hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

「3年で辞めた若者はどこへ行ったか」を読む

2008年08月16日 | 読書2

城繁幸「3年で辞めた若者はどこへ行ったか -アウトサイダーの時代」2008年3月 筑摩新書 を読んだ

表紙には、以下のようにある。
「・・若い世代に対し、昭和的価値観に従わず生きる人たちの仕事や人生観を紹介することで、若者が平成的価値観をはぐくむ手助けとしたい。彼らはどのような壁に直面し、何を目指してレールを降りたのか。そして今後、企業や社会が目指すべき改革とはどのようなものか。・・」

裏表紙には、「・・いまだに多くの会社で、昭和の時代から続く風習や決りごと、働き方が支配している。「若者はなぜ3年で辞めるのか?」でその状況を描いた著者が、辞めた後の、いわば「平成的な生き方」とは何なのかを指南する」


大手の会社を辞めた若者が、外資系、ベンチャー、NPO、作家などになった実例が、
最初からズラズラと並ぶ。その話の中に、戦後に確立した年功序列と終身雇用に代表される昭和的価値観(著者の造語だが、昭和と言ってもいろいろだ。ネーミングが悪い)がいかに現代の悪になっているかが語られる。しかし、しょせん少数派の個別の話であり、全体傾向はまったく話されない。これが、200ページほど続く。
肝心なのは最後の40ページほどの全体の話だ。

「昭和的価値観を成り立たしめたものは、やはり戦後に確立した年功序列と終身雇用の両制度である。転職市場が未整備で、・・・いかにレールの安定した会社に滑り込むかが最大の勝負どころとなるわけだ」とあり、
著者によれば、団塊の世代以前の古い人々が築いた昭和的価値観はもはや障害そのもので、彼らは日本変革への抵抗勢力だ。


以下、(  )は私のコメント。

(上記の論は極論で、年功序列と終身雇用などすでに崩壊しはじめているし、日本全体の閉塞感、先行き不安感が若い人をしらけさせたり、見かけの安定に走らせているのではないか。
すくなくともネットで見る限り、20-40代の若い人は、団塊の世代を含む現在の社会支配世代をゾンビと決めつけ、どうともならない絶望感を持って侮蔑の言葉を投げかけている場面を見かけることがある。
本当にそうなのか?我々の努力はもはや社会の障害そのものなのか?確かに、この先への展望は見えないが、築いてきたものの大半は、すくなくとも経済的には貢献したのではないか。そこまでボロクソに言われたくない。怒りに燃えるなら、闘え。たとえ勝利は絶望的であっても。
少なくとも団塊の世代は、若い頃には、閉鎖的社会に一度は戦いを挑んだ。たしかに、破れ、日和、その後、会社の奴隷になったにしても。)



最後の30ページほどに若者を中心に広まりつつあるという新しい価値観について述べられている。この部分は読み応えある。

日本の労働者は3階層に分かれる。最上位は、かっての定期昇給の恩恵で、20代の2倍以上の基本給の中高年正社員。次が、定期昇給を知らない団塊ジュニア以降の正社員で、上の階層より生涯賃金は3割は減少するだろう。そして一番下が非正規雇用労働者で、賞与、退職金も、雇用継続保証もない。
対策の方向性は明らかだ。同一労働同一賃金に向けて、正社員の既得権にメスを入れ、正社員と非正規雇用者の垣根を取り払えばよい。しかし、年齢給をやめ、完全な職務給に移行するのは、労働組合、既成労働者政党の抵抗が強く、実現困難だろう。

以下ますます激烈な主張となる。
非正規雇用者は、このまま行けば無資産・無住居・無職で60代になり、ホームレスに転落する可能性は高い。彼らが路上で息を引き取る時、彼らに代わって安楽な老後を手に入れた老人たちは、既に永眠していなければ、「改革なんて馬鹿なことをしようとしたから、あんな可哀想な人たちが生まれたのだ」と言うだろう。
それは断じて違う。構造改革とは、新たな利益再分配モデルを作り出すことである。国債をばらまいて老人だけが逃げ延びることでも、中高年の正社員だけに安定した雇用を保証することでもない。各労働者が正当な対価を受取れるように障害となる規制を取り払うことだ。そのためには、従来の左右の対立ではなく、世代間で対立しなければならない。



(最近一部で叫ばれているように、あまりにも正社員をクビにするための障害が高すぎる。そのしわ寄せを非正規雇用者が被っている面はある。この意味で著者の分析は正しいと思う。しかし、世代間対立は民族紛争と同じで不毛だ。
長い目で見れば、重厚長大企業、非効率製造業、兼業農家など新時代には生き残れないゾンビ企業、職業への政府補助を廃止し、付加価値の高い企業を伸ばすためにすべての規制を撤廃すべきだ。同時に最低限のセイフティネットは張る必要がある。
また、労働市場の流動性を高めることで格差の固定化を避け、各人の能力、特色に応じた賃金が受取れるようにする。ようするに、政府はセイフティネット以外は何もしないほうが良いということだ)



私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)

売らんかなの姿勢で反響を呼ぶための極端な決め付けが多いが、著者の主張の基本は納得できる。団塊の世代以上の人は、圧迫され、割を食っていると思っている中年や若い人の主張を何かの機会に聞いてみてほしい。
著者には、もっと冷静で、腰を据えた著作を期待したい。


コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする