息子アスカニウスは、暗闇の中で母を見つめていた。眠っているばかりで、何も言わない母、その母を怪訝な思いで眺めていた。アエネアスには、寄り添って立つ息子アスカニウスの思いが判らなかった。父アエネアスにとって、思いの至らない領域であった。ただただ、息子アスカニウスを思いばかるだけで、その心のうちを解するのは、想像の領域であった。
アスカニウスは、父のまとっている鎧の裾を、しっかりと握っているばかりである。通り過ぎる感慨は、瞬く間であった。アエネアスは、アレテスに声をかけて、穴の底に歩を運び、妻を横たえた。アスカニウスを抱いて穴の中におろした。ひとりは、愛していた妻に、ひとりは、慕っていた母にまとわりついて、もの言わぬ母を不思議に思っていた。
万感が胸を突く、過ぎた日々がよぎって行く。
『クレウサ。俺たちは、建国の使命を必ず成し遂げる。安らかに眠れ。』
彼は、瞑目して、妻を送った。
アスカニウスは、父のまとっている鎧の裾を、しっかりと握っているばかりである。通り過ぎる感慨は、瞬く間であった。アエネアスは、アレテスに声をかけて、穴の底に歩を運び、妻を横たえた。アスカニウスを抱いて穴の中におろした。ひとりは、愛していた妻に、ひとりは、慕っていた母にまとわりついて、もの言わぬ母を不思議に思っていた。
万感が胸を突く、過ぎた日々がよぎって行く。
『クレウサ。俺たちは、建国の使命を必ず成し遂げる。安らかに眠れ。』
彼は、瞑目して、妻を送った。