『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第1章  トロイからの脱出  29

2009-04-16 07:59:05 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 トロイの船舶の係留地に向かうヘレノス、カピュスの率いる一団は、イーダ山の山裾の道を、暗闇を見透かしながら速足で歩を進めていた。歩速がおそくなる、それに気付く、歩速を速める、また、おそくなる、気付く、速めるを繰り返しながらの速足であった。
 道は、10年も続いた戦いによって、踏みならされた林の中の小道を、彼らは、二列で進んでいる。灌木が繁り、アーモンドの木も葉を繁らしている、木々の間から見上げる空には、星がまたたき、燃え盛るトロイは、その上天を真っ赤に焼いていた。
 闇の道をたどる市民たちの心情は、脱出の心意気とは、うらはらに、落人としての切なさが渦を巻き、追われる恐怖にもおののく心中の葛藤にさいなまれていた。

第1章  トロイからの脱出  28

2009-04-15 06:54:04 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おうっ!行くぞっ!皆、道中気をつけろ。いいな、続けっ!』
 アエネアスは、燃え盛るトロイに一瞥をくれて、ためらわず馬にムチを入れた。
 馬囲いの地を出た一行は、川筋を海岸に向けて駆けた。
 アエネアス、そして、アレテスに率いられる一団は、脱出の途についた。アエネアスの父と息子アスカニウスは、6人の兵を配されて、一団の巻き上げる砂塵の中にいた。
 駆ける一団は、声を発しなかった。無言でただひたすらに駆けている。砂の多い大地は、馬蹄の響きを消していた。
 彼らを導く星は、頭上にまたたいていた。

第1章  トロイからの脱出  27

2009-04-14 06:44:44 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『父上、貴方は、この期に及んで何を言われる。貴方をおいていけると、お思いか。それは、とんでもない了見違いだ。私は、貴方の力も借りたい。一緒に来るのです。嫌とは言わせません。』 アエネアスは、ここで、ちょっと間をとった。
 『父上!申し訳ない。』 と言うや、彼は、拳をにぎるや、間髪をいれず、父の急所に、当て身を入れた。父は、その場にくず折れた。
 『おいっ!頼む。』 と一声を放ち、連れて来た従卒に、父を背負わせて、出発の場へと急いだ。
 『アレテス、アレテス、準備はいいか!』
 『半数は先発させました。残っている半数も準備は出来ております。統領の方はいいですか。』
 『おう、父とアスカニウスを頼む。アレテス、出発だ!』
 『判っています。万端、了解しています。統領!』 
 アエネアスは、準備してあった馬を引きつけ、馬上の人となり、彼は、一同を見渡し、無言でうなづいた。

第1章  トロイからの脱出  26

2009-04-13 09:17:39 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 あわただしい中、妻であり、母であるクレウサとの別れの儀式を終えた。こののち、彼は、息子にうまく事の詳細を話すことが出来るかと迷いが残った。彼は、統領としてのアエネアスに戻った。
 『アレテス、兵に言いつけて、土をかけてくれ。墓標の石は俺が載せる。』
 彼は、アスカニウスを左腕に抱いて、アレテスに声をかけた。この期に及んで、感傷を振り捨てた。
 『アレテス、いくぞ、急げ!』
 『判りました。統領、出発の準備は整っています。統領のお父様の様子が、ちょっと、おかしいのですが。』
 『何っ!俺が行こう。兵を一人連れて行く。』 アエネアスは、父のもとへ急いだ。
 『アエネアスか。わしは、ここに残る。わしにかまわず、お前たちは、一時も早く、ここから脱出するのだ。建国に向かって、帆をはれ!行くのだ。トロイは落ちた。命ながらえる亡命は嫌だ。わしは、残る。早く行け!』
 父アンキセスは、ごねた。

第1章  トロイからの脱出  25

2009-04-10 07:14:38 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 息子アスカニウスは、暗闇の中で母を見つめていた。眠っているばかりで、何も言わない母、その母を怪訝な思いで眺めていた。アエネアスには、寄り添って立つ息子アスカニウスの思いが判らなかった。父アエネアスにとって、思いの至らない領域であった。ただただ、息子アスカニウスを思いばかるだけで、その心のうちを解するのは、想像の領域であった。
 アスカニウスは、父のまとっている鎧の裾を、しっかりと握っているばかりである。通り過ぎる感慨は、瞬く間であった。アエネアスは、アレテスに声をかけて、穴の底に歩を運び、妻を横たえた。アスカニウスを抱いて穴の中におろした。ひとりは、愛していた妻に、ひとりは、慕っていた母にまとわりついて、もの言わぬ母を不思議に思っていた。
 万感が胸を突く、過ぎた日々がよぎって行く。
 『クレウサ。俺たちは、建国の使命を必ず成し遂げる。安らかに眠れ。』
 彼は、瞑目して、妻を送った。

