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「空き家」で「つながり」生む三つのアイデア

  • 文 保坂展人
  • 2013年10月29日

写真:「世田谷らしい空き家等地域貢献活用モデル事業」の公開審査会(世田谷区提供)

「世田谷らしい空き家等地域貢献活用モデル事業」の公開審査会(世田谷区提供)

 

 10月27日、世田谷区が進める「世田谷らしい空き家等地域貢献活用モデル事業」の公開審査会が行なわれました。「空き家・空き部屋」を地域資源として活用しようという「世田谷モデル」を模索していく大きな第一歩です。このコラム連載を始めてまもないころに1度、このテーマにふれています。(2月26日付

 日本の空き家は「757万戸」。そう聞いて驚くのは私だけではないでしょう。総務省の住宅・土地統計調査(2008年)の数字です。住宅総数は5759万戸。ということは、空き家が13%を超えているのです。

 2年前、東日本大震災と原発事故の被災者支援のために、住宅探しをしました。低い賃料でいいから被災者の役に立ちたい、というオーナーの方が予想以上に多かったため、世田谷区が被災者に提供する民間賃貸住宅は増えました。

 一方、ソーシャルビジネスや地域での活動を企画する人たちからは「何とかスペースを確保したい」という切実な声が多数ありました。

 そして、空き家・空き部屋をもつ人たちの中にも、社会的な意義のある地域活動やNPOに、自分の所有する空間を有効に使ってほしいと考える人たちがいることがわかり、両者をうまくマッチングできないかと区で検討を重ねてきました。

 今年7月、すでに「地域共生のいえ」の実績がある財団法人「世田谷トラストまちづくり」が窓口となって、「世田谷区空き家等地域貢献活用相談」を受け付けるようになりました。さらに、「空き家」「空き部屋」の活用案三つにそれぞれ上限200万円を拠出する「世田谷らしい空き家等地域貢献活用モデル事業」を呼びかけてきました。その最終審査が公開で行なわれたのです。

 応募したのは五つのグループ。そこから、次の3団体をモデル事業とすることに決定しました。

 まず、「グリーフサポートせたがや」というグループです。死別・離別・暴力被害等の悲しみに直面する人々を癒し、支える活動を続けています。

 区内で亡くなるのは年間で6千人、そのうち自殺者は150人前後です。このほか、区に寄せられるDV相談は年間1千件。離婚届は年間1500組、3千人とその家族が当事者になります。

 1人亡くなると、家族や友人を含めて7人がグリーフ(悲しみ)を抱えると言われています。そこで、 空き部屋にグリーフサポートの場をつくり、経験者同士が語り合ったり、勉強会を開いたり、音楽療法を行ったりするなど、「寄り添い、ともに生きる」活動の拠点とする――とのことです。計画によると、年内に予定している物件の改装計画を立てて、来年春前のオープンをめざしていくそうです。

 次は、「シェア奥沢」です。大正末期の区画整理で生まれた旧「海軍村」で残存する住宅のひとつで、多摩美術大学教授の堀内正弘さんの自宅に隣接する空間です。堀内さんと言えば、学生たちと共に考えた「COOL SHARE」の仕掛け人として有名ですが、6月には古くなった住宅を改装して「シェア奥沢」という空間をオープンしています。

 今後、コワーキングスペースや食事会、コンサートなどを開くにあたり、築88年になる住宅の耐震性を診断したところ改修を急ぐ必要があるというのです。

 最後のグループは「ANDITO+大蔵プロジェクト推進チーム」です。賃貸住宅を持つオーナーとして、駅から遠くにある物件の空室が埋まらないという悩みを持っていたところ、世田谷区内で高齢者施設を運営する社会福祉法人の施設長と出会い、建築家も加わって「デイサービスと認知症カフェを備えた多世代交流拠点づくり」を思いつき、賃貸住宅の1階をぶち抜いてデイサービスとカフェに改装する、というのです。

「認知症カフェ」としながらも、高齢者だけでなく、子どもやお母さんなど、多世代にひらかれた場づくりをめざしていくそうです。オープンは来春の予定です。

 このように、いずれも魅力的なアイデアが「モデル事業」として認められました。どれも視線は限りなく地面に近く、どこにでもあるようで、じつはどこにもない空間を実現しようとしています。モデル事業の展開が、新しい「空き家・空き部屋」活用の可能性を示していく意味は大きいと思 います。  

「空き家活用」で「つながり」生む三つのアイデア 「太陽のまち」2013年10月29日



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