ピーター・ラヴゼイ著 ハヤカワ・ノベルズ
事件現場に急行したバース署殺人捜査班ピ-ター・ダイヤモンド警視が直面したのは、愛する妻ステファニーの無惨な姿だった。やがて彼に妻殺しの嫌疑がかけられる。報復のための罠か、陰謀か? 衝撃のシリーズ第7弾。
ラヴゼイもお気に入り作家のひとり。日本で人気が爆発したのは、「偽のデュー警部」「マダム・タッソーがお待ちかね」などの軽妙なミステリによるもの。ちょっとらしくなくシリアスっぽかったのでしばらく放っておいた「つなわたり」も良かった(でも、同じように敬遠した人は多かったようで、文庫はもう品切れ)。「服用量に注意のこと」などの短編集の切れ味も捨てがたい。
彼の最も得意とする手口は、歴史上の人物を登場させ、そのパブリックイメージを利用して“味”を強めることだ。バーティと呼ばれるエドワード7世(なんとこのボンクラ皇太子を探偵役にした!)のことをわたしたちがもっと知っていたら、殿下シリーズをもっと面白く読めたろうに。
そのラヴゼイが、一転してハードな現代刑事ものに取り組んだのが「最後の刑事」に始まるピーター・ダイヤモンド警部シリーズ。ユーモアももちろん健在だけれど、滋味深い人間描写で新境地を開いた。しかも、実は見事な本格推理にもなっていて、意外な犯人に驚かされることもたびたび。
この「最期の声」は、ダイヤモンドがその頑固さのためにさんざん苦労をかけ、しかし明るい人柄で救いにもなっていた愛妻ステフが射殺されるという、なんちゅうかファンにとってはつらい場面から始まる。
打ちのめされるダイヤモンド(原題はDIAMOND DUST)、しかし逆境からどう立ち直るかというドラマをバネに、読者を最後までひっぱる。
殺される現場に、なぜ妻は向かったのか、という疑問への答が終章に用意されていて、これが泣かせる。邦題の意味が、ここで効いてくるのだ。おみごと。
その後シリ-ズはどうなってるのかしら。