いくらなんでも五十代の男が「メリダとおそろしの森」なんてタイトルのアニメを、3Dめがねをかけてひとり映画館で……ちょっとおそろし。まあ、ピクサーの作品だし、地元から遠く離れたフォーラム東根だからいっか。
てな具合で、実はあまり期待しないでいたの。ピクサーならとりあえず映画館に駆けつけていたのに、どうも印象がなあ。
ピクサー史上初めて女の子が主役になっているから?それもあるかもしれない。むしろディズニー色強し、って感じ。
江口寿史がかつて描いた、ドジな女の子が「てへ」と自分の頭をコツンとやりながら地球を滅亡させてしまうほどではないにしろ、スコットランドの王女メリダ(吹替は大島優子)はやることが無茶にすぎるし。
政治の道具としての結婚を拒否し、“自分らしく生きたい”という願いは現代においてはむしろ常識。だから『完璧であれ』と命ずる王妃エリノア(原語版ではエマ・トンプソン)は、無理解な大人の象徴のように見える。
母親が、不自由な王妃としての生活をシンボライズするタイトなドレスを着せ、娘はそれをひきちぎって弓を……でもねえ、ここは中年としてエリノアを弁護させてもらおう。
夫であるファーガスが王として君臨しているのは、実は部族間の危うい均衡によるもの。まだ脆弱な権力基盤を固めるために、王子3人のなかから夫を選ぶというかぐや姫パターンをメリダに強いるのは仕方のないことではある。
蛮族の集合体であるスコットランドで、王権を継続させようと思えば、過剰なほどの気品を身につけるしか……王様が誰よりもやんちゃなので、王妃の苦悩は深い。そのうえ娘はおてんば、三つ子の息子はやんちゃ。
そんなエリノアが、軽率な娘に魔法のケーキを食べさせられたため、熊に変身してしまう。おおお、なんかエロティックな設定じゃないですか。タイトルが最初「熊と弓」とされていたのは、母と娘のことだったわけだ。あとは人間にもどるときに服を着ていないあたりをどうすんのかなあと……あ、なるほど。さすがに考えてある。ちぇ。中年ですみません。
メリダの赤毛がなんといっても魅力的。疾走する馬のたてがみとシンクロするのである。鬼火(というより木霊)、ストーンサークルといった小細工がありながら、森が全然おそろしくなかったあたりを補ってあまりある。
併映の短篇ふたつ(「トイ・ストーリー」の新作と、叙情的な「少年と月」)もすばらしいのでお忘れなく。ラストも笑えます。
また遊びに来ます!!