輝ける京極夏彦のデビュー作。今や世間にあふれまくっているミステリ文学賞に応募されたのではなく、講談社への持ち込み原稿だったのは前にもふれたとおり。広告代理店から独立してデザイン事務所を設立し、しかしバブルがはじけて暇になったので「ノートにいたずら書きでもするような気持ちで」書かれたのが本作。いきなりこんなハイレベルな作品が持ち込まれて講談社もたまげたろうが、きちんとそれを読み込み、「もし売れなかったら個人で買い占めてもいい」とまで断言した当時の担当者(※)は、その後ミステリ界における講談社の地位を確固たるものにし、現在は重役です。いい話。
※その編集者、宇山日出臣は06年に亡くなってしまった。
「妊娠20ヶ月の妻を残して、密室から失踪した男を探して欲しい」という奇怪な依頼に始まる有名なストーリーを、原田知世、いしだあゆみなどが狂気を見せて実体化している。でも、京極の原作を実相寺(ウルトラセブンの監督です)昭雄に撮らせるという、一種の夢の企画であることが今回はマイナスにはたらいたのではないだろうか。お互いのくどいぐらいの個性が、効果を打ち消し合っているような……。
つづいては、「嗤う伊右衛門」を。
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