You Tubeに、オープニングの銀行襲撃シーンがアップされたのは春ごろだろうか。何気なく見ていたわたしは、あの小さくて粗い画面にいきなり引きずりこまれた。なんじゃこの緊張感は!こりゃ、観るしかあるまいとすぐに結論づけた。
結果、北米ではバカヒット(「タイタニック」に次ぐ興収とか)。日本では、わたしが観た三川イオンシネマのいちばん小さなスクリーンしか与えられず、北京オリンピックの女子マラソンとかぶったこともあって2~3分の入りだった。
これ、仕方がないのかも。「ダークナイト」を“楽しむ”のって、肉食欧米人なみの体力が必要だから。
「メメント」「インソムニア」と同様に、クリストファー・ノーランはひたすら観客を不安な状態にただよわせ、同時に並の映画の4本分くらいのアイデアをぶちこんでいる。そして何より故ヒース・レジャー演ずるジョーカーの狂気が、スクリーンを飛び出して観客の喉元に食らいつくようだ。いやもう見終わってぐったり。これはもう映画じゃないぞ。でもいっしょに見ていた息子は「面白かったーっ!」と大喜び。若いってすばらしい。
とにかくノーラン兄弟の脚本が周到。マイケル・ケイン、モーガン・フリーマンという稀代の名優ふたりをコメディ・リリーフにすえ(しかし最後に存分に名演技を披露させている)、クリスチャン・ベール、マギー・ギレンホール(ごひいきジェイクのお姉さん)、アーロン・エッカートの三角関係をちりばめながら、作品をつらぬくのは「狂気」と「破壊」。
常に口からでまかせを吐き(なにしろ名前が“冗談をいう人”だし)、看護婦のコスプレまで見せるふざけた悪役ジョーカー。バットスーツ(柔軟性を求めるかわりに防弾性を犠牲にした設定がラストでいきる)とアルマーニを交互に身にまとうブルース・ウェイン。両者の主張は同様に病んでいて、同様に正義を包有している。ネタバレになるけれど、ジョーカーのしかけた最大のトラップはある理由で破綻する。きれいごとだと切って捨てるのは簡単だ。しかしあれがなかったら、この暗黒の騎士の物語は救いなく暗いものになっていたはず。マジでもう一度観たくなる傑作。なるほど、だからむちゃくちゃにヒットしているのか。必見!
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