第1章  トロイからの脱出  24

2009-04-09 06:35:25 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 これを聞いて、アレテスは答えた。
 『判りました。直ちに出発させます。主だった者たちと話し合ったのですが、貴方を呼ぶのに、軍団長では、長すぎるのではと言います。貴方のことを、『統領』と呼びたいと言っています。よろしいですね!統領!』
 闇の中のアエネアスは、ちょっぴり顔をしかめながら、アレテスの言葉にうなづいた。深更に至って、星の光が心持ち強く感じられた。
 『判った。皆、ありがとう。さあ~っ、時間がない、すぐに出発させろ。俺は、妻を埋める、アレテス、瞬時だ、付き合え!』
 アレテスは、兵4人を従えて、アエネアスを掘った穴の前に案内した。そこは、馬囲いの地の中でも、小高いところであった。
 アエネアスは、妻クレウサを慈しみ深く、別れを惜しむ心情で、しっかり抱いていた。彼の心中は、愛する故のくるおしさで猛りくるっていた。別れの哀切と愛惜の情が渦巻いている。この危急存亡の事態の中で、辛うじて抑えていた心情であった。彼の一身に託された500人の命に考えが及ぶことで、妻クレウサに対する激する心を抑えていたのである。

第1章  トロイからの脱出  23

2009-04-08 05:40:13 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『皆、話を聞いて、俺の気持ちを判ってくれたようだな。では、エレドミドまでの詳細を打ち合わせよう。兵一人に馬一頭の予定なのだが、不足の馬をどのように調達するか。アカテス、考えたか。』
 『はい、この高台から,少し降りた所に、リナウスの馬囲いがあり、100頭くらいの馬がいます。それを頂戴しようと思っていますが。、、、』
 『それは、願ってもないことだ。頂こう。余った馬は、連れて行け。途中でどんなことが起こるかわからない。これには、リナウス、お前の部隊が当たれ!ぬかるな。以上だ。』
 『よしっ!皆、判ったか。アレテス、皆と段取りを打ち合わせろ。部隊の編成は、どの順番で、この地を発っていくか。川筋も何本かある。目立たぬように川筋を駆け下りろ。混乱はいかん。判るな。整った隊から、直ちにこの地を発て!判ったな。急げ!俺には、アレテス、お前の部隊が就け。整った隊から、直ちに出発させよ!いいな。俺とお前は、しんがりで行こう。』 
 夜は、更けて深更に至っていた。

第1章  トロイからの脱出  22

2009-04-07 06:44:14 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『皆っ!いいか。ただちに、この地を離れる、出発する!馬を駆って、エレドミドの入り江を目指す。まず、河に沿って、海岸に駆け下りる、海岸を南へ向かって走れ。明朝には、目指す入り江に着く。道に詳しい者が先に走っている、それに続いて懸命に駆けろ!心の中で叫べ!我々の使命は建国である。我々は、必ずやる。我々は、必ず出来る!希望は、前に立ちはだかる困難を打ち砕く、そして、君たちを前に進める。希望は、困難を征する。あとは、君たちの部隊を率いる隊長の指示に従って行動するのだ。以上だ。我々は、必ずできる!ただちに、出発するのだ。』
 アエネアスは、檄を発したあと、腹心たちに声をかけた。
 『アレテス、アカテス、イリオネス、主だった者で詳細を打ち合わせる、寄ってくれ。』

第1章  トロイからの脱出  

2009-04-06 07:09:14 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『軍団長!皆、集まりました。』
 『よし!判った。』 アエネアスは、闇の中、皆を見渡せるような一段高いところに立った。彼は、一声を放った。
 『おう!皆、いるか!闇の中だ、隣を確かめろ!』 彼の声は、暗闇を裂いて通った。一呼吸ののち口を開いた。
 『諸君!私の大切な強者たちよ。我々のトロイは、ギリシア軍の火攻によって、なくなった。我々は、この土地を去る。我々の行く先では、トロイからの逃亡者と言われるかもしれない。それも、敵前逃亡と言われると思う。堪えてくれ、忍んでくれ、その汚名に耐えてほしい。私は、ここに強く宣言する!我々は、使命をもって起つ!いいな!判るな!我々の使命は、新しいトロイ、新しい国を建設する!この世界のどこに建国するか、それは、まだ定まってはいない。そのために我々は、この地から、今、脱出する。逃亡ではなく、新しい建国への出立つである。我々は、エレドミドの入り江から、エーゲ海を北上し、トラキアの地に向かう。いっときは、その地に落ち着き、いずれは、エーゲ海を南下して、建国の地を定める。』
 アエネアスは、ここで一旦言葉をきった。