さらにクローヴィスものの"The Almanac"(「暦」)をお届けします。
今回の主役はヴェラです。
原文はhttp://haytom.us/showarticle.php?id=133で読むことができます。
* * *
"The Almanac"
「暦」
「こんなことを考えたことはない?」ヴェラ・ダーモットがクローヴィスに聞いた。「地元の暦を作ったら、悪くない小遣い稼ぎができるんじゃないかしら。未来を予言するような言葉を入れておくのよ、世間で50万部も売れてる暦みたいに」
「小遣い稼ぎはきっとできるだろうけど」とクローヴィスは言った。「悪くない、ってのはどうかな。予言者というのは故郷では迫害されるものなんだよ。君だって自分が予言した人たちと面つきあわせて毎日を送ることを考えたら、そんな仕事、ごめんなんじゃないか。もしヨーロッパ各地で王冠を頭にいただくようなお歴々に向かって、何か悲劇的なことが起こると予言しておいて、一日おきに昼食会やお茶会で連中と顔を合わせせなきゃならないとしたら、その仕事も悪くないなんてことは言ってられないんじゃないかな。特に年の終わりになって、予言した悲劇の期限がだんだん迫ってきたりしたら、目も当てられない」
「わたしは新しい年になる直前に売り出すことにする」ヴェラは、起こりうる不都合な可能性を指摘されても、一切耳を貸さずに言い切った。「一部18ペンス。友だちにタイプしてもらえば、一部売るたびにそっくりそのまま儲けになる。いくつ予言を外すだろう、って野次馬気分で、みんな買ってくれるにちがいないわ」
「のちのち困ったことになるんじゃない?」クローヴィスが聞いた。「予言がつぎつぎ『立証不能』ってことになりでもしたら」
「大外れってことがないような予言だけを用意するのよ。最初の予言はこれ。“教区司祭は『コロサイ人への手紙』からの感動的な説教で新年を始めるでしょう”って。あの人、わたしの記憶にある限り、毎年それをやってるもの。おまけにあのお年でしょ、変化なんてものは好まないはず。それから一月の項にはこう書いて大丈夫でしょうね。“この地区の名家のうち、深刻な財政上の問題に直面するお宅が一軒以上はあるでしょうが、それが現実の危機にまで至ることはないでしょう。”ってね。ここらじゃ毎年この時期はあっちの家でもこっちの家でも支出超過で大変なことになってて、大幅な財政緊縮が必要になるのよね。それから四月か五月あたりには、ディブカスター家のお嬢さんのひとりが、生涯で一番幸福な選択をするでしょう、って予言するの。八人も娘がいるんだから、そのころにはひとりぐらい結婚するとか、舞台に立つとか、大衆小説を書くかしてもいいはずよ」
「だけどあの一族からは人類史をさかのぼってみても、そんなことをした人間は、ただのひとりも出てきてないぞ」クローヴィスが反論した。
「いちかばちかやってみなきゃいけない場合だってあるわ。だけど安全策をとるなら、二月から十一月のあいだに使用人の問題を抱えることになる、っていうのはどう? “この地区のきわめて優秀な奥様、あるいは家政を預かる方のうち、使用人の問題に頭を悩ませる方がいらっしゃるでしょうが、さしあたっては乗り切ることができるでしょう”って」
「もうひとつ安全な予想がある」クローヴィスが提案した。「ゴルフ・クラブで競技会が何度かあってメダルが授与されるっていうのはどうだろう。“この地区でトップクラスのゴルフ・プレイヤーはひとかたならぬ不運に見舞われ、獲得するはずのメダルを逃してしまうことになるでしょう。”少なくともこの予言が当たった、と思うやつは一ダースは下らないだろうな」
ヴェラはそのアドバイスを書きとめた。
「先刷りを半額で譲ってあげるわ」ヴェラが言った。「だけどお宅のお母様には、定価で買ってもらってね」
「おふくろには二部買わせるよ。一冊はレディ・アデラにあげればいい。あの人は借りられるものなら何だって借りて済まそうとするんだからな」
(この項つづく)
今回の主役はヴェラです。
