その4.
「鍵なんてかかってないのに」とわたしが言った。
「かかってるんですよ、お客様」店主は言った。「いつだってね――あんな子には」そう言っているちょうどそのとき、その子供の小さな白い顔がちらりと見えた。お菓子やうまいものを食べ過ぎた青白い子供、欲望に顔をゆがめた、優しさのかけらも見受けられない小さな暴君が、自分を魅了する窓枠を叩いている。
「そんなことをしてやる必要はありませんよ、お客様」わたしが持ち前の義侠心を発揮して開けてやろうとドアの方へ行こうとしたところ、店主はそう言い、やがてその甘やかされた子供も、わあわあと言いながら連れていかれてしまった。
「どうやってそんなことをやってるんです?」少しほっとしたわたしは聞いてみた。
「これも魔法ですよ!」店主はそう言って、無造作に手をひらひらさせたところ、なんと! 驚いたことに指先から色とりどりの火花が飛んで、店の奥の暗がりに吸い込まれていった。
「君は言ってたね」そう言ってギップに話しかけた。「ここに入ってくる前に、うちの“これを買って友だちを驚かせよう”の箱がひとつほしいと言っただろう?」
ギップはせいいっぱい、勇気をふりしぼって答えた。「はい」
「君のポケットのなかを見てごらん」
カウンターから身を乗り出すと――実際、店主の胴体はきわめつけで長かった――、この驚くべき人物は、ふつうの「手品師」のような仕草で、そこから道具を取り出して見せた。
「紙」と彼は言い、バネの飛び出した空っぽの帽子のなかから一枚の紙切れを取り出す。「ひも」そう言うと、口の中にひもを巻いた球でもあるかのように、するするとひもを引き出した。箱を包み終えると、ひもを切り、どうみても残ったのひもは飲み込んでしまったようにしか見えなかった。それから腹話術の人形の鼻の先にある燭台に火をつけて、炎のなかに自分の指を突っ込むと(指は封蝋さながらに赤くなった)、包みに封をした。
「それから消える卵だ」そう言ってから、わたしのコートの胸ポケットからそれを取り出すと、それを包んだ。さらに本物そっくりの泣いている赤ん坊も。わたしは包みをひとつずつギップに手渡し、ギップはそれを胸に抱えた。
ギップはほとんど何も言わなかったが、その目も、しっかりと抱え込む両手も、雄弁に物語っていた。言葉にならない感情が彼の全身をかけめぐっていた。これこそほんとうの魔法だった。そのとき、わたしは自分の帽子のなかで何ものかが動く気配にハッとした――なにかやわらかく飛んだりはねたりするものだ。振り落とすと、腹を立てた鳩があらわれ――どうやら手品の鳩だ――降り立つとカウンターを駆けていき、どうやら張り子の虎の奥にある段ボール箱のなかに消えたようだ。
「チョッ、チョッ」店主は舌打ちすると、器用にわたしの帽子を取り上げた。「うかつのやつだなあ――おやおや――こんなところに巣を作ってしまった」
店主が帽子を揺すって、広げた手の中に卵を二つ、三つ、大きなビー玉、時計、半ダースのかならずでてくるガラス玉、最後にくしゃくしゃに丸めた紙、そのほかにもあとからあとからさまざまなものを落としていった。そのあいだずっと、帽子の外にはブラシをかけても中はさぼる人がおおいから、などと言うのは、もちろんぶしつけではなかったが、特定の誰か、つまりわたしにあてこすっているらしい。
「いろんなものがたまってしまうんですよ、お客様……もちろんお客様ばかりがそうだというわけではないんですがね……みなさんのほとんどが、中から出てくるものを見てびっくりなさいます」
丸めた紙くずが積もって、カウンターにどんどん山を築き、やがて店主の姿はその後ろに隠れて見えなくなってしまった。それでも彼の声は聞こえてくる。「わたしたちのだれも、人間がきちんとした外見の裏に何を隠しているのか、わかってやしませんからね。わたしたちがブラシをかけるのは外側だけで、まるで白く塗った墓のよう……」
その声が消えた――ちょうど、隣の家のレコードにねらいをさだめてレンガをぶつけたときのように、急に静かになったのだ。紙の球も止まった。なにもかもが止まった……。
(この項つづく)
「鍵なんてかかってないのに」とわたしが言った。
