事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「映画の奈落 北陸代理戦争事件」 伊藤彰彦著 国書刊行会

2015-02-24 | 映画

業界騒然、とはこの本のためにあるような表現。内容は、前にも日下部五朗プロデューサーの「シネマの極道」関連でふれた「北陸代理戦争」の背景。

モデルとなったやくざが、実際に映画と同じ場所で射殺されてしまったという衝撃の事件。殺された川内弘のおかれた立場と、殺した側の理屈、そして映画の成立するまでが徹底的に描きこまれている。

やくざ業界の人たち、および舞台となった福井県三国町の方々にとっては、あまりふれられたくない事件らしいことが怖い。つまり今でも関係者は存命で、なにより山口組はいまだに元気ですし。

メインキャラは脚本を書いた高田宏治。わたしの世代にとっては、「仁義なき戦い」を、笠原和夫から書き継いだ人、という位置づけだけれども、わたしより若い世代は「鬼龍院花子の生涯」や「極道の妻たち」でおなじみかも。

新仁義なき戦い 組長最後の日」で、菅原文太と松原智恵子を近親相姦の兄妹にすえ、兄のために子分に身体をまかせるという凄みのあるシーンを書いた人だから、なるほど女性路線を東映に定着させるのに必要な人だったのかもしれない。

彼が実録路線の脚本を書いていると、笠原和夫は皮肉な感じで部屋を訪れ、小沢茂弘は「深作がなんぼのもんじゃーい!」と荒れ、当の高田自身も自分の書いた脚本を絶叫し……東映はスタッフの方が狂いまくっていたのかも。

そんな高田宏治が、老年となってなぜかVシネなどで自作の縮小再生産に走る理由が哀しい。やくざだけでなく、映画人の人生もまた、奈落へ向かっている。

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