事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

史劇を愉しむ 第10章~アレキサンダー

2008-05-10 | うんちく・小ネタ

第9章「大統領の理髪師」はこちら。

史上初めて世界を統一したマケドニア王アレキサンダーの生涯を、総製作費200億円を費やし壮大なスケールで映像化した歴史スペクタクル。「プラトーン」「JFK」のオリヴァー・ストーン監督がアレキサンダー王を巡る様々な謎に鋭く切れ込む。主演は「フォーン・ブース」のコリン・ファレル。共演に「トゥームレイダー」のアンジェリーナ・ジョリー。
 紀元前356年、当時急速に力をつけてきたマケドニア王フィリッポスとその妻オリンピアスの間に息子アレキサンダーが誕生する。やがてフィリッポスとオリンピアスは激しく対立するようになり、権力に執心するオリンピアスは自らの野望をアレキサンダーに注ぎ込んでいく。両親の確執に心痛める青年アレキサンダーにとって、同年代の仲間たちとの友情だけが心の平安をもたらしてくれた。紀元前336年、父フィリッポスは何者かによって暗殺される。これを受けて、アレキサンダーが若干20歳にして王位を継ぐこととなるのだったが…。

 あの、大王のお話。確か似たような企画が同時期にいくつか発表され、先に実現したのがこのオリヴァー・ストーン版。信じられないくらいの製作費をかけ、そして信じられないくらい大コケした。

 原因はいくつか考えられる。その最大のものは同性愛のあつかいだろう。時代的には普通のことだったというエクスキューズがあっても、全篇にただようホモセクシュアルな雰囲気はやはり客を選ぶ。壮大な史劇を期待した観客はとまどったろう。アカデミー賞は確実と言われながら作品賞を「クラッシュ」に逆転された「ブロークバック・マウンテン」の例を引くまでもなく、まだまだ同性愛は一般に支持されているとは言い難い。

 他人事のように言っているけれど、実はわたしも「こりゃ困ったな」と観ながら思っていた。横暴な父親と邪悪な母(アンジェリーナ・ジョリー怪演)に育てられ、エキセントリックな妻を“なぜか”娶り、しかし終生アレキサンダーが心を寄せていたのは親友のヘファイスティオンだった……ここまではわかる。しかしその描き方がいかにもへたくそでイライラさせられどおし。もっと致命的なのは、当時の感覚で文字通り「地の果て」まで征服した大王の、その動機や軍才、そしてなぜ兵士たちが彼の狂気に最後まで従ったのか、このあたりがさっぱりわからないのである。

 かつて小学校の図書館で「アレクサンダー大王」(こっちの呼び方がわたしにはしっくり来る)の伝記を読んだとき、ガキながら感じたのは「このおじちゃん、すんごい人だったんだろうなあ」というあこがれ。しかし今回のコリン・ファレルからは、そんなカリスマ性はかけらも感じられないのだった。ストーンは相変わらずベトナムの混沌を異世界に持ち込んで自己満足しているにすぎない。この作品が先陣を切ったことはアレキサンダー企画にとって明らかに不幸だった。他の作品に期待しよう……ってこれだけ大コケしちゃったら実現するわけないじゃん!

第11章「グリーン・ゾーン」につづく

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