ある日、通用口から入り、タイムカードを事務室で押していると、管理職たちが壁のグラフを見ながら私にかまわず小声で話している。その棒グラフの横軸にはカウンターで働くバイトの名前が列挙してあったが、縦軸が何を表すのかは判然としない。
「うーん、この○○くんと××くんはねぇー」
「前期もそうでしたからね。」
「やっぱり、辞めてもらうしかないね。」
「そうですね。」
棒の突出して長い女の子たちのことを話しているらしい。
……了解した。このグラフは、売上げと現金が合わない件数を示すものだったのだ。こんな統計までとっていたのか。しかもこの子たちは確かにその後、店で見かけることはなくなったのである。なんと簡単に首を切ることか。
メンテとて例外ではない。
開店前にマネージャーから、フロアがまだ濡れているだの窓に汚れが残っているだのと小姑のような説教をかまされるのは毎度のことで、それはまあビジネスとして仕方のないことなのだが、ある日のこと……
深夜、表のドアをノックする中年男がいる。何度か事務室で見かけた本部筋の男だ。開けてくれ、と身振りで示すので鍵を開けると、開口一番…
「どうして、今、開けたの?」
「は?」
「強盗かもしれないじゃない」
「いやしかし、何度かマネージャーたちと話してるのをお見かけしてたんで。」この頃から私は口が達者だった。
「なるほど。」プライドをくすぐられ、すぐに納得する。
この男、各店舗をチェックして歩く、事務職員の世界でいえば監査役のような存在だったのだ。売上げや店員のマナーといった表の面だけではなく、保安やメンテの様子まで、このように夜遅くに店舗巡りをしながら検査して行くのである。まことにご苦労なことだが、要するにメンテもまた、一人だから自由、といったぬるいバイトではなかったということだし、マネージャーにとっては、自分の預かり知らないところで、会社にチェックされているということでもある。
フランチャイズ、とはこんな世界だったのだ。この時はなんとかしのいだが、友達が差し入れを持って中に入ることもあったので、そんな時に来られたりした日には、一発で私もクビだったのだろう。以下次号。
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