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YouTube: 松任谷由実 リフレインが叫んでる
いちばんわかりやすい例をとってみよう。あなたは
「午後」
をどう発音するだろうか。ローマ字で表記すればgo-goだけれど、最初の「ご」と次の「ご」は、違う発音なのにお気づきだろうか。最初のかっちりした「ご」が濁音。次の少し柔らかい「ご」が鼻濁音とよばれるものだ。大辞林にはこうある。
びだくおん 【鼻濁音】
鼻音化した濁音。頭子音が鼻腔の共鳴を伴う有声音である音節で、東京語では、語頭以外のガ行音および助詞「が」がそれである。「だいがく(大学)」の「が」、「あさぎり(朝霧)」の「ぎ」、「どんぐり(団栗)」の「ぐ」など。ガ行鼻音。
……え、おれはどっちの「ご」も同じ発音だ?うーん、困ったな。
「あたしね、NHKのアナウンサーまで鼻濁音を使わない人がいるのが許せないの」
「男はつらいよ」の観客だったおばさんは興奮している。鼻濁音を上手に使っている渥美清の日本語はすばらしいではないかと。香具師の口上が美しいと感じられる時代になったわけだ。
「それが目立つようになったのはね、どうも東日本大震災からなのよ。アナウンサーが発音に気を使うどころじゃなかったんでしょうけど。でも耳障りだからね、あたしはどこの局のどの番組が鼻濁音を使ってないか、メモってるの」
そ、それは執念深い。じゃなかった偉いですな。
しかし鼻濁音それ自体がない地方も存在するというし、衰退の流れは止められないのだろう。でもわたしも鼻濁音をちゃんと発音する日本語は美しいと思うし、濁音だけだと聞き苦しいと感じる世代だ。
で、わたしが鼻濁音の衰退に気づいたのはもっとずっと昔なのだ。それはね、ユーミンの歌に顕著だったのだ。彼女の歌を意識して聴いてみてほしい。とにかく徹底して濁音。そして、ひょっとしたら彼女は(その方がおしゃれだと)意識しているのではないかと思うぐらいだ。
東京方言として有名な鼻濁音を、八王子出身の彼女が子ども時代に使わなかったはずはないのだし。誰か知っていたら教えてください。彼女の、本音を。
そうか鼻濁音はもう東北方言になっちゃってるのかあ。
むしろ“駆逐すべき存在”に(意識しないにせよ)なっている
かもしれないんですね。さみしい。
こうなったらわたし独りになっても(いや、あのおばさんもいる)
鼻濁音保存に燃えて「レディ・ガガ」にも
鼻濁音使ってやる!(笑)
ところで、このねたはちょっと知ってるので。まず、「東京は鼻濁音」というのはけっこう古い調査によるので、昭和10年代の故金田一春彦調査で既に、東京で失われつつあることが分かっており、現在では首都圏のガ行音はほぼたんなる濁音と言っていいと思われます。だから、昭和29年生まれの荒井由美さんが濁音なのは、たぶんふつうに周囲から習得した結果でしょう。
この変化を受けて、現在、鼻濁音を最もしっかり保っているのは東北で、鼻濁音は現代では東京ではなく東北の特色というべきです。音声の印象についていうと、鼻濁音のまったくない九州の調査では「はっきりしない」発音として鼻濁音の評価が低くなるようです。つまり、音声に関しては評価する人の話す言語の特徴や、その音声を使う人の社会的評価など、音声自体とは関係ない要因に左右される、相対的なものであることが分かっています。ご参考まで。