2024年の本屋大賞は、津村記久子の「水車小屋のネネ」で決まりだと思っていた。文句なくわたしのベストワンだったし、それどころかあれを上回るのは(わたしにとっては)長嶋有の諸作ぐらいだ。
しかし結果はこの「成瀬は天下を取りにいく」が受賞(ネネは2位)。
全国の書店員が選択したこの作品は、いったいどんなものなのだろう。
「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」
ものすごくいなせな成瀬あかりのセリフからこの物語は始まる。この西武というのはライオンズのことではなくて、まもなく閉店する西武百貨店大津店のことだ。
そこへ14才の成瀬は毎日通い、ローカルテレビ局の番組生中継に映りこむと宣言したわけ。
テレビ局の反応が笑える。なんかめんどくさそうな子だな、と完全にスルーしてしまうのである。
そう。よく考えれば(考えなくても)成瀬はめんどくさい。しかし、同時にいなせでもある。
おそらくは作者自身が投影された主人公のことを、普通の小説であれば男子を名字、女子を名前で表記するのが暗黙のルールだが、この作品では徹底して「成瀬」で通している。
そしてそんな成瀬のことを、読者はみんな好きになったのであり、本屋大賞はその証だ。
書店の求めになかなか応ぜず、増刷をためらいがちなので有名な新潮社。実はもっともっと売ることができたんじゃないの?
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