陰陽師的日常

読みながら歩き、歩きながら読む

トルーマン・カポーティ「クリスマスの思い出」その7.

2009-12-07 23:01:50 | 翻訳
その7.

 確かにそこは海ともいえる。クリスマスツリーが草いきれを放ちながら、見渡す限りに広がっているのだ。赤い実は中国の鐘のように輝き、黒いカラスたちは声高に鳴き交わしながら、つぎつぎに木に舞い降りていく。ぼくたちは何十枚もの窓が飾れるほどの緑の葉と真紅の実を持ってきた南京袋に詰め込んでから、木を選びにかかる。

「木っていうのは」とぼくの友だちは考え深げにいった。「男の子の二倍くらいの丈がなきゃ。そうでなきゃ男の子がてっぺんの星を取っちゃうから」

ぼくたちが選んだのは、ぼくの倍くらいの高さの木だ。しっかりして美しく、頑丈な木に手斧を振り下ろし、三十回ほど重ねたところでとうとう引き裂かれるような悲鳴をあげて倒れる。獲物のように引きずって、ぼくたちは長い帰途につく。数メートル行くごとに、悪戦苦闘をあきらめ、すわりこんで、ぜいぜいと息をあえがせる。だが、ぼくたちは勝利を治めた狩人だから、強いのだ。しかも、生命力にあふれた、氷のように冷たい木の香を嗅いでいると、ぼくたちの元気が湧いてくる。

 夕方、赤土の道を町まで帰っていると、あちこちから何度も賞賛の声をかけられる。だが、ぼくの友だちは通りがかりの人が、ぼくたちの荷車に積んである宝物を褒めても、如才がなく、曖昧な笑みを浮かべるだけだ。これは立派な木だ、どこで取ってきたんです? 「奥の方で」と、くぐもった声で曖昧に言う。一度などは車が停まって、羽振りのいい工場の工場主夫人が、身を乗り出しながら哀れっぽくいった。「その木を25セントで譲ってもらえないかしら」いつもはなかなか断ることができないぼくの友だちも、今度ばかりはきっぱりと首を横に振る。「1ドルでもお断りですよ」工場主婦人も食い下がる。「1ドルですって? なんてこと! 50セントじゃいかが。これ以上はムリよ。ねえ、奥さん、あなたのはまた切りに行けばいいんじゃない?」ぼくの友だちは、角が立たないように答える。「どうでしょうね。この木はまたとないものですからね」

 家だ。クィーニーは火の前に身を沈め、翌日までぐっする眠る。人間に負けないほどの大きないびきをかきながら。


(この項つづく)




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