「かかってるんですよ、お客様」店主は言った。「いつだってね――あんな子には」そう言っているちょうどそのとき、その子供の小さな白い顔がちらりと見えた。お菓子やうまいものを食べ過ぎた青白い子供、欲望に顔をゆがめた、優しさのかけらも見受けられない小さな暴君が、自分を魅了する窓枠を叩いている。
「そんなことをしてやる必要はありませんよ、お客様」わたしが持ち前の義侠心を発揮して開けてやろうとドアの方へ行こうとしたところ、店主はそう言い、やがてその甘やかされた子供も、わあわあと言いながら連れていかれてしまった。
「どうやってそんなことをやってるんです?」少しほっとしたわたしは聞いてみた。
「これも魔法ですよ!」店主はそう言って、無造作に手をひらひらさせたところ、なんと! 驚いたことに指先から色とりどりの火花が飛んで、店の奥の暗がりに吸い込まれていった。
「君は言ってたね」そう言ってギップに話しかけた。「ここに入ってくる前に、うちの“これを買って友だちを驚かせよう”の箱がひとつほしいと言っただろう?」
ギップはせいいっぱい、勇気をふりしぼって答えた。「はい」
「君のポケットのなかを見てごらん」
カウンターから身を乗り出すと――実際、店主の胴体はきわめつけで長かった――、この驚くべき人物は、ふつうの「手品師」のような仕草で、そこから道具を取り出して見せた。
「紙」と彼は言い、バネの飛び出した空っぽの帽子のなかから一枚の紙切れを取り出す。「ひも」そう言うと、口の中にひもを巻いた球でもあるかのように、するするとひもを引き出した。箱を包み終えると、ひもを切り、どうみても残ったのひもは飲み込んでしまったようにしか見えなかった。それから腹話術の人形の鼻の先にある燭台に火をつけて、炎のなかに自分の指を突っ込むと(指は封蝋さながらに赤くなった)、包みに封をした。
「それから消える卵だ」そう言ってから、わたしのコートの胸ポケットからそれを取り出すと、それを包んだ。さらに本物そっくりの泣いている赤ん坊も。わたしは包みをひとつずつギップに手渡し、ギップはそれを胸に抱えた。
ギップはほとんど何も言わなかったが、その目も、しっかりと抱え込む両手も、雄弁に物語っていた。言葉にならない感情が彼の全身をかけめぐっていた。これこそほんとうの魔法だった。そのとき、わたしは自分の帽子のなかで何ものかが動く気配にハッとした――なにかやわらかく飛んだりはねたりするものだ。振り落とすと、腹を立てた鳩があらわれ――どうやら手品の鳩だ――降り立つとカウンターを駆けていき、どうやら張り子の虎の奥にある段ボール箱のなかに消えたようだ。
「チョッ、チョッ」店主は舌打ちすると、器用にわたしの帽子を取り上げた。「うかつのやつだなあ――おやおや――こんなところに巣を作ってしまった」
店主が帽子を揺すって、広げた手の中に卵を二つ、三つ、大きなビー玉、時計、半ダースのかならずでてくるガラス玉、最後にくしゃくしゃに丸めた紙、そのほかにもあとからあとからさまざまなものを落としていった。そのあいだずっと、帽子の外にはブラシをかけても中はさぼる人がおおいから、などと言うのは、もちろんぶしつけではなかったが、特定の誰か、つまりわたしにあてこすっているらしい。
「いろんなものがたまってしまうんですよ、お客様……もちろんお客様ばかりがそうだというわけではないんですがね……みなさんのほとんどが、中から出てくるものを見てびっくりなさいます」
丸めた紙くずが積もって、カウンターにどんどん山を築き、やがて店主の姿はその後ろに隠れて見えなくなってしまった。それでも彼の声は聞こえてくる。「わたしたちのだれも、人間がきちんとした外見の裏に何を隠しているのか、わかってやしませんからね。わたしたちがブラシをかけるのは外側だけで、まるで白く塗った墓のよう……」
その声が消えた――ちょうど、隣の家のレコードにねらいをさだめてレンガをぶつけたときのように、急に静かになったのだ。紙の球も止まった。なにもかもが止まった……。
(この項つづく)
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