陰陽師的日常

読みながら歩き、歩きながら読む

スイーツ・スイーツ

2006-09-07 22:36:08 | weblog
車にとってのガソリン、植木にとっての水、池の鯉にとってのお麩、「南から来た男」にとっての「賭けごと」、わたしにとってはそれにあたるのが、アイスクリーム、ほとんど食べ物というより生きる喜びに近いものではありますが、いちどきにそれほどたくさん食べられない。ハーゲンダッツのミニカップ、希望小売価格260円のそれすら、ほんとうは少し多いのです。そんなありがたいもの、残せますか、ってんで、がんばって食べますが、ほんとういうと、これの3/4、いや2/3ぐらいのサイズだったらどんなにいいだろう、といつも思います。

小学生のころ、近所に「鍵っ子」の友だちがいました。
いつも一緒に帰って、その子の家がわたしの家に帰るまでの通り道だものだから、よくその子の家へ寄り道しました。
鍵をランドセルのポケットから出して。
玄関ではなく、お勝手口を開けて、そこから入る。
お勝手の先は、少し湿った独特のにおい、自分の家とはまったくちがうにおいがしました。

そこから中へあがり、ランドセルをおくと、当時の真っ白い冷蔵庫(そういえば、どうしていまは冷蔵庫というと、色がついているのでしょうか)から麦茶の入ったプラスティックの大きな容器をよいしょ、と取りだして、わたしにもコップに一杯、ついでくれました。

家で麦茶を飲む習慣がなかったわたしは、かすかにプラスティックのにおいがするその麦茶が、ひどくおいしいもののように思いました。そうして、ときどき、冷凍庫にあったカップ入りのアイス、もちろんハーゲンダッツなんかとはまったくちがう、溶けてしまうと糊料がぶよぶよになるような、クリームのつかない「アイス」でしたけれど、それを平らな木のさじですくって食べる。ほんのひとくちか、ふたくち、わたしに食べさせてくれるのですが、それも夢のようにおいしかった。

お勝手の扉には、はめごろしの小さなガラス窓がついていました。
そこからブロック塀にはさまれた小さな路地が見え、その隙間からはみ出したアベリアの白い小さな花がいくつも見えました。
「鍵っ子」というのは、いいものだな、と思いました。

アメリカにほんの一時期、ホームステイしていたときがあって、そこのホストマザーはおやつをよく作る人でした。

だいたい、アメリカではたいてい食事をすればデザートがついてくる。
そうして、もちろんケーキ屋さんとかもありますが、毎日のデザートは家で作る。
日本のケーキみたいに、計量して、粉をふるって、なんてことはするはずがありません。どれもこれも無造作、乱暴に作ります。そうして、それがとてもおいしいのです。

冷凍のパイシートを買ってくる。
そうして、それを容器に広げ、うすくリンゴを切って、ざくざくならべて、もういちどパイシートを上にかぶせて、オーブンで焼いたら、できあがり。

そこの家の庭には、小さいやぶのようになったブルーベリーの木や、ラズベリーの木が無造作に、雑草と一緒に、ざわざわと繁っていました。ときどきそれを取ってくる。
それをパイレックスの器に入れて、上からちょっとお砂糖をふりかけて、レンジでチン、あっというまに、ジャム? ができる。

それも、パイシートにのせて焼く。
これでブルーベリーパイのできあがり。

どれも焼きたて、あたたかいうちにバニラアイスクリームをのせて、パリパリのパイ皮がしんなりしたのを、とろけたアイスクリームと一緒に食べます。これまた、夢のようにおいしい。
そういえば、そこの家の冷蔵庫も、白く、そうして巨大でした。
冷凍庫には、アイスクリームが入ったバケツのような大きな容器が、どかっと場所を占領しているのでした。
大きなバケツから、ほんのひとすくい、アイスクリームを自分のパイの上に載せながら、お勝手口の窓から見た、遠い路地の風景を思い出すのでした。

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