事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「造花の蜜」 連城三紀彦著 角川春樹事務所

2011-05-16 | ミステリ

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造花の蜜〈上〉 (ハルキ文庫)
価格:¥ 680(税込)
発売日:2010-11
世に「幻の~」と形容されるものは多いけれど「幻の雑誌」とくればその名も「幻影城」が有名。70年代後期に発行されたミステリマニア向けマガジン。どうして有名かというと、とにかくこの雑誌出身の作家が数多く、しかも“いかにも”な作家揃いだったから。

学生だったわたしは、三軒茶屋の古書店などでせっせとバックナンバーを集めたものだった。どこいっちゃったかなあ。

特に衝撃的だったのが泡坂妻夫。名探偵の紳士録をつくるとき、必ず最初に掲載されるようにとネーミングされた亜愛一郎(あ・あいいちろう)シリーズはすばらしかった。

「飛行機が写っている写真を見ると、みんなが『あ、飛行機の写真ですね』という。実は雲の写真かもしれないのに」
(「DL2号機事件」~角川文庫の「亜愛一郎の狼狽」に入っています)

……意表をつく、という意味で彼以上の作家はもう現れないかもしれない。

連城三紀彦は、そんな泡坂スタイルのトリッキーさと、のちに恋愛小説で名をなしたように叙情ゆたかな文体が特徴。「幻影城」に載ったデビュー作「変調二人羽織」はゾクゾクするミステリだった。「恋文」で直木賞をとったのに、マニア受けはしてもいまいちメジャーにならないなあと思っていたら、得度してお坊さんになった上に、お母さんの介護のために休業していたようだ。

再起第一作がこの「造花の蜜」。誘拐をめぐるミステリなんだけど謎のつるべ打ち。

・犯人が身代金の受け渡し場所に渋谷のスクランブル交差点を選んだのはなぜか

・身代金を当日になって減額要求(!)してきた理由は

・「人質の解放」と「身代金奪取」の順序が逆になっているのはなぜか

……など、よくもまあこれだけ仕込んだものだ。しかも、解放された人質から驚愕の事実が明かされ、誰が誘拐犯で誰が……あわわわ、ネタバレになってしまう。

二転三転する展開は、幻影城のころとちっとも変わっていない。「造花の蜜」というタイトルすら、読者をひっかけています。だまされない読者はひとりもいないはず。お坊さんがいつもこんなひっかけを考えているかと思うとうれしいかぎり。ぜひ。

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2 コメント

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昔 中部ペン で 直木賞作家の連城さんの 講演... (謎の三文字☆村石太)
2011-05-30 21:46:52
昔 中部ペン で 直木賞作家の連城さんの 講演 聴きました。
小説同好会(名前検討中
返信する
それって、法話じゃないですよね?(笑) (hori109)
2011-05-31 06:27:33
それって、法話じゃないですよね?(笑)

恋愛小説なのにタイトルの「恋文」が離婚届をあらわす
あたり、根っからのミステリ作家。
もっとドカドカ書いてほしいな。
返信する

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