原文はhttp://haytom.us/showarticle.php?id=133で読むことができます。
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"The Almanac"
「暦」
「こんなことを考えたことはない?」ヴェラ・ダーモットがクローヴィスに聞いた。「地元の暦を作ったら、悪くない小遣い稼ぎができるんじゃないかしら。未来を予言するような言葉を入れておくのよ、世間で50万部も売れてる暦みたいに」
「小遣い稼ぎはきっとできるだろうけど」とクローヴィスは言った。「悪くない、ってのはどうかな。予言者というのは故郷では迫害されるものなんだよ。君だって自分が予言した人たちと面つきあわせて毎日を送ることを考えたら、そんな仕事、ごめんなんじゃないか。もしヨーロッパ各地で王冠を頭にいただくようなお歴々に向かって、何か悲劇的なことが起こると予言しておいて、一日おきに昼食会やお茶会で連中と顔を合わせせなきゃならないとしたら、その仕事も悪くないなんてことは言ってられないんじゃないかな。特に年の終わりになって、予言した悲劇の期限がだんだん迫ってきたりしたら、目も当てられない」
「わたしは新しい年になる直前に売り出すことにする」ヴェラは、起こりうる不都合な可能性を指摘されても、一切耳を貸さずに言い切った。「一部18ペンス。友だちにタイプしてもらえば、一部売るたびにそっくりそのまま儲けになる。いくつ予言を外すだろう、って野次馬気分で、みんな買ってくれるにちがいないわ」
「のちのち困ったことになるんじゃない?」クローヴィスが聞いた。「予言がつぎつぎ『立証不能』ってことになりでもしたら」
「大外れってことがないような予言だけを用意するのよ。最初の予言はこれ。“教区司祭は『コロサイ人への手紙』からの感動的な説教で新年を始めるでしょう”って。あの人、わたしの記憶にある限り、毎年それをやってるもの。おまけにあのお年でしょ、変化なんてものは好まないはず。それから一月の項にはこう書いて大丈夫でしょうね。“この地区の名家のうち、深刻な財政上の問題に直面するお宅が一軒以上はあるでしょうが、それが現実の危機にまで至ることはないでしょう。”ってね。ここらじゃ毎年この時期はあっちの家でもこっちの家でも支出超過で大変なことになってて、大幅な財政緊縮が必要になるのよね。それから四月か五月あたりには、ディブカスター家のお嬢さんのひとりが、生涯で一番幸福な選択をするでしょう、って予言するの。八人も娘がいるんだから、そのころにはひとりぐらい結婚するとか、舞台に立つとか、大衆小説を書くかしてもいいはずよ」
「だけどあの一族からは人類史をさかのぼってみても、そんなことをした人間は、ただのひとりも出てきてないぞ」クローヴィスが反論した。
「いちかばちかやってみなきゃいけない場合だってあるわ。だけど安全策をとるなら、二月から十一月のあいだに使用人の問題を抱えることになる、っていうのはどう? “この地区のきわめて優秀な奥様、あるいは家政を預かる方のうち、使用人の問題に頭を悩ませる方がいらっしゃるでしょうが、さしあたっては乗り切ることができるでしょう”って」
「もうひとつ安全な予想がある」クローヴィスが提案した。「ゴルフ・クラブで競技会が何度かあってメダルが授与されるっていうのはどうだろう。“この地区でトップクラスのゴルフ・プレイヤーはひとかたならぬ不運に見舞われ、獲得するはずのメダルを逃してしまうことになるでしょう。”少なくともこの予言が当たった、と思うやつは一ダースは下らないだろうな」
ヴェラはそのアドバイスを書きとめた。
「先刷りを半額で譲ってあげるわ」ヴェラが言った。「だけどお宅のお母様には、定価で買ってもらってね」
「おふくろには二部買わせるよ。一冊はレディ・アデラにあげればいい。あの人は借りられるものなら何だって借りて済まそうとするんだからな」
(この項つづく)
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