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山椒大夫の地を逃れた厨子王は、ふもとの寺に駆け込む。そこでは大夫に絶望した太郎が剃髪して修行していた。彼のはからいもあって、厨子王は京の関白(シラノ・ド・ベルジュラック役で有名な三津田健)に会い、父の死を知る。その経緯を理解した関白は、厨子王を丹後の国守に任ずる。丹後……すなわち、山椒大夫の領地がある場所だ。
普通なら、ここで厨子王が山椒大夫への復讐を成し遂げてチャンチャンという展開もありだろう。しかし社会派的色彩も濃いこの映画では、ことはそう簡単に進まない。
着任早々に厨子王は人身売買を禁止し、大夫の領地を没収にかかる。しかし、時代は貴族階級と武士のせめぎ合いが始まったあたり。青年国守の理想は山椒大夫や部下によって軽くはねつけられる。
ここから、森鴎外の原作との違いが出てくる。役人としてトップにのぼりつめた鴎外だからというわけではないが、彼のバージョンでは、国守のパワーで山椒大夫は圧倒される。しかし溝口版では、自分の意を通すために厨子王は国守の座をみずから下りるのである。
もっと差があるのは山椒大夫の末路だ。溝口版においては、大夫の家はたちによって焼かれてしまう。しかし鴎外版では、なんと改心した大夫の家はますます栄えたことになっている!発表された時代の差か、作者の資質の差か、あるいは小説と映画という媒体の差がここで出たのだろうか。
さあラスト。職を辞した厨子王は、母を訪ねて佐渡を訪れる。遊女宿に母はいない。島の反対側にいるとの噂をたよりに歩き続ける厨子王。しかし向かった先の村は津波に押し流されていた。と、盲目の鳥追い女が歌を口ずさんでいる。
♪安寿恋しや、ほうやれほ
厨子王恋しや、ほうやれほ♪
「お母様!」
感動の再会シーン。ここで、溝口健二監督の執念と、宮川一夫の驚異的な撮影テクがさく裂する。以下次号。