四月二日
妹はほとんど全快したといってもいいほどだ。頬もほんのりと薄紅色に戻ってきたが、まだ元通りとは言えないのだけれど。ただ、「愛しい旦那様」の機嫌を損なうようなことをやってしまったのではないかと気にかけているので、わたしも真相のごく一部を打ち明けるべきだと考えた。全体から見れば、些末な部分なのだけれど。とりあえず、シャルルさんは、あなたの具合がよくなかったから、大慌てでことを運んだのだけれど、あとになって、そのことを気に病んでおられたのよ、でも、家の準備ができたら、すぐに戻っていらっしゃるにちがいないわ、と。
そのあいだに、わたしはあの方に、有無を言わせぬ調子で、早く戻ってきて、苦しい板挟みの情況からわたしを解放してください、と手紙を書いたのだ。この文面ではわたしの愛情は、どれだけ探そうと思っても、見つかりっこない。
四月十日
驚いたことに、先日わたしがヴェニスにいるあの方に宛てて書いた手紙にも、妹が書いた手紙にも、返事が来ない。妹は、具合がお悪いのではないかしら、と心配している。わたしにはどう考えてもそうは思えない。ご返事くらいくださってもよいのに。もしかしたらわたしの横柄な言いぐさが、ご機嫌を損じたのかもしれない。その可能性を考えると、何だか悲しくなってしまう。わたしがあの方の怒りにふれただなんて。でも、もういいのだ。わたしは妹にほんとうのことを打ち明けよう。さもないと、何も知らないまま、何かぶちこわしにするような、評判を落とすようなことをしかねない。あの子は自分が起きている間中、どれほどシャルルさんを、シャルルさんだけを思っているか、わかってくだされば、厚かましくも妻になってしまったことも大目に見てくださるだろう、と寂しそうに言う。かわいい子、胸が痛むほどだ。わたしは涙をこらえることができなかった。
四月十五日
家の中は上や下への大騒ぎだ。父は怒りながらもすっかり気を落とし、わたしは悲嘆に暮れている。キャロラインがいなくなった――そっと家を抜け出してしまったのだ。あの子がどこへ行ったか、考えないではいられない。わたしはどれだけひどいことをしたのか。あの子には何一つ罪はないのだ。もっと早く話しておけば良かった……。
(午後一時)
まだあの子の足取りはつかめない。家で使っていた年若い小間使いも、キャロラインと一緒にいなくなったことがわかった。キャロラインがひとりで行くのが心細くて、小間使いを誘いだしたのにちがいない。あの子は矢も楯もたまらず、シャルルさんを捜しに行ったにちがいない。おそらくヴェニスに行こうとしているのだ。夫の下へ向かう以外に、あの子がいったいどこへ行くというのか。
いまとなっては、ここ数日、あの子のそぶりにそんな気配があったことを思い出す。まるで旅立とうとしている渡り鳥が、そんな気配をただよわせているように。それでもあの子がこんな大胆なことを、誰の助けもなく、わたしにも相談せずにすることができるなんて。いまのわたしにできるのは、単に起こったことを、書きとめておくだけだ。振り返る時間などないのだ。だが、夢見心地のキャロラインが、ほんの小娘を連れてヨーロッパ大陸へ渡って行くとは。どのならずものにとっても、いいカモであるにちがいない。
(この項つづく)
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