「あ、死んじゃったんだ」と思った。
でかい学校だと教育委員会からまわってくる訃報すら遠い。
FAXが届いているのを偶然見つける。
わたしが、中学の一年から三年まで担任してくれた人。
72才。
学校の正門前でタバコを吸いながら、なんかいらつく。
なんだこのいらつきは?ととまどいながら、ウチに帰って父親に「○○先生死んだって」と告げる。
父親はPTAの役員などをしていたので彼のことはよく知っている。
「そうか。俺より十歳も若いのにな」
さて、父親にも報告はすんだ。自分の部屋にもどっていつものように芋焼酎を飲み、彼のことを思いだして……
噴き出すように涙が出てきた。
兄が自殺するちょうどその頃、今思えば彼は強い思いでわたしをケアしてくれていたのだ。
体育館の非常口にわたしを連れて行き、
「なんか、あんなんでろ。しゃべれ」
と言ってくれたあの時のことを、わたしは忘れられないでいる。
あのとき、彼に話を聞いてもらっていなかったら、わたしは自分をもっともっと偽るスキルを身につけていただろう。
高校を卒業したあたりで、わたしは彼に呼び出されて喫茶店でしばらく話した。
彼がそのとき、にやけた野郎であるわたしを見つめてどう考えたかはわからない。そのにやけ野郎に彼はびっくりするほどの本音をぶつけてもきたし。
そのときわたしが感じたのは、中学のとき以上に、ああこの人に見守られている、ということだった。
彼にオトナ扱いされるんだ、という驚きこそがわたしを救ってくれたのだとも思っている。
あらゆる意味で、彼は恩師だったのだ。
就職してから、事務的なことを質問する電話がかかってくることがわたしはうれしかったし、その電話が絶えたことを不思議にも思わなかった自分がくやしい。
学生結婚だった奥さんが亡くなって随分たつ。
再会は、いいもんだろや。
バカな教え子は、そう思って自分を慰めている。
明日が、通夜だ。
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