一杯目はこちら。
「杜氏って、やっぱり旅から旅への……」
「ああ、教科書にもありましたよね。南部杜氏とか。でもウチのは違いますね。学究肌、というか。農大の醸造学科出てるし。」サトーさんのレクチュアは続く。杜氏は、伝統と才能がものをいう世界では既にないのか。そして話は商売そのものにうつる。パイの縮小が続く日本酒業界の危機感は強く、さまざまな手法が模索されている。
「やっぱり、焼酎ブームが問題なんですかね」
「ですねー。」
「じゃあこの店の棚に並んでいる“爽”(さわやか、と読む。地元の企業『金龍』が製造販売する米焼酎。癖のない味でバカ売れしている)を見ると腹が立つでしょ」
「いやーこれがあんまり知られていないことなんですけどね。ウチは金龍に出資しているんですよ」
「え?そうなんですか」
「ウチだけじゃなくてね、このへんの蔵元が、あそこに共同で出資しているわけです。だからね、金龍さんが儲けているのはまことにけっこうな……」
「ホントですかぁ?(笑)」
「いや正直なことを言えば、今のウチの技術力なら明日にでも焼酎をつくることはできるんです。でもね、ここで金龍さんをつぶすようなことはウチはやらないです。」
「へーえ。米焼酎『初孫』ってのもアリだと思うんだけどなあ。じゃあ、飲み方のプレゼンを考えるって線もありそうじゃないですか。サトーさんがさっきからやってるみたいに、キチンとチェイサーを横において飲むのって、おしゃれでしょう?そういう提案をしていったらいいんじゃないかな。」
「そうですね、さっきのおしゃれな瓶の問題もあるし。」
「日本酒の生き残る途が高級ブランド指向だとすれば、例の『十四代』(村山の高木酒造が作る、幻の酒)は無視できないんじゃないですか?」
「んー、実はわたしはね……
以下大幅に略。迷惑かかっちゃまずいので。
……初孫がめざしているのは、地元の食材を引き立たせる、地元とともに生きる酒なんですよ。だからね、『ゆず』っていう店があるでしょ?」おっといきなりヌーベル・キュイジーヌ。
「あそこはねー、どうも酒と助け合うって感じがないんだな。残念なことに」
つまり高名なル・ポットフー(フレンチを日本酒で、というポリシーのレストラン。酒田のホテルにあり、雑誌とかによく載る)のような店が理想だと。このあたり、保守的というより頑迷に近いような気もするんだが。
保守的、と言えば……
「地元とともに生きるって考えがないとですね」サトーさんは社を代表して(笑)主張する。「結局はディスカウンターに酒が流れて廉売されるはめになるわけですよ」
「うーん」
「だからね、この間もいろいろな方面にお願いしたんです。
(以下大幅に略。これもなんか危ないような気がする)
まあさんざん突っ込みながらもサトーさんは喜んで帰り、来月に行われる試飲会にも招待してもらった。そしてあの坊主も、「お兄ちゃん、面白かったぞ」とニコニコしながらいい調子で店を出て行く。
ひとり残ったわたしは、店仕舞いを始める女将にたずねる。
「あのお坊さんさあ、どこの和尚さんなの?」
「………………言わないでね。」
「え?」
「あの人、坊主じゃなくて刑事だから」
勉強になった一夜でしたっ!
なんと3杯目につづくとは。
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