事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「シンセミア」 阿部和重著 朝日文庫 

2008-03-22 | 本と雑誌

Abekazushige01 上下巻で800頁、400字詰原稿用紙1600枚の大作。リンチ、フィスト・ファック、盗撮、幼女偏愛、不倫、恐喝、薬物(シンセミア、とは麻薬の一種)、放火、暗殺、UFO、売春……なんでもあり。そのほとんどが村山弁で語られる。なにしろ、これは神の町を名のる、あの東根市神町(じんまち)の物語だ。日本版シティ・オブ・ゴッド。読みおえるまでに何度か挫折しそうになる。不道徳な展開に辟易したのではなく、阿部の、故郷である神町への愛憎の深さに、時間をおかないと冷静に読み進められなかったから。

「いいがらすっこんでろ糞野郎が!余計なごどいぢいぢぬかすなボゲ!お前が俺んち心配してどうするっつうんだこのカスが!馬鹿のくせに知ったかぶってつべこべほざぎやがって、絞め殺すぞこの腐れベッチョ野郎が!そもそもパン屋ど俺んちは無関係。うぢは何も関係ねえ。クソッタレ親父以外はな!」

「インディビジュアル・プロジェクション」など、実話をもとに語ることが多い阿部は、パン職人だった祖父の存在と、神町の歴史をシンクロさせて壮絶な惨劇を構築した。

 帝国海軍の航空基地が設けられていた関係から占領軍駐留地となり、そして自衛隊の駐屯地となった神町は、その陰で売春が横行。住民の生活も乱倫をきわめる。占領軍にうまく取り入ることが出来た人間が力を握ってきた歴史は、まさしく日本の戦後史そのものだ。なぜ日本人がパンを食べるようになったかを、学校給食とのかかわりで冒頭に提示するなど、縦糸にパン屋三代の物語をはめこんだ展開は象徴的。

刊行された03年は、さすがに地元東根の書店のベストセラーになっている。どう読まれたものやら。地元の人間にきいたら、確かに町の規模に比べて神町は飲食業が異常に多いそうだし、変な民族団体もいくつか存在するらしい。空港とフルーツの町、という穏やかなイメージは、意図的にその二つを惨劇の舞台とする阿部によってみごとにくつがえされる。何事も起こらない田舎の日常に苛立ちを隠せなかった若い頃に読んでいたら、ひょっとして吐いていたかもしれないほどの悲喜劇。ぜひ。

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