『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  522

2015-05-12 08:58:54 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 下山の歩行は慎重な足運びを心がけた。小休止をとりながら目にする風景について話し合った。
 振り返って仰ぐイデーの山体はでかかった。
 日和はいい、山裾の樹林帯を抜けてソニアナに通じる道に戻り、宿坊に帰り着いた。
 彼らは小川の清流で、今日一日の汗と疲れを洗い流した。一同は、夕食までの間を集落の散策に費やした。スダヌスが一同に声をかける。
 『ご一同、如何ですかな、もう、そろそろ宿坊の方へ行きましょう』
 『おう、いいだろう』
 衆議一決の賛同である。彼らは、それとなく空腹を感じていたのである。
 『やややっ!みなさん!お帰りなさい。今日はお疲れになりましたかな?夕食の支度ができています。食堂の方へ、どうぞ!』
 宿坊の主人は、屈託のない笑顔で一同を食堂に招じ入れた。食卓の上には、もてなしの心を込めた料理の数々が卓狭しと並んでいる。めずらしい山の料理のオンパレードであった。山の湧水がベースの酒である、淡白ながらもさわやかなのど越しであった。素朴な味の料理である。一同は、うまい!うまい!で味わった。何を口に運んでもうまかった。
 イデー山山頂でのことが話題にのぼってくる。彼らにとって貴重な体験であり、語り継いでいく体験であった。また、松明で暖をとったことを宿坊の主人に厚く礼を言った。
 『そうでしたか、山頂は、耐えられないくらいに寒かったでしょう。役に立って何よりでした』
 山頂で味わった寒さ、それに耐えた有様、言葉で言い尽くせない目にした眺望の数々、それを語って話に花を咲かせた。
 最後に明日の行程を話し合って夕食の座を解いた。
 夜が更けていく、床に就く、寝つけない。とは言え、快い疲れが彼らを眠りの深淵に誘った。
  
 彼らの朝は早い、山行2日目の朝である。イデー山麓で陽の出前の黎明の時には、もう起きだしていた。
 朝行事を終えて陽の出を待っている。昨日の朝はイデー山山頂で苛酷の朝を迎えた。
 今朝の山裾で迎える朝、朝の心いい冷気が彼らをキリッとさせた。
 彼らの日常、海辺で迎える朝とは、異質の朝を体感していた。