発売五カ月で5刷。かなり売れている。
著者は広告畑の人で、学生時代に反全共闘の活動にまい進した人、と聞けば世代と政治的スタンスはわかりやすい。ただ、この書では、尊王を訴えて成就したはずの明治維新とは、実は単なる長州の狂信的テロリズムによって成ったものだと主張されている。
司馬遼太郎(同じ大阪外語大卒なので尊敬はしていると何度も何度も強調される)が「竜馬がゆく」などで語った、明治維新が“日本の夜明け”であるとする考えは、勝者である薩長によってつくりあげられた、ねじまがった歴史観だと。
傾聴に値する、と思いました。
松下村塾は、実は吉田松陰が興したのではなく、前からあった塾に、なんとなく松陰が塾頭のような形で参加していたというのは初耳。彼のやったことが無茶なのは、大河ドラマでいかにヒロイックに描かれようが自明ではある。しかも彼の主張が帝国主義的で、大陸へ日本が進出すべきだとしていたのは有名な話。
それではなぜ若い無茶なお兄ちゃんが歴史的存在になりえたかといえば、誇るべき出自もなく、何らかの後ろ盾が必要だった山縣有朋が、みずからの過去を彩るために松陰を引っぱり出したと著者は主張する。
なるほど。日本海軍を鼓舞するために坂本龍馬がヒーローにまつりあげられたのと同じ構図というわけか。
その、狂信的な長州の精神的支柱になったのが水戸学。いやあ水戸光圀、徳川斉昭、そして徳川慶喜はぼろっくそに書かれております(笑)。
わたしが不思議なのは、神国だの尊王だのと天皇を崇めたてる言辞を弄する方々こそが、実は天皇を利用することに長けていること。御所に向けて、ひとり長州のみが砲を向けた経験があるあたり、天皇制をツールとして見ていることがよくわかる。
先日見た「日本のいちばん長い日」でやれやれと思ったのは、「陛下」という語が出てくるたびに条件反射のように気をつけをする将校たちの姿。そんな彼らも、最後のところで“陛下を諌めよう”とまでするのだ。ひいきの引き倒しとだけでは片づけられない問題を含んでいる。
明治という、長いけれども無限ではない時間のなかで、日本が天皇中心の国に一気に染まったのは、なにしろ明治維新が尊王という狂信によって形成され、それは今も変わらずに続いているからだと、この書で納得できました。
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書いた本なんか信じる方がどうかしてるよ(笑)