天文部の合宿の夜、学校で殺害されたわたしの姉。男性化候補の筆頭で、誰からも慕われていた優等生の姉が、どうして?しかも姉は誰かからレイプされかけたような状態で発見されたが、男が女をレイプするなんて、この世界では滅多にないことなのだ。捜査の過程で次第に浮かび上がってきた“BG”とは果たして何を指す言葉なのか?そして事件は連続殺人へ発展する―。全人類生まれたときはすべて女性、のちに一部が男性に転換するという特異な世界を舞台に繰り広げられる奇想の推理。破天荒な舞台と端整なロジックを堪能できる石持浅海の新境地。
東京創元社ミステリ・フロンティア ¥1,680
はまった。
この1年で石持の長篇は全作読んだことになる。とにかくこの人がつくり出す設定は絶妙。前に特集した「月の扉」は“ハイジャックされた航空機内で起こった密室殺人を、乗っ取り犯が素人にその解決を依頼する”というとんでもなさだった。処女長篇「アイルランドの薔薇」は、“宿屋で起こった連続殺人。北アイルランド紛争が微妙な時期なので警察を呼ぶことができず、宿泊客だけで解決しなければならない。しかも客の中にはプロの殺し屋が潜伏している”もう笑っちゃうぐらい。
「BG~」とほぼ同時期に刊行された「水の迷宮」は、“水族館の展示生物を狙った攻撃と殺人事件が起こるが、観客8500人を人質にとられた形なので職員たちで解決しなければならない”……まったくよく考えつくものだ。まあ、森博嗣と同様、理系ミステリなので人間は全然描けておりませんが、そんなことかまうものか。
そして最新作はきわめつけ。“人間は生まれたときはすべて女性。そのなかで優秀な人間だけが男性化するパラレルワールドにおけるレイプ殺人”どはははは。フェミニストがきいたら目をむきそうな設定だが、もちろんちゃんと裏が用意されている。女性が男性化するためには男性経験が必要なため、レイプがほとんど存在しない世界なのに、なぜ男性化を望んでいた姉はレイプされることになったか。最後のどんでん返しと、“BG”が何の略かも含めて、ラストはおしゃれに着地した。ひょっとしたら年末のミステリベストテンでトップもありうる。ぜひ。
……これは2005年の春に記したもの。結果的にこの作品はベストテンに遠く及ばなかった。なぜなら、この年もう一作出版された石持の「扉は閉ざされたまま」に票が集まったから。わたしはあれよりもはるかにこっちの方が好きだけどなあ。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます