陰陽師的日常

読みながら歩き、歩きながら読む

シャーリー・ジャクスン「ある晴れた日に、落花生を持って」最終回.

2009-09-11 23:14:03 | 翻訳
最終回

「穀物ですって?」と運転手は聞いた。「馬の名前の話でしょ、たとえば、小麦とかなんとかだっていいんですかね?

「そういうことだ」ミスター・ジョンスンは言った。「実際のところ、もっと話を簡単にすると、CとRとLを含む名前の馬なら何だっていい。単純なことなんだよ」

「トールコーンだったらどうです?」運転手は目を輝かせている。「お客さんが言う馬の名前っていうのは、たとえばトールコーンなんかもそうですよね?」

「すばらしい」ミスター・ジョンスンは言った。「これが君のお金だよ」

「トールコーン」運転手は口に出した。「お客さん、ありがとうございます」

「じゃ、さよなら」ミスター・ジョンスンは言った。

 自分のアパートメントがある一画で降りると、まっすぐ部屋に上がっていった。ドアを開けて中に入り「ただいま」と声をかける。するとミセス・ジョンスンが台所から「お帰りなさい、早かったのね」と応えた。

「タクシーを使ったんだ。チーズケーキのことも思い出してね。晩ご飯は何かね」

ミセス・ジョンスンは台所から出てくると、夫にキスをした。頼もしい感じの女性で、ミスター・ジョンスン同様に、にこやかな表情である。

「今日は大変でした?」

「いや、それほどでもなかった」ミスター・ジョンスンはコートをクロゼットにかけながら答えた。「君の方はどうだったのかい?」

「まあまあ」妻の方は、台所の戸口に立ち、ミスター・ジョンスンはアームチェアに腰かけて、はき心地の良い靴を脱ぐと、今朝買った新聞を取りだした。「あっちでもこっちでも」と彼女は言った。

「ぼくの方は、悪くない一日だった。若いふたりを取り持ってやったし」

「よかったわね。わたしはお昼に少し寝て、一日じゅう、のんびり過ごしてたの。朝のうち、デパートへ行ったんだけど、すぐ横にいた女が万引きをしてたの。だから警備員に言って、つかまえてもらった。犬も三匹、野犬センターに送ったわ。まあいつものことね。そうそう」と急に思い出したらしく、つけ加えた。「それはそうと」

「どうしたんだい?」ミスター・ジョンスンはたずねた。

「あのね、今日、バスに乗ったんだけど、運転手に乗車券ください、って言ったの。そしたらわたしを後回しにして、よその人を先にしようとするものだから、失礼なことをしないで、って言ってやったの。そしたら言い争いになっちゃって。それで、『軍隊に入ったらどう?』って言ってやった。大きな声で言ったから、きっとみんなに聞こえたんだと思うの。それからその人の番号を控えておいて、苦情係りに出したの。きっとクビになるでしょうね」

「結構。だが君、ずいぶん疲れたみたいだが。明日は役を交替してあげようか?」

「そうしてくれるとありがたいわ。きっと気分転換になるはず」

「わかったよ。晩ご飯は何かな」

「子牛のカツレツよ」

「昼に食べたんだがね」とミスター・ジョンスンは言った。


The End



(※後日手を入れてサイトにアップします。お楽しみに)




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