『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第1章  トロイからの脱出  25

2009-04-10 07:14:38 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 息子アスカニウスは、暗闇の中で母を見つめていた。眠っているばかりで、何も言わない母、その母を怪訝な思いで眺めていた。アエネアスには、寄り添って立つ息子アスカニウスの思いが判らなかった。父アエネアスにとって、思いの至らない領域であった。ただただ、息子アスカニウスを思いばかるだけで、その心のうちを解するのは、想像の領域であった。
 アスカニウスは、父のまとっている鎧の裾を、しっかりと握っているばかりである。通り過ぎる感慨は、瞬く間であった。アエネアスは、アレテスに声をかけて、穴の底に歩を運び、妻を横たえた。アスカニウスを抱いて穴の中におろした。ひとりは、愛していた妻に、ひとりは、慕っていた母にまとわりついて、もの言わぬ母を不思議に思っていた。
 万感が胸を突く、過ぎた日々がよぎって行く。
 『クレウサ。俺たちは、建国の使命を必ず成し遂げる。安らかに眠れ。』
 彼は、瞑目して、妻を送った。