事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「流れは、いつか海へと」DOWN THE RIVER UNTO THE SEE ウォルター・モズリー著 ハヤカワミステリ

2020-09-03 | ミステリ

身に覚えのない罪を着せられてニューヨーク市警を追われたジョー・オリヴァー。十数年後、私立探偵となった彼は、警察官を射殺した罪で死刑を宣告された黒人ジャーナリストの無実を証明してほしいと依頼される。時を同じくして、彼自身の冤罪について、真相を告白する手紙が届いた。ふたつの事件を調べはじめたオリヴァーは、奇矯な元凶悪犯メルカルトを相棒としてニューヨークの暗部へとわけいっていくが。心身ともに傷を負った彼は、正義をもって闘いつづける―。アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞受賞作。

……オープニングからしてえぐい。盗難車の捜査の過程で、ある女性を訪れた黒人警官。彼女に誘われて関係を持つ。しかし、その女性がレイプされたと訴えたことで彼、ジョー・オリヴァーは職と妻の愛を失う。

“容疑者とよろしくやったせいで逮捕された警官”が刑務所でどのように扱われるかが壮絶。人間性を徹底的に否定され、暴力にさらされる。友人によって危地を脱し、私立探偵となった今もそのトラウマはぬぐいきれない。

そんな彼のもとに、今は遠くに住む“彼女”から手紙が来る。「あの時、あなたをわたしがはめたと証言してもいい」と。

かくて自らの尊厳をとりもどす闘いが始まる。射殺された警察官の悪徳、組織的な汚職など、事件は次第に広がりを見せていく。だから探偵が徒手空拳で挑んでもはね返されることは必至。そこで彼は、なぜか自分に恩義を感じている極悪人の手を借りることにするが……

通常の“卑しき街を行く孤高の騎士”というディテクティブストーリーとはおおいに趣を異にしている。オリヴァーはやせ我慢をして読者を満足させたりはしない。そのあたりで好き嫌いが分かれるところかも。

わたしは好きです。なんといっても、探偵のプライド回復の過程が、彼の性欲の回復とシンクロするあたりの苦みとおかしみがいい。


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