安全と言えるのか。「国民生活を守る」と言いながら、原発事故が起きれば、多くの人の生活が脅かされる。ほんの一年前の苦い記憶を忘れている。 (鷲野史彦)
<西川一誠福井県知事のコメント> 野田首相から原発に対する政府の基本的な考えと、首相の強い思いを国民に向けてしっかり語っていただいたと重く受け止めている。大飯原発の運転再開の判断では、福島のような事故を絶対に起こさせないとの強い決意で臨みたい。県原子力安全専門委員会、おおい町、県議会の意見を聴き、県として判断する。
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