「香港、1949年」
とテロップが入る。その混沌にまず圧倒される。密集した民家、ジャンク船が行き交う湾。1987年に一度だけ香港を訪れたことがあるけれど、そのカオスっぷりは40年後の比ではない。
時代がその背景にある。第二次世界大戦が終わり、しかし中国は国共内戦(要するに蒋介石と毛沢東の激突だ)のために“1日に”3000人が香港へ中国から流入していると説明される。
おや、と思う。実はこの高名な恋愛映画「慕情」は、けっこうな反共プロバガンダ映画でもあるみたい。製作されたのが1955年で、赤狩りの残り香がまだあったことと、主人公の実在のモデルであり、原作者のハン・スーイン(まだ存命ですっ)の夫は共産党軍との戦闘で死亡しているので、ある意味しかたのないことかも。
しかしそれ以前に、「慕情」は、くどいぐらいに西洋と東洋の対比がくりかえされる作品だった。
まず、舞台の香港がなにより微妙な存在。社会科の授業で習ったように(そして忘れていたように)アヘン戦争と南京条約で香港はイギリスに永久割譲されている。1949年当時、香港がこれからどんな形になるのか、誰も確信が持てないでいる様子は何度も描写される。
また、女医として献身的に医療活動をつづけるハン・スーイン(演じるジェニファー・ジョーンズのチャイナドレス姿はセクシーですよぉ)も、ベルギー人と中国人のハーフ。香港と同じように、西洋と東洋の融合体だ。彼女はそのことに誇りを持とうとつとめていて、中国の血を誇示して見せさえする。
同じハーフであるスザンヌが、中国の血をかなぐり捨てようとしているのと対照的だ。彼女は髪を染めてイギリス人になろうとしている。
「わたしはハーフよ。そう聞いただけでふしだらに思う人もいるわ」
「このままではわたしは安っぽい香港のハーフよ。」
「きれいね」
「“本物の”ダイヤよ」
彼女たちの会話は皮肉が効いていて、同時に苦い。以下次号。