息子の死、幸せとはほど遠かった結婚生活、仕事のゆきづまり……これらに痛めつけられる主人公の自己憐憫がしんどかったから。
ところが、現代と交互に語られる江戸のパートがあまりにもすばらしかったので、見切りが早すぎたんだなあ。
主人公の歴史研究家が、謎の絵師である写楽の人生を解明するたびに、江戸パートは進行。
最初は(これ、言っていいのかな)平賀源内ではないかというツカミは効果的。しかし島田荘司が主張する写楽の正体にはさすがに驚愕。蔦屋重三郎の心意気には感動すらおぼえる。編集者、出版人への島田の皮肉も入っているのかも(笑)
なぜ、売れるはずのない、美化されていない役者絵を蔦屋は大々的に売り出したのか、なぜ写楽の“活躍期間”が圧倒的に短く、しかも傑作は初期に集中しているのか。確かに島田説なら説明がつく。
強引なトリック、東京という都市へのこだわり、およそありえない名探偵(それは写楽の正体ともリンクしている)、日本人への絶望……島田荘司エッセンスがこれでもかとつめこんであります。
用意していたもうひとつのネタが『計算違い』で入れることができなかったというあたりもいいですな。島田復調。うれしい。
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